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6.勇者、名付ける。

「それじゃあ、あなたのお名前は?」

「名前?」


 新しい仲間(?)と手を繋ぎながら下山する。

 祠の中は暖かかったが、一歩外を出ると、雪が木々に積もり、吐く息は途端に白く染まった。

 下を見れば雲がある。寒いのは当然か。

 加護持ちの勇者(わたし)はある程度は、温度の緩和がされているが、それでも肌寒く感じる。

 一方、隣の子供は寒さなんて感じないと言わんばかりに辺りを眺めている。


「そう名前、ってあれ? 喋れるの?」

「うん!」


 この子は普通に返事を返してきているが、祠では一切喋っていなかった。龍の姿だと喋れないとかそんな所だろうか。


「そ、そう……、それで名前とか無いの? 今までなんて呼ばれてたの?」

「んーと、まご!」


 下山開始早々だが、私は頭を抱えた。

 龍には名前を付ける習慣がないのだろうか、確かに龍神様も龍神様としか呼んだ事が無いし、本人もそれしか名乗ったことがない。

 他に龍なんて見た事もないし、わからない。

 そもそも、他の龍は滅多に人前に現れない。

 以前はこの五大陸を手中に出来る程の龍種が居たらしいのだが、その殆どが龍神様の贄となった。

 今では確認出来た龍は、両手両足があれば足りる。

 それほどまでに犠牲にしなければならない神の召喚をした龍種とそれを許容した龍神様の考えは、当時の龍にしか分からない。

 脱線したが、とりあえず、名前がないと不便だ。


「じゃあ、呼びやすいように何か呼び名でも決めよっか」

「じゃあまご!」

「却下」


 そんな名前許可できる筈がない。

 と言うか、名前かどうかすら怪しい。


「えー」

「呼び名でもなんでもないし、私の孫みたいになるから却下です」

「うー、じゃあままが決めて!」

「私はママじゃありません」

「ままぁ、にへへ」


 繋いでる手に頭をごしごしと擦ってくる。

 懐かれる分にはいいんだけど、これからこの子と二人で死地に向かうとなると多少……、いや、多分に不安だ。


「はぁ、じゃあ、そうね……、綺麗な赤い瞳からルビーとか」

「や!」

「即答かぁ……、じゃあ白い髪でシロ……」


 自分の考えが安直なのは否めない。


「シロ! うん! それがいい!」

「じゃあ、シロで決まり。そう言えば私の名前教えてなかったっけ、私はイリナって言うの」

「イリナママ!」

「違います。イリナだけです」

「ママ!」

「イリナを抜いてどうするんですか」

「マ!」

「それは全てを間違えてます」

「ママ!」


 これはイリナと呼んでもらえるのは当分先だろうか。


「はぁ、まぁ今はシロがどこまでやれるのかを見るほうが先か」


 ため息をすると幸せが逃げるって言われてるけど、ため息の神様もこれくらいなら許してくれる。はず。

 そもそもため息の神様が居るのかは不明だ。ため息の神様の加護を持った勇者なんて今まで見た事がないからね。


「ママと一緒に悪者やっつけるの!」

「はいはい、それじゃあ、街の横から山を降りて街でご飯……ってそうだ……」


 お金あんまり持ってないんだった。

 ジンにもう一度会える可能性が見つかって浮かれていた。

 ゆっくり降りると丸一日はかかる。

 霊峰には食べれそうなものは何もない。また空腹で動けなくなるのは御免だ。


「シロ、私の背中に登っておいで」

「ふぅん?」


 要領を得てないが、よいしょ、よいしょ、とよじ登ってくるのを確認し、落ちないようにしっかりと支える。


「よし、じゃあ一気に降りるよ。落ちないようにぎゅっとしといてね」

「はぁい!」

「"跳んで"」


 下方に見える米粒のような街の少し左に向けて、大きく跳躍する。


「――うわぁ! すごいすごいすごい!」


 さきほどまで居た場所は、既に遠く後ろの方にあり、急激にその景色を変えていく、一時的だが歩く目的の無くなった足はぶらんと宙を満喫している。

 どれくらい飛んだのかあまり分からないが、このまま滑空すれば(ふもと)までは降りれる程度には跳んだ。


「シロって龍だから飛べるんじゃないの?」

「こんなに高く飛んだの初めて! まますごぉい!」

「勇者はみんなこれくらい出来ないと」


 加護によっては出来ない勇者も居るだろうが、それはそれは、私は出来るので次の勇者くんも頑張って欲しい。


「そうなんだ! 私もゆうしゃになりたい!」

「いや、それは無理じゃないかな、シロは龍神様になるんでしょ」

「やだ! ゆうしゃになりたい!」

「龍神様は勇者よりも、もっともっとすごい事いっぱい出来るのに?」

「そうなの? じゃありゅうじんさまになる!」


 この子は扱いやすいと思った瞬間である。


 数分の滑空時間も終わりが見えてきた。

 ただ、このまま地面に落ちれば間違いなく死ぬ。

 晩鐘が私の名前を指し示しちゃう。


「"浮いて"」


 地面に吸い込まれていた体が、徐々にその勢いを失っていく。

 地面に着く頃には、まるで歩くかのような速度へと変わっていた。


「じゃあ、これからこっそり街に入ろうか」


 時間は深夜。

 子供(シロ)が起きているといけない時間だが、元々一人で帰ってくる予定だったので、今日だけは子供の神様も許してくれるはず。

 いや、子供の神様はきっと我儘だから許してくれないかも知れない。

 その時はその時。

 私の加護を与えている神様達に泣き寝入りする所存だ。


 シロは人の姿なので、抱えてこっそり街に入る。


 どうにか、この時間でも開いていた宿屋に話をつけて一室見繕ってもらった。


 明日から長旅になる。

 金銭面の事も考えないと……。

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