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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
使命を探して
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向こう側

術は穏やかに飛んで、レナートを包み込んだ。

美夕の目の前で、レナートの顔色は見る見る良くなって行った。美夕がホッとしてうまく術を放てたとラファエルを見上げると、ラファエルは少し、驚いたような顔をしていたが、真顔になって美夕を見た。

「術を放つ様は初めて見たが、我ほどには使えるようぞ。」

美夕は、それには仰天して目を見開いた。

「え?!それは言い過ぎです!」

しかしラファエルは大真面目で言った。

「何を言うておる、我は偽りなど言わぬ。我も驚いたが、主は古来の術が得意なのかもしれぬな。普通の兵士などが使う術は、それほどでもないのか?」

美夕は、それには少し、顔をしかめて首を振った。

「全く普通です。亮介という仲間が居るんですけど、彼の方がとても術に長けていますわ。私は、魔法を放とうにも魔法陣が出るのが遅くて術の出が遅いんです。」

話しながら思ったが、古来の術は魔法陣が現れる様子もなく、スッと放てて力も使わなかったような感じだった。古来の術の方が、自分には向いているのかもしれない。

美夕がそう思っていると、ラファエルは頷いた。

「では慣れておらぬだけやもしれぬな。古来の術は巫女や我ら命に刻印がある者のための術であるから、慣れる必要もないのでそこそこ放てるのやもの。ならば、主は他の疲れておる者達の癒しを。それが終わったらバルナバスと誰から順番に向こうへと渡すのか決めて、始めて参ろうかと思う。」

美夕は、そういえば川上から、重いような圧力を感じていたのが、無くなっているのを気取っていた。もしかして、あの圧力と感じていたのが、魔物の気…?

「もしかして…川上にあった、重いような圧力が無くなったからですか?あれが、魔物の気?」

そう言うと、ラファエルは頷いた。

「そう。それが気よ。狩りでもしておったのか結構な数が居たが、また川上の方へ戻って行ったようだの。ならば我らは、すぐにでも移動を始めねば。」

美夕は頷くと、手近な人から順番に、その顔色を見て回った。自分でも役に立つことがあるのだと、それが沸々と自信になって胸に湧き上がって来るような気がした。

腕の紋様は、全く痛まなかった。


一方翔太達も、地下水脈へと到達していた。

対岸の岩壁を見上げるが、天井へと伸びていてあちら側へ行けるような場所は見当たらない。下を見ると、こちら側には棚のようになっている場所が、向かって右斜め下にあった。

アガーテが、その水流を覗き込んで、眉を寄せた。

「なんと嫌な…間違ってもあの中に沈みとうない。体から命の気が吸いとられるような心地がする…この若い体でも耐えられるものではないわ。」

翔太は、あちこち見ていたが川上側に、何やら天井から離れた亀裂があるのを見て取った。

「亮介、あっち、あの辺りを照らしてみてくれ。」

亮介は、もはや額ではなく杖を光らせていたが、それをそちらに向けながら言った。

「やってみるが限界だ。オレの魔法でもこれ以上大きく照らせないんだ。精一杯やってるのにだぞ。」

アガーテは、後ろへと足を一歩下げて言った。

「さもあろうよ。命の気がほとんど無いのだから己の体から全て賄っておるのだ。あまり使うのはやめておいた方が良いぞ。主は普通の術者、命が無うなってしまうぞ。」

言われて亮介は慌てて術を消した。途端に真っ暗になり、光っているのは最後尾のスティーブの剣だけになった。

「待て、全く見えねぇじゃねぇか。」翔太は顔をしかめた。「どうすんだよ、暗いわあっち側は遠いわ、足場はないわじゃ向こう側なんか行けねぇじゃねぇか。アガーテ、なんか手は無いのか。」

アガーテは、息をついた。

「では我はまた婆に戻るゆえ、灯火代わりだと思うてまた主が背負ってくれ。だが、長くは無理ぞ。この地下水脈は若い頃一度見たことがあるだけで、我も苦手なのじゃ。」

翔太は、スティーブの剣の光だけを頼りに背負子を下ろして、岩の上に置いた。

「背負うのは良いが、大丈夫か?光の魔法は命の気を使ってるんだろうが。アガーテだって使うのはきついだろう。」

アガーテは、いやな顔をしながらも、背負子に座った。

「我は地から無尽蔵に命の気を吸い上げて使うことが出来るのじゃ。と申して、水が流れておるからそう多くは吸い上げられぬし、大きな光は出せぬがの。で、どうするのじゃ。我を灯りにして、主はどうするつもりじゃ?」

翔太は、頷いて説明した。

「この、地下水脈へと開いてる穴の右斜め下辺りに、棚みたいになってる場所があるんでぇ。そこへ降りて、さっき亮介の灯りでチラッと見えた右斜め上の亀裂が向こう側へ渡れるような感じなのか調べたいんでぇ。」

それを聞いて、アガーテは身を固くした。亮介も、驚いて翔太を見た。

「おい、ということは、その棚へアガーテを背負って降りるってことだろう。大丈夫なのか?いくら軽いとはいえ、自分とアガーテの重みを支えながら降りるなんて。」

翔太は、自分のカバンを肩から降ろして中を探りながら、頷いた。

「アガーテなんか羽みたいなもんだ。ただ落ちたら大変だから背負子の棒に括り付けさせてもらうがな。」と、ロープを出して、大きくした。「さ、アガーテ。元に戻ってくれ。」

アガーテはその、美しい眉を不機嫌に寄せると息をついて、覚悟をしたように目を閉じた。

「年寄りの扱いの荒いことよ。ほんにもう。」

アガーテの姿は、見る見る元の姿へと戻った。翔太はアガーテが落ちないように、背負子の棒の所でしっかりと結び、またクリフとカーティスが助けてくれる中、背負った。アガーテは、不機嫌な顔のまま杖を出して、左手に握りしめた。

「ほら、こっちの端は固定した。」海斗が、ロープを翔太に渡した。「気を付けろ、岩がつるつるしてて滑るぞ。」

翔太は、そのロープを受け取って腰に巻きながら、足を上げて靴の裏を見せた。

「ゴム底だ。滑りはしねぇ。バイトであちこち現場を経験してるから高い場所は慣れてるんでぇ。心配すんな。」

翔太はそう言い置くと、準備を整えてアガーテを振り返った。

「アガーテ、準備はいいか。」

「よくないと申しても行くのだろうが。」アガーテは不貞腐れたような声で答えたが、怒っているようではなかった。そして、光がパアッと照らした。「ほれ。もう我は死んでおるような歳よ。好きにすれば良いわ。」

その光は、亮介よりずっと強かった。翔太は、アガーテの力を心強く感じながら、不安そうに見つめる皆の顔を見渡した。アガーテの光で明るい中、皆が思っていたより疲れているようなのを見て、自分がしっかりしなければと、表情を引き締めた。

「行って来る。大丈夫だ、道はある。」

そうして、翔太はアガーテを背負ったまま、右斜め下に突き出た岩棚の方へと慎重に降りて行った。


そこは、思っていたより広い場所だった。

アガーテの光は無事に天井の方まで届き、思った通り正面の岩壁の上が、切れたように欠けていて向こう側に繋がっているように見える。翔太は、アガーテに言った。

「ここで光を放っててくれねぇか。オレは何とかあの上へ行けないか試してみる。」

そっと座ってアガーテを棚の上の広いスペースに下ろすと、アガーテの声が心配そうに言った。

「あんな上まで参るのは無理ではないか?魔法で手助けしようにも、古来の術でもどれほどに通用することか。」

翔太は、背負子を下ろしてアガーテと向き合って苦笑した。

「別に何か期待してるわけじゃねぇよ。オレ一人で大丈夫だ。オレが行けなきゃみんな無理だ。また戻って別のルートを探してる時間はねぇ。アライダだって今頃地上へ出てるかもしれねえじゃねぇか。何とかやって見るよ。光だけよろしく頼む。」

アガーテは、じっとそんな翔太を見ていたが、黙って頷いた。翔太は、自分のカバンからロープを出して、幾つかある金属のフックを選んだ。こんなことをするのはあまり経験はないが、引っ掛かりやすいのはこの、四つの爪がついている物のような気がする。

翔太は、その金具をロープの先に括り付けて、それを下に長めにロープを下ろして持つと、上を見た。

今降りて来た穴からは、海斗やクリフ、カーティスが心配そうに自分を見下ろしているのが見えた。

翔太はわざと笑顔を作って皆に手を上げると、そのフックを大きく振って、目当ての亀裂がある場所まで、思い切って投げ上げた。

アガーテの光は、それを追うようにしっかりと照らした。


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