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3.勇者、孫と遊ぶ。

 龍を抱きかかえ、祠の中を歩く。

 余り綺麗とは言えなかった入り口とは違い、内部は比較的状態が良く、灯りもついている。

 龍神様の読書を邪魔しないようにと退出したのだが、どこかアテがある訳でもなし、ただトボトボと何処に続くかも分からない道を歩いていた。


「どこに向かおっか」

「きゅい!」

「何して遊びたいとかある?」

「きゅいきゅい!」

「他の龍たちはいないの?」

「きゅいぃ!」

「……ごめん、頑張ったけどやっぱり龍の言葉はわからないや」


 そもそも、龍に言葉があるのだろうか?

 龍神様が喋れるのだから、意思の疎通は可能なはずだが、この龍は腕ほどの長さしかなく、龍神様に比べれば幼く感じる。元々意思の疎通が出来ない可能性が出てきた。

 それにしても、孫らしいがあんな厳つい龍の孫がこんな可愛くて良いのだろうか。

 白く透き通った肌と、人懐っこい性格、人が見れば常識が覆されるようなものだ。

 龍とは超越した者であり畏怖される存在であり、決して超えられぬものである。

 その頂点たる龍神のお孫さんがこれでは、私が心配するのは筋違いだが将来が些か不安になる。


「きゅい……」

「今のは残念、でしょ」

「きゅい!」


 頭を縦に振り、ぐりぐりと顔に擦り付けてくる。

 完璧な意思疎通は出来ないものの、この龍は私の言っている事は理解出来ているようだ。それならまだ何とかなる……はず。


「じゃあ適当な場所で遊ぼっか」

「きゅぃ!」


 気持ちは焦っているが、龍神様の答えを貰うまでは何も出来ない。それならば、言われた通り遊ぶしかない。それで気持ちを紛らわせるのも手段としては十分有効になろう。

 そのまま、突き当りを右に曲がったり左に曲がったり、龍に腕を絡められて引っ張られたり、顔を涎まみれになるまで舐められたり、成されるがままになっていたのは割愛しよう。途中犬かと思ったが、そんな事を口に出して万が一にでも龍神様に聞かれでもしたらどうなるか分からない。

 触らぬ神に祟り無し、口は災いの元とはよく言ったものだ。


 広場に出ると、するりと龍が腕から抜けた。先程までの人懐っこさはどこへ行ったのやら。

 そのまま、距離を保つように向かい合って――――炎を吐いてきた。

 私の数倍の大きさを誇るであろうそれは、殺傷能力はそこまで高くないが、直撃すればかすり傷では済まないだろう。いや、私だからその程度で済むが普通の人間では確実に人を殺せる。


「"水よ"」


 遊ぶと言われた時点で、こうなると思っていたので驚きは無い。

 片手を前に出すと、目の前に波が現れた。それは、炎を飲み込むと何事も無かったかのように消え去る。と、同時に龍の頭が眼前に迫ってくる。

 肉眼で確認しながら、振り上げた手刀を下ろす。


「こらっ!」


 先程の不意打ちとは違いこちらも構えている。遅れを取れると思ったら大間違いだ。

 吸い寄せられるようにぶつかるそれは、常人では頭蓋骨が割れているであろう鈍い音を立てながら龍の速度を殺した。


「きゅいぃぃ!」

「いきなり火を吐いてはいけません。ちゃんと礼をして戦闘の合図を待つのです。それが模擬戦の流儀です」


 余程痛かったのか、瞳には大粒の涙が浮かんでいるが、ここで甘くしてはいけない。

 もし、私以外がこんな事されれば間違いなく殺人事件ものだ。

 ここは龍の祠だが人が来ないわけではない。

 どこぞの偉い人や、武人が年に何人も来ている。

 それに今年は去年の非ではない程の人が、龍神様の目を頼りに来るはずだ。龍神様の目は万物を見通すと言われている。魔王が死んだ今、次の魔王の早期発見が人種の生存率に大いに関わってくる。それに、勇者(わたし)を探す人もいるだろう。

 そんな時に孫がじゃれて誰々が死んだとかシャレにもならない。


「きゅぅぅ……」

「そんな可愛い声出してもダメです。ちゃんと出来たら遊んであげますから」

「きゅいっ!」


 くねくねと距離を取って、頭を下げる。

 私も礼を返して手刀を構える。

 (これ)は使わない。先程で力量は測れたので、手でも問題ないはず。それに、うっかり私が龍神様の孫を殺したりでもしたら、この大陸にも危機が迫る。


 何故か手刀を構えてから遠距離から火を噴くしかしなくなっていたが、日が暮れるほどやったら満足したのか、今は首に巻きついてウトウトとうたた寝をしている。

 頭を撫でながら祠内を歩く。

 目指すは龍神様の場所なんだが―――行きはよいよい帰りは怖いとは良く言ったものだ。完全に迷子だ。

 呼ばれた訳でもないので、急ぐ必要もない。適当に歩いていれば着くだろう。そう思った自分を怒りたい。ここがどこだか皆目検討もつかない。

 マフラーもとい龍神様の孫を起せば良いのだと思うが、顎を撫でてやると気持ちよさそうに「きゅぃ」と鳴く様子を見ていると無理に起す気が失せてしまう。

 それにしても孫と言っていたのだから、龍神様の息子や娘はどこへいったのだろう。

 普通であればこの祠内に居るはずだが、それらしき姿を見ない。


 ――――どれくらい歩いたか分からない。

 まだ出口は見えない。と言うか、内部が入り組みすぎていてここがどこかも分からない。

 勇者(わたし)とて腹は減る。動くと疲れる。マフラーは起きない。

 さっき限界を迎えてとうとう孫を起そうとしたのだが、全く起きない。起きる気配すらない。ただ、顎を撫でると可愛く鳴く。

 有り体に言えば万策尽きた。

 適当な部屋に入って、この子が起きるのをじっと待つ事にした。


 お腹すいた。

 これからのお金の工面も考えないと、おいしいもの食べたい。

 龍神様はあれを読んで協力してくれるだろうか。

 断られたらやだなぁ。

 龍神様の目は私の居場所をいつでも捕らえれる。

 そりゃあ、加護を使えば隠れるなんてお茶の子さいさいだけど、四六時中加護を使うなんて無理、いつか襤褸(ぼろ)が出る。

 だから、返事次第では私は――――――憂鬱だな。

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