第17話-2 カリストへ【ルード】
昨日補充した保存が利く食料を革袋に入れ、投げナイフを腰のベルトに差し込み、先程つくった煙幕玉を旅装のポケットに突っ込んで準備を済ませると、俺とアトリはいよいよカリストへ向かうことにする。
宿主に宿代を支払い、アトリがミーシャと少し長めの別れの挨拶を済ませた後、宿を出て村の外れに移動する。
そこには雑貨屋の店主が商品を仕入れる際に使用している荷馬車が停留しており、今日はちょうどカリストに用事があるということで荷台に乗せてもらうことにしたのだ。
もっとも善意で乗せてもらうわけではないので、カリスト到着後にきっちりと運賃を支払う約束になっているが。
移動中、あらかじめ買っておいた砂塵よけのローブをアトリに着てもらう。
直接手で触ってもらうことでローブにフードが付いていることを伝えると、アトリは得心するような顔をした後、ドレスの上からローブを羽織り、フードを目深にかぶってくれた。
一日もいれば住民全員の顔を覚えられる辺鄙な村とは違い、カリストはかなり栄えているらしく、人の出入りも多いと宿主は言っていた。
出入りする人の中に、唱巫女を狙う輩が混じっている可能性は決して低くない。
だから、アトリにフードの付いたローブを羽織ってもらうことで、銀髪金眼に白い肌という、何かと目立つナトゥラの民の外見的特徴を隠すことにしたのだ。
まあ、カリストにはマイア騎士団が常駐しているから、あくまでも念のためだが。
アルカスからカリストまで馬で一時間といっても、荷馬車が単騎の馬と同じ速度で走れるわけもなく、アルカス出発から一時間半後に俺たちはカリストの郊外に到着する。
郊外は、雑貨屋の店主と同じく商いで生計を立てている者たちの馬車でひしめき合っていた。
一方、町の中は行き交う人でひしめき合っており、町並みはナトゥラの民の集落同様、石造りの建物が軒を連ねていた。
もっとも、剥き出しの地面が拡がっていた集落とは違い、カリストの地面には石畳が敷き詰められているが。
このあたりの違いは、大地の神オルビスを信奉しているかどうかが関わっているのだろう。
実際、マイア国内で栄えている町のほとんどは、カリストと同じように石造りの建物と石畳が拡がっているしな。
石の神が実在していたら、そちらの方を信奉しかねない勢いだ。
カリストの町並みを眺めていると、雑貨屋の店主が物言いたげな視線を向けてきたので、さっさと運賃を渡すことにする。
孤児院が潰れて流浪していた割りには羽振りがいいことを、そろそろツッコまれるかと思ったが、アルカスの住民の人柄ゆえか、それとも金さえもらえれば文句はないのか、雑貨屋の店主は不審の目一つ向けてくることはなかった。
むしろ『毎度あり』とでも言いたげな笑顔を浮かべていた。
少々強引すぎる嘘をついてしまったと思っていたが、存外なんとかなるものだな。
一応店主に筆談で礼を伝えた後、アトリの手を取り、一緒に馬車を降りる。
地面に降りると、アトリは手を離してローブの下をまさぐり、一枚の紙を取り出して俺に見せつけてくる。
『ありがとう』
紙には、ミーシャの文字でそう書かれていた。
俺が煙幕玉をつくっている間に、ミーシャと二人で何かしていたことには気づいていたが、どうやら〝これ〟を用意していたようだ。
使いどころがあったことが嬉しいのか、満足げな表情を浮かべているところが、かわいらしいことこの上ない。
そんな素敵な一幕に満足したところで、今一度アトリと手を繋ぎ、俺たちはカリストに足を踏み入れた。