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第30話-1 国境都市での再会【ルード】

 翌朝、朝食を食べてすぐに、俺とアトリは馬に乗ってオアシスを出発した。


 ここからエーレクトラの国境にたどり着くまで、まだまだ日数を要する。

 必然的に一日のほとんどが馬を走らせる時間になり、必然的に色々と考えてしまう時間がたっぷりとできてしまい……必然的に、昨夜の出来事ばかりを思い返してしまう。


 アトリの背中に入った虫を捕まえるために、彼女の肌着(シュミーズ)の下に手を突っ込み、まさぐった出来事は、いくらなんでも刺激が強すぎた。

 指先が背中に触れた瞬間、仰け反るように背筋を伸ばしたアトリに、俺が背中をまさぐるのを我慢して震えるアトリに、敏感なところを触ってしまったのかピクンとするアトリに……認めたくないが……認めざるを得ないが……不覚にも、興奮を覚えてしてしまった。


 虫を捕まえた後は後で大概だった。

 散々まさぐったせいか、シュミーズはおろかドレスも乱れてしまっていて、アトリの顔が羞恥で真っ赤になっていて……不覚にも、余計に興奮を覚えてしまった。

 今すぐどこかの教会に立ち寄り、オルビスに向かって懺悔したい気分だった。


 頼むから、心の底から、あんなことはもう二度と起きないでくれと思う一方で、もう一度同じことが起きることを切望している自分がいる。

 思っている内容は完全に矛盾しているのに、俺の心の中では全く矛盾していないものだから、我が事ながら訳がわからない。


 そんな抱えたくもない煩悶を抱えながら移動を続けること五日、俺たちはようやく国境に到着する。

 国境には〈オルビスの傷痕〉と呼ばれる、幅五百メートルに及ぶ恐ろしく巨大な大地の裂け目が存在し、それがそのままマイアとエーレクトラとの国境の役割を果たしていた。

 それどころか、マイアとターユゲーテとの国境としても機能していた。


 以前にも説明したとおり、大地の中央部と西部がマイア、北西部がエーレクトラ、北部がターユゲーテの領土になっている。

 この二国とマイアの間に、幅五百メートルの裂け目が延々と続いていれば、統治の難易の関係上〈オルビスの傷痕(そこ)〉が領土の境目になるのは必然だった。

 国境で地続きになっている部分が、マイアとエーレクトラの西端と、マイアとターユゲーテの東端のみとなっているものだから、〈オルビスの傷痕〉のスケールは果てしないの一語に尽きるものだった。

 それほどまでに巨大な裂け目だからこそ、オルビスの名を冠せられたのだ。


 なお、この〈オルビスの傷痕〉がどうやってできたのかというと、言い伝えでは、歴史上最初の捧唱の旅が長引いた際に起きた大地震によってできたものらしい。


 正確な記録が残っていないため言い伝えが正しいかどうかは誰にも断言できないが、もしそれが事実だったと仮定した場合、捧唱の旅が長引くことは、第二、第三の〈オルビスの傷痕〉を生み出す恐れがあることを意味している。

 いつまでもくだら――なくはないが、とにかく、いつまでも煩悶を抱えている場合ではないと肝に銘じながら、〈オルビスの傷痕〉に沿って馬を走らせた。

 

 しばらくすると、〈オルビスの傷痕〉に架けられた大橋が見えてくる。

 文献によると、大橋は魔唱によって築かれたものらしく、その見た目は大地をそっくりそのまま橋に変えたような形状をしていた。

 当然、大橋はこの一本だけではなく、人と物が行き来しやすいよう、要所要所に築かれている。

 そして、これもまた当然の話だが、全ての大橋の両端には、それぞれの国の関所が設けられていた。


 アトリが指名手配されている以上、無策のまま関所に突っ込んでも、そこを防衛している兵たちのお縄になるのが目に見えている。

 だから今は関所を無視し、情報収集と食料等を補充するために、ここからもう少し行ったところにある国境都市アザーンに向かうことにした。


 馬の速度を調整して走ること二時間、日が落ち始めた頃にアザーンに到着する。


 アザーンは国境都市と呼ばれるだけあって、行き交う人の数はマイア城の城下町をも凌駕していた。

 朝から晩まで何かしらの露店が開いており、都市全体が常に賑わっているため、夜に子供だけ――そう見られることが多々あるのは大変遺憾だが――で出歩いていても、そうそう怪しまれることはない。

 都市中に街灯が灯っているといえども、夜闇は顔を見えづらくする。

 ゆえに、この時間帯に到着するよう速度を調整したのだ。


 ご多分に漏れず、石造りの建物と石畳が拡がるアザーンを、アトリの手を引きながら歩いて行く。

 露店が多いため基本的に大通り以外の道は狭く、人の多さと相まってごみごみしている。

 目の見えないアトリが歩き回るには少々きつい町かもしれないと思ったが、国境都市特有の活気のおかげか、アトリの表情は、カリストの町を歩いていた時よりもどこか楽しげな様子だった。

 食べ物系の露店が立ち並ぶ通りに入ると、目移りならぬ鼻移りをしているのか、アトリは首を右に左にフラフラと傾け始める。仕草の一つ一つがかわいらしい。


 そうだな……よし。

 情報収集は後回しにして、アトリに何か旨いものを食べさせてあげるとしよう。

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