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8.勇者、また考える。

 次の目的地はエルフの住まう国、とは言ったものの、そんな二、三日目で着くような距離ではない。

 絶崖橋まで順調にいって半年からそれ以上。橋を渡った後も首都までは更に半年以上かかる。町から町を跨いで移動する。

 それに、今回は手掛かりが何一つない。エルフの国に行くのも、正直に言えば当てずっぽうだ。しかも、まだ、この南大陸に何も無いと決まった訳では無い。ドランは流石に龍神様のお膝元なので魔神も何もしてないだろうが、他の町だと痕跡や何かがあるかも知れない。

 伝承でも文献でもなんでもいい。

 足掛かりになるのであれば、どんな些細な情報でも欲しい。

 本来は中央大陸に戻って、次の魔王の襲来に備えるのが、勇者の本当の役割なのだが、魔王の魂を集めている可能性がある以上、出来るだけ魔王は討ちたくない。

 魔王の魂の数が満たされれば、贄とされるだろうから、それだけは何としても阻止しなければならない。

 ある意味私が勇者で良かったと、心のどこかの私が安堵していた。

 それが、どれ程の被害が出るのかを知っていながらも。


 勇者としては失格だと思う。

 魔王を殺したくない勇者、存在そのものが矛盾している。

 私が勇者らしかったのと言えば、魔王を殺した事くらい。勇者の最終目標をやってのけたのだから、勇者とは言えるのか。


 乾いた笑いが口から零れた。


 あの日、あの時の記憶が蘇る。

 彼の胸からあふれ出る血、(おびただ)しいほどのそれは、出口を求めるかのように、床に、剣に、私に降り掛かった。視界が赤く染まる中、もう手遅れだとそう悟らされた事、剣の感触、肉を突きぬき心の臓を穿った事、それでも最後まで愛していた事、それさえ殺した。それをやったのは紛れも無い私。城壁を登り頬を照らす太陽がこんなにも来て欲しくないと、そう願った。こうなる事も全て予想出来たのに、彼なら何とかしてくれると、こんな未来はきっと来ないと、無情にも彼の気持ちも考えなかった私は残酷で、卑怯で、愚か者だ。

 全て全て、私がやった。


「まま? どうしたの?」


 シロの言葉に己の手を見ると、無意識に手が震えていた。

 瞳から溢れそうになる涙を零さないように――シロに見られないように上を向く。


「……ううん、なんでも無いよ。昨日の夢が少し怖かったの」

「怖いのはシロがやっつける!」

「ありがとう、でもシロはまずもっと強くならないとね」

「うん!」


 やめよう。これ以上思い出すと気が滅入りそうだ。


 話を戻そう。魔物だが出来る限り遭遇したい。

 街を出る前に、組合に寄って、魔物の相場や素材になるものが記された本を一冊買った。

 魔物を沢山倒した所で持ち帰れなければ意味がない。

 なら、必要な部分だけ切り落とし、そこだけを持ち帰れば良いのではと思いついたのだ。

 冒険者組合には登録していない。直接商人に売るつもりだ。

 少し相場より売値が下がるそうだが、登録してバレるリスクに比べれば、幾分もマシだろう。


 大型の魔物はやめて欲しい。

 持ちきれない部分が多いのと、大きさは強さを表すとも言われている。と言うか、単に大きい魔物ほど、成長してるから強い。強い魔物とは戦いたくない。そんな安直な考えなんだが、やめて欲しい。


 私に魔物を探知するような加護があれば良かったが、良さげなものが思い付かない。シロを見ても腕に抱き付いているだけで、何か妙案が出てくるはずもない。


 諦めて、次の街を地図で確認する。


 ここからだと、そこまで遠くない。精々、三、四日ほどだろう。

 それまでに魔物の一匹でも狩れれば御の字。

 あまり素材にならない魔物も居るが、ここら辺に生息している魔物の大半は需要が高く、換金する額も高い。

 ブラックウルフを二匹程売ったが、残りの五体を火葬せずにもし売っていたら……。

 ゴクリと喉がなったが、シロには聞かれていないようだ。良かった。


 龍の国での魔物はその殆どが貴重であり、個体数が少ない。故に殆ど魔物に出会えないそうだ。

 まぁ神様ご自身が自ら庇護してる場所だから、悪しきものは寄せ付けないのだろう。


 だが、そうなると、シロの実力も見れない。

 祠内での遊びはしたが、全力ではない。なので、子供だけを戦わすのは不本意だが、次の戦闘はシロにだけ任せたい。


 街を出てから二日が経ったが、一向に魔物が出てくる様子はない。

 1体だけでも出会っておきたいものだが、そう簡単にはいかないようだ。この二日で覚束ないがシロも野宿を覚えた。


「まま! お水汲んできた!」

「まま! 一緒におねんねしよう!」

「まま……といれ……」

「まま、おばけ本当に出ない?」


 この二日で私もママ呼ばわりに慣れつつある。決して本意ではないのだが、こうも何かあるたびに呼ばれると嫌でも反応してしまう。

 魔族と人間の間に子供は生まれない。今まで生まれた事がない。

 欲しいとは願ったが、所詮叶わぬ夢、(おぼろ)げに浮かぶ幻なのだ。

 それに、こんな私があの人との子供を強請るのは強情だろう――。



「――――ひゃああああぁぁあぁぁああ!」


 道の先で、男の声が耳に届いた。


「シロ、様子を見に行こう」

「はぁい!」


 黄昏時、魔物や盗賊が活発になり始める時間。

 急がないと手遅れになるかも知れない。

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