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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
使命を探して
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シャルクス2

ショーンは、話を終えて息をついた。

「で、ここへ連れて来られたんでぇ。聡香ちゃんもこうして無事だったし」聡香は、黙って慎一郎の横に座っている。ショーンは続けた。「ま、オレが治癒の術を使って回復させたんだがな。オレ達がここへ着いた時には、聡香ちゃんは消耗してぐったりしてたしよ。そりゃ魔物に食われかけて無理に吐き出されて、気を失って溺死しかけてたのを口にくわえたまま必死に水上へ上げて呼吸を確保しながらここへ運んだんだとラディアスは愚痴ってたから、死ななかったのはラッキーだったんだがな。」

確かにラディアスからしたらそれは大変だっただろう。だが、運ばれる方も大変だ。気を失っていて覚えていないのがせめてもの救いだろう。

「で、オレ達のことを探してくれたのか。」

それには、慎一郎が首を振った。

「いや、探してくれとは頼んでないんだ。仲間が神殿の方へ向かった話はしたが、その時にそっちの方は軍が大挙して集まっていると教えられただけだ。オレ達もどうしたらいいかと話し合っていたんだが、そうしたらラディアスが来て、複数の気を感じると知らせてくれた。もしかしてそれはショウタ達かもしれないと言ったら、見て来ると言って探しに行ってくれたんだ。」

どうやら、シャルクスとは本来とても理性的で、親切な気質であるらしい。

翔太がそう思ってそれを聞いていると、アガーテが言った。

「我がチラと見たのは、殺気に満ちた様であったから、あのように穏やかな美しい気を発する生物であったなど思いもせなんだ。おおよそそこらのヒトの気などとは比べ物にならぬほどの清浄な気よ。あの気であるなら、ここの(たち)の悪い水の影響も受けずにおれるやもしれぬの。我は、あれらと共ならここに留まっても良いと考えておるほどよ。」

翔太は、驚いてアガーテを見た。

「何を言ってるんだ、こんな場所でか?」

するとアガーテは、大真面目な顔で翔太を見て答えた。

「そうよ。ショウタ、これよりは、禁足地へ向かうことになろう。術で主らを助けようとしたら、我は婆に戻らねばならぬゆえ、主の荷のひとつに成り下がる。若い姿であったなら、己の身も己で助けられぬ。我はこれより先、主らの足手まといでしかなくなる。我は、ここであれらと共に、主らが責務を果たすのを見守る。」

翔太は、言葉を失った。

アガーテは、何も間違っていない。確かにこれから禁足地へ向かうのだ。また魔物が大挙して現れるだろう。今度は飛ぶ魔物だ。それを相手に、恐らくは断崖絶壁を降りなければならないのだ。確かにアガーテを背負っての道中は、かなり厳しいものになるだろうことは目に見えていた。

慎一郎が、顔をしかめた。

「禁足地だって?」

翔太は、慎一郎を見て、頷いた。

「ラファエル達はそこへ逃れようと向かってる。合流するためには、オレ達も行かなきゃならねぇんだ。だから地下水脈を越えようとあんな無理をしてたんだ。」

ショーンは、肩をすくめた。

「位置関係が全くわからねぇからコメントのしようがねぇな。」

すると、亮介が渋い顔をしながらも、自分の紙の地図を出して、言った。

「ここだ。島の最北。」

慎一郎と玲、ショーン、聡香がそれを覗き込む。

そして、目を丸くした。

「ちょっと待て、ここ断崖じゃないか。」

慎一郎が、色を見てそう思ったのか、言った。海斗が、深刻な顔で頷いた。

「そうだ。断崖絶壁だそうだ。それに、そこには大型の飛ぶ魔物が居て軍ですら近寄らないと聞いてる。オレ達はもちろん行ったこともないし、見たこともないから話に聞いてる程度なんだが。」

アガーテが、何でもないように言った。

「だからこそ、アレクサンドルが近寄らぬのよ。ラファエル様は、ご自分の責務をご心配なくこなされるため、巫女達をそこへお隠しになろうとしておるのじゃ。なに、あちらにはラファエル様がついておるのだから、滅多なことにはならぬと思う。問題は、禁足地へ到着するまで魔物に遭遇せずに参れるかどうかなのじゃ。」

だからそれが問題なんだろうが。

翔太も慎一郎も玲も、ショーンもそう思ったが黙っていた。びしょ濡れになった真樹が、白玉をタオルで拭きながら後ろから言った。

「その断崖絶壁を降りてる時に、飛ぶ魔物に襲われたらどうしたらいいんだよ。シャルクス達みたいに話が通じる魔物だったらいいけど、そんな魔物ばっかりじゃないんじゃない?ショーンがそう言ってただろう?」

ショーンは、それに頷いた。

「そうなんでぇ。あっちの大陸でも話せる魔物なんてぇのは滅多に居ない。オレが今まで見た話せるほど賢い魔物は、グーラっていう翼竜と、ラウタートっていう四つ足の大きな獣…ええっと、そっちの世界じゃ虎に似てるって言ってたかな。それと…」と、濡れて毛並みがバサバサになっている白玉を見た。「特別な小さいプーってのも話せるとか聞いたな。」

すると、白玉は嬉しそうに体を揺らした。

『うん、今はおばあちゃんじゃないおばあちゃんが話せるようにしてくれたのー。』

それを聞いたショーンと慎一郎、玲、聡香が一斉に体を後ろに仰け反らせた。

「な、な、な、」

ショーンが、驚き過ぎて言葉を詰まらせている。アガーテが、白玉を撫でて頷いた。

「何を驚いておるのかの。この白玉の命の光を見れば分かろうが。我はひと目で分かった。ゆえ、主と同じく意思を疎通させる術で話したのじゃ。だが、我はあのシャルクス達と話すことなど思いもせなんだがの。まさかあれらが話の通じる魔物だなどとは、思いもせなんだゆえ。このように話すことが出来ようとは。何年生きておっても、知らぬことがあることよ。」

とはいえ今のアガーテの外見では、ほんの20歳ぐらいにしか見えないので、あまり言葉に重みは感じなかった。

白玉は、体を揺すりながら言った。

『しらたまも、ヒトになりたいなあ。まさき達とね、たたかうの。わたし、結構強いと思うんだけどなあ。』

それには、真樹が苦笑した。

「いいんだよ、無理しなくても。白玉は、一緒に居てくれるだけでいいんだ。」

白玉は、それを聞いてそれは嬉しそうに体を揺らした。鼻の辺りが薄いピンク色になったので、照れているのだろうと思えた。

だが、アガーテが頷いた。

「白玉はかなりの術者のはずよ。我らと同じように、地から命の気を吸い上げることが出来るはず。強いのは確かよな。姿はこのままでもの。」

白玉は、アガーテを振り返った。

『ほんと?しらたま、このままでも魔法使える?』

アガーテは、何度も頷いた。

「使える。幾つか呪文を教えようの。というて時がないゆえ、そう多くは教えられぬが己の身を護ることは出来よう。」

真樹は、嬉しそうにアガーテと話す白玉を見て、じっと考え込んでいる。

翔太は、まだドン退いたままのショーン達を見て、苦笑した。

「で、白玉のことは置いといて、これからのことだ。いつまでもここに居るわけにゃいかねぇだろう。ラディアスからは、アレクサンドルのことを聞いたのか。あいつらは、どうしてアレクサンドルと敵対してるんだ。」

ショーンは、まだ白玉を見ていたが、翔太に意識を戻して、答えた。

「ああ、あいつらの恨みはシンプルだ。この、地下水脈の水とアレクサンドルのことさ。」

海斗が、首を傾げた。

「この水がなんだ?シーラーンから流れて来てるからって、あいつのせいとは限らないだろう。」

ショーンは、急に真顔になると、わざと声を潜めて身を乗り出した。

「…お前、アレクサンドルがどれぐらいここの王をやってるか知ってるか。」

海斗は、驚いたように目を見開いて、答えようとして、詰まった。

「え?いや…オレが来た時は既に王で…、」

そういえば、あいつはいつから王なんだ。

海斗は、後ろで黙って聞いているクリフやカーティスを振り返った。二人も、肩をすくめて分からないと伝えて来る。海斗は、ショーンに向き直った。

「いったい、あいつはいつから王なんだ。」

ショーンは、頷いて答えた。

「ラディアスに聞いて驚いたよ…あいつは、この国が建国された時から王だ。つまり、ざっと200年前からだってさ。」

聞いていた、こちら側の皆が絶句した。

アガーテも、それを聞いて険しい顔で黙り込んでいた。

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