第7話-1 朝の一時【アトリ】
どこからか差し込んできた、お日様の暖かさを肌で感じ取り、わずかに瞼を開ける。
……あれ? なんか、ベッドと毛布がいつもと違う気がする……。
ベッドに関してはもう地面そのものだし、毛布に至ってはただのマントだし……ふぇ? マント?
………………………………………………あ。
そそそそうだっ!!
私は集落を出て森に入って襲われてルードくんに助けられていつの間にか寝ちゃって!
と、とにかく起きなきゃ!
「ぷっ……くく……あははははっ!」
上体を起こした瞬間、男の子の笑い声が聞こえてくる。
これルードくんの声だよね!?
思ったよりもかわいい笑い声……というのは今は置いといて!
どうしてルードくんが笑ってるの!?
もうなにがなんだかわからずにオロオロしていると、ルードくんがチョイチョイと髪を引っ張ってきて……って、まさか!?
すぐさま頭をまさぐってみると、髪の毛があっちこっち好き勝手に自己主張している感触が、嫌というほど手のひらに伝わってくる。
寝癖がひどいことになってるぅ!
どれくらいひどいか自分で確認できないから、余計に恥ずかしい……。
手櫛で髪を寝かせてみるも、手を離した瞬間に元気よくピョンと跳ねる感触が伝わってくる。
あっ、またルードくんが「ぷくく」って笑ったぁ……。
寝てる私にマントをかけてくれたことはありがとうだけどっ、何度も笑うのはひどいと思うっ。
私が不服全開で頬を膨らませていると、ルードくんはわざとらしくため息をつき、私の体にかかっていたマントを回収してから、私の手を取って『隠れる場所』の外に出る。
歩き出してすぐに聞こえてきたのは、川のせせらぎだった。
歩けば歩くほどに音が近くなっているということは、どうやらルードくんは、川の水を使って私の寝癖を直してくれるみたい。
川にたどり着いたのか、ルードくんは立ち止まり、私の両肩を押さえることで『座る』を伝えてくる。
促されたとおりに地面に腰を下ろすと、ポチャンとなにかが川に浸かる音が聞こえてくる。
その後すぐにルードくんが濡れた手で私の髪を撫でてきたので、さっきの音はルードくんが手を濡らした音だと確信する。
ルードくんは濡らした手櫛で、丁寧に私の髪を梳いてくれたけど、
「ぶふ……っ」
噴き出すように笑われたぁ……。
たぶん、私の寝癖がちょっと濡らした程度じゃ直らないくらいに頑固なせいなんだろうけど……やっぱり笑うのはひどいと思うっ。
何度も梳いてもらったことで、ようやく寝癖が直ったのか、ルードくんの手が止まる。
次の瞬間、笑いを堪えるように「くくく」と喉を鳴らし始めたので、私は思いっきりむくれながら、両手でポカポカとルードくんを叩き、『笑わないで』と抗議した。
けど、
「んっ……くっ……あはははははっ!」
もっと笑われた!?
むむぅ~~~~っ!
「もうっ!」
ますますむくれた私は、ルードくんの気配を感じる方向からそっぽを向く。
なぜか余計に楽しげに笑われたのは、とっても不服ですっ。
笑ってばかりいる人のことはほっといて、せっかく川に連れてきてもらったんだから顔を洗うことにしよっと。
川辺は砂利や石が多いので、手を切らないように気をつけながら地面をまさぐり、川ににじり寄る。
指先にひんやりとした水の感触を得て、地面と川の境界を把握した後、できる限り川に近づき、両手で水を掬って顔を洗う。
はぁ、気持ちいい……。
顔を洗い終えると、見計らったようなタイミングで、ハンカチと思われる布が私の両手にかけられる。
今といい、寝てる私にマントをかぶせてくれたことといい、ルードくんは本当にマメで優しくて……あ~もう、笑われたくらいでむくれた私の方が子供みたい……。私の方が一つ年上なのに……。
素直にルードくんの厚意を受け取った私は顔を拭きながら、ふと思う。
なんでルードくん、私の寝癖が直った後も、あんなに笑ってたんだろ?