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第12話-2 アトリの力【ルード】

 俺には無縁の言葉だが、あえて使わせてもらおう。

 俺は、アトリさんが引き起こした現象に絶句していた。

 いきなり俺に抱きついてきたアトリさんは、魔唱――結果的にそれ以外考えられない――を唱い、俺たちを護るようにして発生させた巨大な竜巻で、周囲百数十メートル内にある()()を吹き飛ばした。

 五十体近くいたウェアウルフどもを、木々を、ぬかるんだ地面の表層さえも吹き飛ばした。

 

 文献により、ナトゥラの民が唱力に優れていることは、その中で最も優れた力を持った若い女が唱巫女に選ばれることは知っていた。

 捧唱の旅を題材にした娯楽小説で、護衛よりも強い唱巫女が強力な魔唱を使って魔獣を薙ぎ倒すシーンを読んだこともある。

 アトリさんの唱力は、文献はおろか、設定が無駄に盛られているはずの娯楽小説でも見たことがないほどに凄絶だった。

 アトリさんの唱力は、歴代の唱巫女の中で最も優れているのかもしれないと思わされるほどに。


 ――こわいな。この力は。


 心の底から、そう思う。

 アトリさんの唱力は、一人の人間が抱えるには度が過ぎた力であり、人間相手に使う場合もまた度が過ぎていると言わざるを得ない力だった。

 剣や槍のような武器ではなく、大砲や爆薬のような――いや、それすらも凌駕した、兵器と言っても過言ではない力だった。


 だから、こわい。

 アトリさんの力を見て、彼女の存在そのものを兵器と見なし、他の兵器と同じように利用して使い捨てようとする輩が出てくるかもしれないから。

 アトリさんの力を恐れ、彼女に心ない言葉をかける輩が出てくるかもしれないから。

 そんなことになったら、アトリさんの心がどれだけ傷つくかわかったものじゃない。

 それが、恐くて、怖くて、たまらなかった。

 

 魔唱を使ったことで、なけなしの体力が底をついてしまったのか、アトリさんは俺に抱きついたまま気を失っていた。

 彼女が、疲弊した俺を心配して無茶をしたのは明らかだった。

 アトリさんを愛おしく思う気持ちがますます膨らんだが、同時に、自分のことを情けなく思う気持ちも膨らんでいた。


 実のところ、ウェアウルフ如きが百体集まろうが、俺が後れを取ることは絶対にありえない。

 だが、それが何だというのだ。

 ほんの数時間走り続けた程度で息切れして、アトリさんに心配させてしまい、無茶をさせてしまった事実に変わりはない。

 そもそも、音が重要な情報源であるアトリさんの前で息切れしたら、こちらが思っている以上に事を深刻にとらえてしまい、心配させてしまうのは自明の理だろうが。

 これは体力も思慮も足りなかった、俺の未熟さが招いた事態だ。


 足止めをくらったせいで時間も体力も削られてしまったが、そんなことはどうでもいい。

 すぐに再出発すべきだと思った俺は、意識のないアトリさんを背負い、革袋から取り出したロープで俺と彼女の体を縛って固定し、走り出した。

 必ず今日中に森を抜け、人里を見つけ、アトリさんを休ませる。それだけを心に刻んで。

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