第15話-2 あ~ん【アトリ】
「あ゛~ぅ」
ルードくんの「あ~ん」に合わせて瞼を閉じ、口を開く。
口の中に入ったスプーンを咥えると、それを合図にルードくんがスプーンを引き抜き、口の中に残ったお粥をモグモグする。
ただそれだけの繰り返しが、なんだか妙に恥ずかしくて、なんだか妙に楽しい。
実を言うと、食器の位置と器ごとの料理の種類を教えてくれたら、私一人でもちゃんと食事をとることができる。
お粥はもちろん、スープやシチューといった汁物だって食べることができるし、コップに入ったミルクだってちゃんと飲むことができる。
だから、今のように食べさせてもらう必要はないんだけど、ミーシャちゃんが『ルードおにいちゃんがお粥を「あ~ん」ってえ食べさせてくれるって』って言ってたし、折角の厚意を無下にするのもどうかと思ったから……甘えることに、しました。
やっぱり……ダメ、かな?
出会ってからずっとルードくんに甘えっぱなしだったし……でも、もうすぐお別れになっちゃうから、甘えたくなって……あ~もう……私、どうしてこんなにルードくんに甘えちゃうんだろ……。
ただでさえ迷惑をかけてるのに。
ただでさえ苦労をかけてるのに。
私の方がお姉さんなのに。
……ちょっとだけだけど。
でも、甘えたからこそ、この妙に恥ずかしくて、妙に楽しい一時を過ごせてる。
ルードくんも私と同じように恥ずかしいと思っているのか、いつまで経ってもスプーンの動きがぎこちなくて、口で咥える度にルードくんの緊張が伝わってきて、なんだか、ちょっとかわいい。
普段のルードくんが物凄く頼りになる分、余計にそう思ってしまう。
「あ~う゛」
ルードくんの「あ~ん」が聞こえてくる。
あともう少しでお別れだから――この言葉を免罪符に、今はなにも考えずにこの一時を楽しもうと思った私は、ルードくんに向かってゆっくりと口を開けた。