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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
使命を探して
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道は

一目散にラファエル達の元へと戻ったバルナバスと美夕は、若干青い顔をしながら皆に迎えられた。二人は真っ先にラファエルの前へと行き、そうしてバルナバスは、その前に膝をついて頭を下げ、言った。

「ラファエル様…地上への道を見つけました。」

ラファエルは頷いたが、険しい顔を崩さず言った。

「何か問題があるのだな。」

バルナバスは、顔を上げた。

「は。私とミユが休んでおった場所の上から、日が昇り光が薄っすらと差して参りました。そうして、そこからその上に居る兵士らしき気配を気取りました。やむを得ず我らはひっそりと引き返して参った次第。見つかりはしませんでしたが、しかし軍は地上も我らを探して回っておるのだということが分かりました。」

そこに居た、15人ほどの巫女と修道士達がそれを聞いて不安そうにラファエルを見る。ラファエルは、じっと考え込んで目を閉じた。

美夕は、それを見ながら自分も考えていた。いや、ここへ帰って来るまでも、バルナバスと歩きながら考えていたのだ。だが、答えは出なかった。なぜなら、選択肢がないからだ。

ここから先は、地下水脈に行き当たる。だが、地下水脈では魔法が使えない。危険すぎるので除外。

地上を行くために道を探し、見つけた。だが地上には軍が居る。今は出て行けない。

では、軍が引き上げるまで辛抱強く待つべきか。しかし、それはいつになるのか分からない。それでなくても急いで出て来たので、食料の備蓄は多くない。しかも、この人数だ。水はこの辺りなら岩を伝って来るので何とかなるが、食べる物がない。そんなに悠長に、待っている時間がない…。

「…行き詰まったか。」

ラファエルが言う。美夕は、黙って下を向いた。そう、行き詰まってしまった。こうなるとライデーンの仲間と連絡が取れたら打開策も得られるかもしれないが、如何せん腕輪は圏外だ。地上に出ないと通信は出来ず、地上には軍が居る…。

堂々巡りだった。

「…このまま、地下水脈を越えずに海の方角へ参りますか。」

バルナバスが言う。ラファエルは、首を振った。

「海を行くのに船が要る。運良く船を得られたとしてもライデーンの横を堂々と船で行けばライデーンの軍に気取られる。どちらにしろ手詰まりだ。」と、顔を上げた。「我らには二つの選択肢しかない。ここで食料が尽きるまで軍が退くのを待って潜伏するか、危険を冒して地下水脈を越えて行くか。この人数で地上を歩くのは、軍が探し回っている事実から無理ぞ。数人で密かに食料を調達して来るにしても、この人数分を獲るには何度も地上へ出なければならぬ。見つかるリスクが高い。」

美夕は、息を飲んだ。じゃあ…。

美夕が顔を上げて自分を見たのを見て、ラファエルは頷いた。

「全員を飢え死にさせるわけには行かぬ。ならば幾人かでも生き残る希望のある、地下水脈を越えることを我は選ぶ。」

「…!それは…!」

美夕は、口をつぐんだ。全員が安全に逃れるのが理想だった。だが、確かに手はない。ラファエルは、間違っていなかった。

ラファエルは、続けた。

「どうするかは皆に任せる。残って待つというのなら、その者にまで来いとは言わぬ。ここで 我らが逃れた後に戻る事を信じて、助けを待つが良い。だが、我は行く。各々どうするか決めよ。我は確かに助けに参る。だが、いつになるかは約束出来ぬ…今の我には、それしか言えぬ。」

そこに居た若い修道士や巫女達は、困惑したように顔を見合わせた。

もちろん、美夕は行くつもりだった。だが、自分自身すら守り切れるかどうか分からない。アガーテにいろいろな術を教えてもらい、それを必死に覚えてそれなりに力を付けたつもりで居た美夕だったが、魔法が使えない場所での自分はラファエル以上に非力だ。誰かを助けるという以前に、どんな場所なのか分からない地下水脈で、自分自身が誰かの足手まといにならないとは限らないのだ。

バルナバスはすぐに答えた。

「もちろん、私はラファエル様と共に参ります。」その目には、何の迷いもない。バルナバスは続けた。「ではラファエル様、出来る限りの対策を。地下水脈は私も外に居た若い頃に話を伝え聞いたことしかない場でございますが、案をお出し致します。ここから先へ進めば、その地下水脈に行き当たることは分かっておることですし、様子だけでも、先に私が見て参りましょう。」

美夕は、驚いた。危険な場所だと知っているのに、先に一人で?

「一人では駄目だわ。何の力にもなれないかもしれないけど、私も。もし何かあった時、ラファエル様にお知らせすることは出来るのだし。」

バルナバスは、もはや美夕にはなんのわだかまりもないようだ。すぐに表情を緩めて、美夕を見た。

「それでいい。では、共に偵察に参ろう。」

ラファエルも、異論はないようで、合意した。

「では、戻ったばかりですまぬが頼んだぞ。」と、まだ困惑している皆の方を見た。「主らはこれらが戻るまでに、己がどうするか考えるが良い。」

皆、ただ不安そうに顔を見合わせている。

美夕は今戻ったばかりで足は疲れていたが、それでも気力を振り絞ってバルナバスについて、またそこを離れて暗い地下の洞窟を進んだのだった。


そこからは、最短距離を考えて、地下水脈のなんとも言えない異質な気を探って、印の術を残しながら進んだ。

美夕はまだ気を探るのはうまくなかったが、バルナバスは難なく探って先に進んで行く。

その背を頼もしく感じながら、段々に増えてくる水に足を取られないように気を遣いながら歩いた。

回りの岩はゴツゴツした物から滑らかな感じの物に変わりつつあった。

どうやら水に洗われている間にそうなったようで、そこに長い年月を感じた。

そう考えるとこれが出来てから人がここを通ったことはあるのだろうかと、美夕は不思議な気持ちだった。ないのだとしたら、自分たちが踏みしめるこの岩が、水以外に接触されるのはこれが初めてだということで、前人未到の地に立っている自分がとても誇らしいような気持ちになった。

もしかしたら探検家といわれる人々も、こんな気持ちなのかもしれない。

美夕がそんなことを考えて一人感慨に浸っていると、バルナバスが振り返った。

「そろそろ、地下水脈に出るような感じだぞ。」

美夕は、それを聞いて気持ちを引き締めた。言われてみると、足元を流れる水は今自分達が進んでいる方向へと流れて水量が増して行くようだ。その洞窟は緩やかに下っていたのだが、水が流れて行く先は、地下水脈なのだとしたら合点が行く。

だが、足元を流れている水は、命の気が混じっているようで、魔法を阻害されるような感じはなかった。

「…ここを流れている水は、魔法を遮ったりしないのね。印の魔法も難なく使えているし。」

美夕が言うと、バルナバスは頷いた。

「これは以前言ったように、この上の河の水だろう。傾斜に従って地下水脈へと流れ込んでいるのだ。」

美夕は、首を傾げた。

「だったら、地下水脈の水は全てがシーラーンから流れて来たわけじゃないみたいよね?少しは魔法が使えるんじゃないかしら…この水の、命の気が混じるんでしょう?」

バルナバスは、少し黙ったが、首を振った。

「いや…地下の水量は多い。ほとんどがシーラーンの地下から流れて来た水だ。いくらか途中で命の気の混じった水が流れ込んでも、こたえないと思う。」

バルナバスの表情は硬い。美夕は、なぜか違和感を感じた。バルナバスは地下水脈のことはあまり知らないと言っていたんじゃ…。

「…バルナバス?もしかして、あなた地下水脈を見たことがあるの?」

バルナバスは、足を止めた。急なことだったので驚いた美夕も、つられて止まる。気が付くと、遠くゴウゴウという音が聞こえて来ていた。

「バルナバス?」

美夕がもう一度問いかけるように言うと、バルナバスは、小さく息をついて、ゆっくりと美夕を振り返った。

「…ミユはもう仲間だ。教えても支障はあるまい。私は、軍に居たのだ…15年前までな。」

美夕は、息を飲んだ。

遠くからは、あれが水音だとしたらかなりの水量であるだろう水音が、聴こえて来ていた。

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