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第12話-1 アトリの力【アトリ】

 熱のせいで朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めながら、ルードくんが戻ってくるのを待つ。

 少しして、ウェアウルフと思われる魔獣の群れを退治し終えたルードくんが私のところに戻ってくるも、普段のルードくんからは考えられないほどに息切れしていた。

 ただ、おぶられてるだけの私が疲れるくらい長い時間走り続けていたところを、ウェアウルフに襲われたんだもの。

 ルードくんでも疲れちゃうのは当然……だよね。


「ちっ」


 突然、ルードくんが忌々しそうに舌打ちをする。

 どうしてだろうと思ったら……これは、狼の唸り声?

 ということは、ウェアウルフの群れがまたやってきたの!?

 ルードくんの息遣いは、まだ全然整っていない。明らかに疲れ切ってる。

 そんな状況でウェアウルフに襲われたら、いくらルードくんでも……。


 思い出すのは三日前……唱巫女わたしを狙う人たちに襲われて、声も出せず、魔唱も唱えず、恐怖で震えていただけの自分。

 その時に聞いた、護衛団の方たちの悲鳴は、今も耳に残っている。

 私がちゃんと魔唱を唱えたら助かった人がいたかもしれないのに、恐くて、怖くて、唱えなかった。

 私を護ったせいで人が死んでるかもしれないのに、私はなにもせずに、ただただ震えていただけだった。


 恐い……。


 怖い……。


 こわい……っ。


 私がなにもしなかったせいでルードくんが傷ついてしまったら、私を護ったせいでルードくんが死んでしまったら……恐くて、怖くて、たまらない……っ。


 居ても立ってもいられなくなった私は、傍にいるルードくんの気配に向かって両手を伸ばし、宙に彷徨わせて彼を求める。

 その様子が見えていたのか、地面に膝をつく音が聞こえたのも束の間、ルードくんの方から私の手を握ってくれた。

 私の手が震えていたせいか、ルードくんは『護ってやる』と言わんばかりに優しく、『心配するな』と言わんばかりに強く、手を握ってくれた。

 

 違う……違うの……。

 私が震えているのは、魔獣がこわいからじゃないの。

 ルードくんばかりに無理をさせて、ルードくんばかりに無茶をさせて、そのせいでもしルードくんが…………何度も『死』という言葉を連想したくなかった私は、思わずかぶりを振ってしまう。

 それを見て伝える〝言葉〟を間違ってしまったと思ってしまったのか、私の手を握るルードくんの手は、戸惑うように動きを止めていた。


「だったら……!」


 あえて声に出し、三日前の自分とは違うことを確認する。

 風邪のせいで声がかすれちゃってるけど、きっとやれる。

 ううん、やってみせる……!

 ルードくんの手を、両手で包み込むように握り締める。『私に任せて』という想いを込めて。

 でも、今までルードくんに頼りっぱなしだったせいか、さすがに伝わらなかったようで、ルードくんの手は戸惑うように動きを止めたままだった。


 ウェアウルフの群れが少しずつ近づいているのか、周囲から聞こえる唸り声が段々近くなってる。

 もう時間がない。

 だったら…………えぇいっ!!

 自分の感覚と、握った手の位置を頼りに、私はルードくんに抱きついた!

 ますます戸惑ったルードくんが、体をカチンコチンに固まらせた!

 うん! これなら大丈夫!

 これなら目が見えなくても、()()()()()()()()()()()()()()()()


 魔唱の威力は唱の美しさにも左右される。

 だから、さっきみたいな、かすれた声を出すわけにはいかない。

 喉が潰れたって構わない。

 ルードくんのために唱いなさい!

 アトリ・スターフル!


「《踊れ》」


 最初のフレーズを唱った瞬間、ウェアウルフのざわめきが聞こえてくる。


「《逆巻け》」


 野生の勘が働いたのか、仲間に警告するような唸り声が聞こえてくる。


「《荒れ狂え》」


 ウェアウルフが駆け出す音が沢山聞こえてきたけど、私の方が早い!


「《深緑の竜よ》!」


 直後、私とルードくんを中心に発生した巨大な竜巻――〝エメラルドテンペスト〟が、私たちの周囲に存在する()()を吹き飛ばした……。

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