第26話-1 怒れるピュトン【ルード】
思わず、安堵のため息をつく。
カルナンが死んだことで魔唱の効力が切れたのか、ピュトンは彫像のように固まったまま動くなり、脇腹の激痛と一進一退の攻防を繰り広げていた眠気も、嘘のように消え去っていった。
臓器を避けて刺したといっても、脇腹の傷は無視できないほどに深い。
だから俺は、ピュトンから離れた位置に移動すると、革袋から取り出した清潔な布を脇腹に押し当て、その上に包帯を巻いて応急ながらも止血した。
正直、カルナンの魔唱の効力が切れたことでピュトンが動かなくなったのは、かなり助かったと言わざるを得ない。
実際に戦ってみて痛感させられたが、確かに、魔唱なしでピュトンクラスの魔獣を倒すのは至難だな。師匠が言っていたとおりだった。
魔唱が使えない俺に護り屋になるよう師匠が奨めてきたのも、護り屋という職種なら、このクラスの魔獣と無理に戦う必要がないと考えてのことだったのかもしれない。
三分ほど休憩したところで立ち上がり、そこそこ体力が回復したことを確認してから走り出す。
ピュトンが、このままずっと動かないでいる保証はどこにもない。
だから、いい加減心配しているであろうアトリのもとに、可及的速やかに戻った方が得策なのだが……やはり、俺が最後に通った洞穴は土砂で塞がっているか。
ピュトンが出入り口を吹き飛ばしたせいだな。
走り回っていた時に、どの洞穴がどこに通じているかしっかりと記憶していた俺は、ここから少し下りたところにある洞穴へ向かい、中を覗いてみる。
ピュトンが通った影響で落盤が起きたようだが、道は塞がっていないし、これ以上崩れる気配もなさそうだ。
アトリが隠れている場所からは少し離れたところに出てしまうが、山肌を大回りしていくよりは、はるかに短い距離で済む。
ここを通ってアトリのもとに戻るとしよう。