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1.勇者、途方に暮れる

プロローグの修正をしました。

イリナの髪の毛の色が何故か違っていたので戻しました。(白から青に変更しました。)

 はぁ。


 思わずため息が零れる。

 私がここ国に来た目的はただ一つ。霊峰に住んでいる神龍様に会う為。

 それが、ある一定の身分の者しか足を踏み入れる事を許されないと言われた。

 身分を隠している以上、堂々と入る訳にもいかず。かと言って、強行突破をしようものなら、確実に身元がばれる。


 歴代の勇者は特色が激しいと言うか、加護を貰う神様によって、力の種類が根本的に違う。

 "力"の神の加護を授かった勇者は、圧倒的な筋力を誇り、山すら持ち上げたと言われる。

 "風"の神の加護を授かった勇者は、世界の端に渡るまで嵐で埋め尽くす事が出来たと言われる。

 言い換えれば、それは、唯一無二の絶対的な力であって、他の誰かが真似をする事は到底出来ない。

 私も例外ではない。

 ため息の一つや二つ出るに決まってる。


 唯一、賢者がそれに近い事を出来るかも知れないが、彼はもう居ない。

 この世界にもう賢者(かれ)は存在しない。


 救いがあるとすれば、私の力は賢者(かれ)以外知らない。

 だが、それでも時間の問題なのは明白。


 どうしよう。


 心労からか、また、ため息が漏れる。

 龍神様に聞かなければならない事がある。

 会わない選択肢は存在しない。会わなければ私は前に進むことすら出来ない。


 クヨクヨしても仕方が無い。泣きたい心に鞭を打ち正す。


 ポーチの中身を見る。

 逃げてきた時よりもずいぶんと軽くなったポーチ。

 中身が消滅したわけではなく、路銀が無くなったのだ。

 まだ少しは大丈夫だろうが、そんなのは時間の問題。出来ればすぐにでもどうにかしなければならない。

 一番手っ取り早いのは、魔物を狩る事だろうか。

 紛いなりにも――紛いも何も正真正銘の――勇者なのだから、魔物に遅れを取ることは無い。

 それこそ、全力で行けば龍神様にも勝てる。と思う。多分。

 いや、どうだろう、今の私は全力を出すことが出来るのだろうか。

 まぁ、全力を出せば大抵の敵は何とかなる。

 だが、リスクはある。

 勇者だとバレずに冒険者を続ける事が果たして可能かどうかだ。

 これは隠し通せる自信が余り無い。と、言うのも、私の加護が特殊なのが原因だ。

 "力"の神様や、"技"の神様の加護なら加減をして隠すことも出来ただろうが、私の加護はあまりにも特殊すぎる。

 加護無しの私は、精々少し剣が得意な少女と言った所だろう。


 一応、剣王の称号を持ってる人とは互角に渡り合えるが、所詮その程度だ。

 全力には程遠い。


 だが、メリットが無いわけではない。


 まずは、短期的に高収入が見込めそうな点。曖昧なのは私が実際にお金に変えたのが、ここへ来た時だけだからだ。さっきはこんなに貰えるなんて思ってもいなかったので目が飛び出るかと思った。

 もしあれが普通なら当分の路銀を一気に稼ぐ事が可能だろう。

 次に、冒険者にもクラスが存在する。

 見習いの"銅"から、"赤銅"、"青銅"、"銀"、"金"、"黒金"、そして、伝説と謳われる"白金"まで。これは冒険者の強さを表すと同時に身分を表している。

 "白金"なら中流貴族と同程度の身分を用意され、霊峰に入る事も可能。

 "白金"までは行かなくても"金"から霊峰に入る事が許可される。

 まぁ、そんな大胆な事をすればバレるのは必至なのだが……。


 マイナスな方にしか行かない思考をウンウン唸らせながら宿に戻る。

 途中で何度ため息をついた事か。

 そのまま、日が暮れるのをじっと待つ。

 いや、じっとはしていないか、宿でご飯を食べながら待つ。

 辺りが暗くなり、外灯が頬を焦がす。


(……さて、忍ぶか)


 街から抜け出し霊峰を囲う外壁へと向かう。

 門から入るのがダメなら、他から行くしか手がない。

 冒険者になって地道にクラスを上げるのは、リスクが高すぎる。それに、時間がある訳でもない。

 他の人間に先を越されては、私の分が悪くなってしまう。

 出来るだけ急がねばならない。


「"強く、飛んで"」


 勢いよく地を蹴る。

 目の前にある外壁を軽々と超え、内側へと潜入する。

 あの様子だと見張りも気付いてはいないだろう。

 そのまま、足を休めず登る。

 見張りが居る可能性を考慮して、正規の道は走らない。普通なら登る事が困難な斜面も私の加護には無意味に近い。


 どれくらい走っただろうか。

 気付けば下に雲がある。

 吐く息が徐々に白く染まり、吸う息が苦しくなってくる。

 毎回なる現象だが、やはり慣れない。空気を取り込もうと呼吸が小刻みに震える。

 まぁ、山をこんな速度で登るのは古今東西探しても私しか居ないだろうから、この悩みを誰かと共有する日はきっと来ないだろう。前に上ったときも何故か走っていたっけ。


 木々の間を縫い、這う様に走っていると、山頂付近から龍の咆哮が耳に届いた。

 だが、記憶にある龍神様のそれとは違う。もっと甲高く、弱々しい。


 そんな事を考えていると、遠くに祠が見えた。

 あそこに龍神様が住んでいる。

 前に来た時はフルプレートだったし勇者と名乗らなかったから、私と判ってもらえるだろうか。もしかしたら、不届き者扱いされるかも知れない。いや、実際に不届き者なんだが。


 祠は一言で表すなら、みすぼらしい。だろうか。

 開ける扉は無く、奥を覗いても乾いた風と暗闇だけが応えてくれる。

 ここまで来ると見張りも居ない。


 私は意を決して足を踏み入れた。

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