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プロローグ前編

初めましての方は初めまして。

新シリーズ書きます。

良ければブックマークや感想等頂けるとすっごく嬉しいです。

「お客さん、ここらじゃ見ない顔だね」


 鬱蒼(うっそう)とした森を一台の馬車が走る。

 荷台には5人の男女が座っていた。

 5人という言い方には少し語弊がある。正確に言えば、4人と1人。

 4人は元より仲間であるようで、和気藹々(わきあいあい)と活気付いているが、隅に座っていた女性の方は年齢層も違えば雰囲気も違う。極めつけは4人が酒を飲みだし、絡まれるのも嬉しくないと避難の意味も込めて、御者席の方へと腰を下ろした。

 本来、御者席に座るのはダメな事ではないのだが喜ばれる行為でも無い為、法には触れないがご法度だと暗黙の了解がある。

 御者もそれを分かっていて少し苦笑いをしたが、後ろを見て確かに居づらそうだと、乾いた笑いと共に自らを納得し女性へと言葉をかけた。

 それに、隣に若く美しい女性が座った事を悪く思うはずも無い。もっと言えば、御者も少し暇だったのだ。


 眼前に佇む、空をも越える山。

 龍が住まうこの山は霊峰とされ、その加護の元にあるこの地域は比較的魔物の発生率は少なく護衛無しでもほぼ安全に町と町を移動することが出来る。

 最近は以前よりも少しだけ魔物との遭遇率が増えたらしいが、誤差と言える範囲である。

 賊の類も居るには居るが、沢山の荷物を扱う商団でも無し、襲っても旨みはほぼ無い。故に賊が通っても襲われる事は殆どない。

 そんな中、一人で黙々と馬車を引くのだ。暇にもなろう。


「ええ、中央大陸から来たので」

「へぇ、それは大変だったでしょう。もう1年ほど前とは言え、ベルヘルク陛下が亡くなって、未だに治安も悪いでしょうに。やっぱりこっちへは移住しにですかい?」

「まぁ、そんな所です」

「それにしてもまだお若いのにご立派な剣ですね。お客さんも剣士様ですか? まさか……騎士様とかじゃ……」

「いえ、私は何も地位を持っていませんので、畏まらなくて大丈夫ですよ」

「そいつは良かった。騎士様に気安く喋ったりでもしたら殺されてても文句言えませんからね」


 と言ってはいるが、実際に騎士と思わしき人にはこんな気軽に喋らない。元より冗談なのだろう。


「そう、ですね」

「良かったら、着くまでこっちに居てもらって構いませんよ、後ろはほら」


 先程から後方の音がうるさいのは分かっていたが、御者に言われ改めて見ると、こちらの気苦労など知らんと言わんばかりに更に声が割れた。

 大笑いしてる男、それに釣られてケラケラと笑う女、実に楽しそうだ。

 荷台の奥では馬車酔いか酒酔いか、荷台から顔を出し汚い音を立ててる奴もいる。それを看病してる女も。

 見た目からして三十路はかたいだろう4人は恥ずかしくないのだろうか。

 酒気が蔓延していて鼻をつまみたくなる。酔いが最高潮と言ったところか。

 思わず顔を(しか)めて前を向く。


「そうさせて貰います」

「こっちもこんな美人さんと喋れるなら本望ですよ、良ければお名前をお伺いしても?」


 美人と言われ、女は少し間を置き口を開いた


「えぇ、私はイリナと言います」

「イリナさんか、いい名前ですね」

「はい、旦那に付けて貰った自慢の名前です」

「なるほど、旦那さんはいいセンスしてらっしゃる」


 イリナと名乗る女性は機嫌を良くしたのか、くすりと笑った。


「えぇ、私には勿体無いくらいの旦那()()()


 その一言に開きかけた御者の口が止まる。

 それまで楽しかった雰囲気は少しずつ瓦解し、気まずい雰囲気になる。


 一年前、魔王ベルヘルクが勇者によって討たれた。

 それは本来人類にとっては喜ばしい事であり、悲願だ。

 歴代の魔王は街を荒らし人々を蹂躙し、恐怖を植えつけた。

 だが、魔王ベルヘルクは違った。

 人間と魔族に平和を謳った。

 そして6年前にそれを成し遂げた。

 それまでは魔族と人で争いが絶えなかった中央大陸を瞬く間に纏め上げ、全ての大陸でもっとも平和な大陸とまで謳われ中央大陸を別名「魔王の揺り篭」と呼ばれるほどに献身した。

 それが、去年、魔王ベルヘルクが討たれた。

 誰がやった事なのかは明らかである。

 魔王を討てるのは勇者以外不可能なのは常識であり、必然だ。

 どれほど強い人間だろうと、魔王を討つのは不可能である。それは魔王が人類や魔族と概念が違う事に由来している。

 魔神によって定められた魔王は、魔神の加護を所有している。

 それは、あまりにも強く、加護を持っていない人間では何をしようと敗北する運命にある。そう決定付けられている。

 唯一にして無二、それを覆せるのが勇者だ。己が持っている神の加護によって魔王の加護を相殺する事が出来る。

 言わば勇者とは、神の加護を持っている者を指す言葉であり、それ以外の何者でもない。

 そして、勇者は人からでしか生まれない。


 中央大陸は再び混沌の世界へと墜ちていった。

 魔族は人を被弾。

 人類は勇者を被弾する事で、人類の絶滅と言う最悪の状態にはならずに済んだが、それでも、魔族による人への恨みが消えたわけではない。

 報復の名の下、人を殺す魔族が相次いで続出した。

 魔族側に纏める魔王は既になく、殺された人も決して少なくはない。


 そんな中央大陸から来た一人の既婚の女性。

 見た目は20歳になっているかどうかの女性、きっと夫婦になってまだ数年しか経っていなかったのだろう。

 旦那の所在を聞くほど、御者は馬鹿ではなかった。


 開いた口の行方を見つけれず、ゆっくりと閉じ少しだけイリナと名乗った女性を盗み見る。


 とても綺麗な女性だった。

 蒼銀の髪は後ろで括られており、まるで、水が流れるかのようになだらかに腰までおりている。青い瞳は空を見るかのように透き通っていた。

 剣士と言うには余りにも勿体無い。そう思わせるほど綺麗だった。


「それは、そうとして、アレ良いんですか?」


 重い空気など無いかのように、イリナが前を指差しているのをゆっくりと御者は目で追う。


「……っ!? 魔物!?」


 直線状に居たのは、姿勢を低くして今にも飛び掛りそうなブラックウルフの群れだった。

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