第27話-1 大地に捧げし唱【ルード】
カルナンに操られたことで怒り狂っているのか、露骨に俺たちを狙ってくるピュトンと戦う覚悟を決めた直後、アトリが俺の袖を引っ張り、一枚の紙を見せてくる。
その紙には、
『わたしにまかせて』
ミーシャの文字で、そう書かれていた。
続けて、アトリは俺の方を指差し、自分の目を指差した後、拳打を繰り出すように拳を前に突き出してくる。
その仕草がちょっとかわいかったことはさておき、まさかアトリは、俺にこう伝えようとしているのか?
『ルードが私の目になって』と。
『私がピュトンを倒すから』と。
無茶だと思う一方で、これしかないとも思う自分がいる。
大森林地帯で、ウェアウルフに囲まれた時に使ったアトリの魔唱……あの力ならば、ピュトンを倒せるかもしれない。
そして、俺がアトリの〝目〟になれば、アトリの強力無比な魔唱を活かすことができる。
――だが。
頭では納得できても、心が納得できなかった。
見ようによってはアトリを兵器として扱うことを、心の底から護りたいと思った女性を戦わせることを、心が納得してくれなかった。
そんな俺の心中を見透かすように、アトリが俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
偶然か必然か、アトリに一目惚れしたあの夜のように、俺はアトリと見つめ合っていた。
光を知らない彼女の目が、音を知らない俺の耳に、雄弁に訴えてくる。
『私も一緒に戦う!』と。
……そうか。そうだよな。
俺たちは、お互いに欠けているところがある。
その欠けたところを補ってくれる人のために戦いたいと思うのは、当然の話だよな。
ならば俺は、言葉で答えなければいけないな。
「■■、■■■■」
ああ、わかった――と、声に出してアトリに伝える。
間違いなく発音が滅茶苦茶になっているという確信がある。
けど、間違いなくアトリに伝わっているという確信もある。
事実、彼女の顔には、俺の心を掴んで離さないほどに素敵な笑みが浮かんでいた。
――ッ!
ピュトンが動き出したか……!
二百メートルに及ぶ体を全て出し切るまで俺たちを襲おうとしなかったのは、奴の塒であるキュレネ山をこれ以上荒らしたくなかったのか、それとも頂上まで来た俺たちに逃げ道がないことを知っていたのか……いずれにせよ、ピュトンに感謝しなければならないな。
アトリと、より深く会話する時間をくれたことを。
――さあ、一緒に戦おう! アトリ!