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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
使命を探して
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それぞれの夜

翔太は、白玉と楽し気に話していたアガーテをなだめて休むようにと、自分の寝袋を提供して寝かせた。アライダは布を一枚もらえたらいいと言ったので、ブレンダが言われたようにそれを渡すと、隅の方に遠慮がちに横になる。

ここは広い空間なので、皆が回りに散って横になる中、その真ん中で小さな焚火をしながら、翔太と海斗、亮介は向かい合っていた。交代で見張りに着くことにしたからだ。

皆で寝静まった中で、亮介が焚火越しに翔太を見て言った。

「なあ、どうする?美夕ちゃんはラファエル達と一緒に禁足地とやらに向かったようじゃないか。ということは、オレ達も禁足地へ向かうのか?…結構な距離があるみたいだが。」

亮介の手には、この島の地図がある。翔太は、迷わず頷いた。

「それしかねぇ。あいつらと一緒でなきゃ、シーラーンへ行ったとしてもその中のどこへ行ったらいいのか分からねぇだろうが。オレ達じゃ何も出来ねぇんだ。あいつらでなきゃ。」

海斗が、炎のせいで余計に険しく見える顔で、翔太を見た。

「お前達はな。オレ達は、レナートの記憶を知らなきゃならない。今日アガーテに聞きたかったが、白玉とばっかり話してただろう。明日の朝聞く。オレ達は、オレ達の命に刻印があるヤツを探さなきゃならないんだ。帰れないかもしれないんだぞ。」

亮介は、うんざりしたように頷いた。

「だが、もしアガーテが知らなかったら美夕ちゃんと一緒に行ったレナート本人に聞くしかないんだろうが。そうなったらやっぱり禁足地だ。それに、お前達だって美夕ちゃんでも帰れるかもしれないって言ってたじゃないか。どっちにしろ、お前達のことは明日決めたらいいだろうが。」

海斗は、顔を上げて炎越しにキッと亮介を睨んだ。

「自分達の事じゃないからってお前は薄情だぞ!オレだってそんな風に楽観的に考えられたらいいが、全てが終わってさあ帰れる、だがオレ達は駄目となったら、誰が責任取ってくれるんだ?オレは、考えられることはしておきたいんだ!後で後悔したくない!」

後ろで、ううーんと真樹が唸って寝がえりをうった。三人は思わず口をつぐんで、そちらを見る。…真樹は、また規則的に寝息を立て始めた。

「…落ち着け、海斗。」翔太は、声を落として言った。「分かってる。明日、アガーテに聞こう。もしかしたらレナートに術を施したかもしれないだろう。それならアガーテも内容を知っている。だが、もし知らなかったら、オレ達と一緒に禁足地へ行こう。少しでもお前達の刻印持ちの手がかりを探すためにな。」

亮介を睨むように見ていた海斗は、翔太にそう言われて、肩の力を抜いた。

「分かってる。オレは焦ってるんだ。それに…翔太、お前ここから禁足地へ行くのは、どれほど面倒か分かってるか?」

翔太は、軽く眉を寄せた。

「面倒?確かに遠いし、禁足地とかいうからには危ない場所だとかか?」

海斗は、首を振った。

「確かに禁足地という場所自体も面倒な場所だが、ここからそこへ行こうと思ったら、地上を行かなければこのまま地下を進むと地下水脈に行き当たる。あの魔法が使えない水が流れる場所を、越えなきゃならないんだ。」

亮介が息を飲んだ。

「な、なんだって?あの激流をか?!」

海斗は、頷いた。

「ああ。シーラーンから真っ直ぐに西…いやちょっと南へ下るような感じで海へと流れ込んでいるんだ。地下を行く限りそれを越えなきゃ向こう側へ行けない。地上なら河さえ避けたら難なく向かえるが、その目標の禁足地は大型の飛ぶ魔物が闊歩していて、断崖絶壁の向こうにあるだろうと言われている…が、誰も見たことのない未踏の地だ。ラファエルが、どこまで術にたけてるのか知らないが、正気の沙汰じゃないとオレは思う。」

翔太は、亮介の地図を見た。

確かに、この森の色の濃い所が等高線だとしたら、濃い所からいきなり平地の色になっているところからもかなりの急な断崖であるだろうことは予想がつく。こんな所を下っている時に大型の飛ぶ魔物なんかに襲われたら、一溜まりもないだろう。

翔太は、表情を引き締めた。

「だったら、尚更だ。」亮介と海斗が驚いた顔をする。翔太は続けた。「美夕がそこに行き着く前に合流して助けなきゃならねぇ。オレは行く。他の奴らが別行動するなら止めねぇよ。だが、オレは行く。美夕が居なきゃどっちにしろオレ達は帰れねぇんだからな。」

海斗は黙り込んだが、亮介がそんな海斗を見てから、ため息をついて嫌そうに口を開いた。

「…まあ、言われてみたらそうなんだよな。帰りたいなら美夕ちゃんが必要なんだし、あの子に何かあったらオレ達だって帰られなくなるのに、守らずにどうするんだってことだしな。オレも行く。翔太だって呪文をいくらか覚えて普通に戦うには問題ないのは知ってるが、オレ反魂術だって必要なことが出て来るかもしれないし。」

翔太は、フッと微笑んだ。

「魔法の速さはお前に敵わねぇし、来てもらった方が心強いに決まってるさ。頼りにしていた慎一郎も玲もショーンも離脱しちまって…あいつらなら、生きてると信じては居るがな。」

亮介は、わざと避けていた話題だったので少し驚いたように片眉を上げたが、それには控えめに頷いた。

「そうだな。あいつらは魔法だけでなく体力だってある。運だって持ってるはずだ。きっと合流出来ると信じよう。」

海斗は、寝ている皆の方へと視線をやって、しばらく眺めると、呟くようにぽつぽつと言った。

「…オレ達は、仲間が死ぬのを何度も見て来た。夢だと思おうと思っていた時もあった。だが、全部現実だった。そして、自分で埋葬もした。裏切った奴らは、それを知っている。死が現実で、いくら願っても死んだ仲間は戻って来ない。反魂術だって体がバラバラになっちまったり、魔物に食われちまったら効かないもんな。だから、あいつらは怖かったんだろう。自分が死にたくないから、オレ達を、情報を売った。腹は立つが、理解はできる。あいつらはオレ達に見捨てられたと感じたんだろう。生き残るために、あれがあいつらの考えた道だったんだ。」

誰にともなくといった感じだった。だが、二人に向けてなのだとは翔太にも亮介にもわかった。

「間違っていたのでなければいいがな。」翔太が、吐き捨てるように言った。「生き残るために逃げるならいい。オレ達だって一度仲間割れして慎一郎を見捨てて先に進んだ事がある。お前達のお陰であいつは助かったが、そうでなければ聡香を抱えたあいつはシーラーンへ連れて行かれていただろう。最後には助けに行くつもりだったが、間に合ったかどうか分からねぇ。だが、オレは売りはしねぇよ。仲間を盾にして助かろうなんざ思えるはずはねぇ。お前達を散々追いかけ回した軍なんだろう。そんなものを信じて、今頃後悔してなきゃいいがな。」

亮介は黙って聞いている。

海斗も、それを聞いて黙り込んだ。

皆が寝静まる中、三人はただ焚き火を挟んで、それから黙りこくってお互いの考えに沈んでただ向き合っていた。


その頃、地上ではロマノフが張られた天幕の中で、休もうとしていた。

野営するなど、本当に久しぶりだった。

ここ数年はいつも現場に出ることもなく、きちんとした建物の中で休んでいたロマノフは、こうして外の虫の音を聞きながらの夜は、昔を思い出して落ち着かなかった。

あの頃、まだ体も成長しきっておらず、小さかったロマノフは、他の兵士達に足手まといだと邪魔者扱いされていた。

そんな自分に声を掛け、孤立しないように気を配ってくれていたのは、同い年のエドアルトだった。

しかしエドアルトは軍人家系の男で、その当時でも体もガッツリとしていたが、それ以上に幼い頃から父親に鍛えられた魔法技があった。

同じ部隊の中でも一目置かれる存在だったエドアルトが庇ってくれることで、ロマノフは一時は孤児院へ逃げ帰ろうかと思ったことまであったほどだったが、なんとか踏ん張ることが出来たのだ。

そうして、エドアルトに剣術や魔法の指南を受けている間に、どんどんと上達して行った。魔法だけはどうしても敵わなかったが、それでも剣術ではエドアルトに負けることもなくなった。

元々勤勉で頭の回転の速いロマノフが将軍へと先に昇格した時も、エドアルトは自分のことのように喜んで、二人で酒盛りしたほどだった。

ほどなくしてエドアルトも将軍へと昇格し、現場で会うこともついぞ無くなった。ここ数年はお互いの任されている駐屯地の屋敷で監視の毎日で、退屈していた。今回の騒ぎは、また共に戦うことが出来ると胸が騒いだぐらいだったが、そう簡単にはこの敵は捕らえさせてはくれないようだ。

ロマノフは、一人息をついた。取り合えず今は寝て、さっさとパルテノンの生き残りとやらを捕らえ、リュトフが捕らえて来た旅の戦闘員達と共に、雁首揃えて陛下の前に出してやろう。そうすれば、あの何百年生きているのか分からない王座に居座っている化け物の鼻を明かしてやることも出来る…。

ロマノフが、そう思いながら天幕の中に設えられた簡易ベッドへと横になると、天幕の外から急いだような声が聴こえた。

「閣下!リュトフでございます…ご報告に参りました。」

ロマノフは、休もうと目を閉じたところだったので、不機嫌に答えた。

「ああ、明日で良い。奴らはそこらの木にでも繋いでおけ。」

リュトフの声は、微かに震えながら、答えた。

「いえ…申し訳ありません!地下の洞窟へと逃れられ、追手は洞窟の魔物に襲われ、崩れた地盤に巻き込まれ、大半は地下水脈へと…!」

ロマノフは、ガバッと起き上がった。

「なんだと?!逃がした?!」

飛ぶように天幕の出入り口へと向かったロマノフは、その布を避けた。そこには、ところどころ破れてささくれた見る影もない軍服に身を包み、泥だらけになったリュトフが、数人の部下と共に膝をついてうなだれていた。

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