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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
使命を探して
78/230

神殿へ

翔太達は、無言で足を進めていた。

ここには今、翔太、真樹、亮介、スティーブ、ブレンダ、カール、海斗、クリフ、カーティスの9人が居たが、皆黙って先頭の翔太に従って歩いていた。

時々に休むが、流されて行った四人のことが頭を過ぎって、会話をする気力もない。

ちょうどドーム状の広い空間に出たこともあり、翔太はもう何度目かの休憩を取ることにした。

「よーし、ちょうどいい場所に出たし、この辺で休もう。」

全員が、ホッとしたように力を抜く。

もうそろそろ地上は夜になろうとしているかと思われたので、食事もとることにして、ブレンダと亮介が魔法を使って調理を始めるのを、翔太はじっと見守っていた。

真樹が、翔太に寄って来て横に座った。

「翔太、ちょっといい?」

翔太は、真樹を見た。

「なんだ?疲れたか。」

真樹は、首を振った。

「ううん、そうでもない。まだ一日ぐらいしか歩いてないし、あれから別に何もないし。」

あれからのあれは、四人が流されたあの時だろう。翔太は、息をついた。

「ああ。ムークスとかいう魔物も追って来ないし、何の声も聞こえて来ないしな。恐らく結構下って来たんだろう。そろそろ神殿は近いはずだし、今夜はここで休んで夜明け前にここを発つのがいいかと今考えてたところだ。」

真樹は、頷きながらも、なだめるように胸の辺りを撫でている。

翔太は、不思議に思ってそこを見た。

「なんだ?白玉しらたまか?」

真樹は、困ったように翔太を見上げて、頷いた。

「さっきから何だか何かを訴えて来るんだよ。進むたびにオレを見上げて意味があるような鳴き声で鳴くんだけど、言葉が分からないし。通じないと思ったら何度も首を振って進むのを嫌がったり。でも、魔物の気配なんかないじゃないか。だから、おかしいなあって。何か気取ってるのかなあ?白玉って賢いしこの大きさだけど魔物だからね。」

翔太は、じっと白玉を見つめた。白玉は、ひょこと真樹の胸元から目だけ出して、怖がることもなく翔太を見つめ返している。翔太は、思い切って話しかけた。

「白玉、お前何か分かるのか?この先に行きたくないってのか?」

それを聞いた白玉は、急いで体をよじって真樹の胸元から出て来ると、翔太に向かって頷くように前に何度も体を揺らした。翔太は、やっぱりこいつは話が通じている、と思い、慎重に白玉に手を伸ばした。

白玉は、その手のひらの上に躊躇いなくちょんと乗る。翔太は、自分の目の高さに白玉を上げて、目を合わせた。

「行きたくないって言うんだな。なぜだ?オレ達はどうしてもこの先にある神殿に行って、ラファエルと美夕に会わないといけないんだ。オレ達は、自分達の世界に帰るためにやるべきことをやらなきゃならねぇ。それは分かるか?」

白玉は、プップと小さく鳴いて、そしてそれから何やら意味がありそうな鳴き方をした。だが、どこまで行ってもプップ、プープ、プププ―プ、と、全く分からない。翔太は、ため息をついた。

「確かにこいつぁ何か言ってるな。だが、何を言ってるのか分からねぇ。こいつには、こっちの言葉は分かってるようなのに。」

それを聞いて、白玉は目に見えてしょんぼりと翔太の手のひらの上でうつ伏せに平たくなった。まるでハムスターが暑い時にだれて伸びているような様に、翔太は慌てて言った。

「おい、別に怒ったんじゃねぇぞ!お前の言葉が分からねぇオレ達が悪いんだからよ。落ち込むな。」

白玉は、顔を上げた。その目が潤んでいるのを見て、翔太は自分がとんでもないことをしたような気がして、バツが悪そうに真樹に白玉を返した。

「落ち込ませるつもりは無かったんだけどよ…困ったな、こいつは一体何を気取ってるんでぇ。」

真樹は、落ち込んだ白玉を胸に抱きながら、困惑した顔で頷いた。

「そうなんだ、気になって仕方なくて。その神殿って、ここからどれぐらい?」

翔太は、それを聞いて腕輪を開いた。

「うーん、位置が出ねぇから分からねぇが、そう遠くはないはずだ。移動距離だけは分かるぞ。万歩計を見たらだいたいの距離が分かるからな。とすると、神殿までは、今の速度から真っ直ぐ行ってあと3時間ぐらいか。」

真樹は、白玉を見下ろした。白玉は、潤んだ目で真樹を見上げている。真樹は、息をついた。

「ごめんね、白玉。せっかく何か言ってくれてるのに、ほんと分からないんだ…あのね、仲間の美夕ちゃんが居るんだよ。他の人には会えなくても、美夕ちゃんだけは置いて行くわけにはいかないんだ。だから、美夕ちゃんに会わなきゃならなくて。オレ達、よっぽどの理由が無かったら行くのをやめることは出来ないんだ。」

白玉は、それを聞いてまたプップと鳴いたが、もう通じないのが分かっているので力はない。真樹は、そんな白玉が不憫でならなかった。こっちの言うことは分かっているようなのに、分かってあげられないなんて。

白玉の頭を撫でていると、ブレンダが言った。

「スープ、温まったわよ。」と、マグカップを手にこちらを向いた。「そのちっさい子、神殿へ行きたくないって言ってるの?」

真樹は、スープを受け取りに行きながら、頷いた。

「そうみたい。でも、理由を聞けないんだよ。オレ達、白玉の言葉が全く分からないから。」

ブレンダは、息をついて白玉の頭をそっと撫でた。

「そう。賢い子だから何か分かってるのかもしれないわね…」と、スティーブに視線を送った。スティーブは頷いた。ブレンダは続けた。「だったら、私とスティーブでちょっと偵察に行って来ようか?この人数で近づいたら、何かあった時知られる可能性が高いけど、私達二人なら大丈夫でしょ。慎重に行くわ。そうしたら、何かあっても見つからないでしょ?」

真樹は、驚いた顔をした。翔太が、スープを受け取りながら言った。

「お前達じゃはっきりとどれが神殿なのか分からねぇだろうが。だったら、オレが行く。お前達は飯食ったら寝てろ。オレは先に行って見てくらあ。」

真樹が、慌てて言った。

「一人じゃダメだよ!何かあった時大変じゃないか!」

亮介が、スープをすすりながらこちらを見た。

「オレが行くよ。ショーンが居ない今魔法をそれなりに使えるのはオレぐらいだし。ライトも無いから魔法で照らして行くしかないじゃないか。」

海斗が、パンを齧りながら手を上げた。

「オレも。一回行ってるのはオレと翔太だからな。オレが居た方がいいだろうし。じゃ、三人で行くか。亮介、確か千里眼が使えたんだったろ?」

亮介は、顔をしかめた。

「千里眼たってそんな遠くまで無理なんだよ。ここは静かだから外よりは遠くまで見えるだろうが、精々1、2キロぐらい先までだ。何か異常を感じたら使うって感じかな。」

翔太は、自分もスープとパンを持って座っていた岩へと戻りながら、頷いた。

「じゃあ、三人で行こう。残りは寝ててくれ。行って戻って明け方までに戻れると思うしな。オレ達はお前達を連れて神殿に落ち着いてから仮眠させてもらうから大丈夫だ。とにかく、飯だ。」

翔太は、手にあるパンに食いついて咀嚼した。幸い、体力はある。今夜は眠れない。だが、それぐらいなら大丈夫だ。食べてさえいたら自分は動ける。それより美夕を、何としても守らないと…。


神殿の壁は崩れ落ち、大勢の兵士達が押し寄せている。

あの大きなホールの女神像は、全ての信仰を禁じられた今のリーリンシアでは禁忌で、既に粉々に粉砕されて跡形もなかった。

そしてそこから奥へと向かう扉も、容赦なく破壊されていて、白い美しい造りのその神殿は今やあちこちが瓦礫の山と化し、容赦なく踏み荒らされていた。

「探せ!」エドアルトが、兵士達を怒鳴りながら足を踏み鳴らしてその白い廊下を速足で歩いた。「ほんのさっきまで結界が維持されていたのだ!まだここに居るはず!かなりの術者だぞ、心せよ!」

兵士達は、片っ端から扉を蹴破っては雪崩のように押しかけて行く。ロマノフが悠然と歩いて来て、エドアルトに並んだ。

「強い結界だったがやはりお前の敵ではなかったか。」

エドアルトは、チラとロマノフを見て、目を細めた。

「シードル、見てただろう。オレ一人では破るのは無理だった。この数で攻撃してあれだけ持ったのだぞ。あれだけの結界を張るのは相当の力の持ち主だ。やはりここには、陛下が15年前に逃がしたとおっしゃっていた子供が居るのではないか。」

ロマノフは、フッと笑って手を振った。

「あんなもの。生きておれば今はもう子供ではないだろうが、パルテノンからここまでどれほどの距離があるというのだ。あんな子供が生きて逃れたなどと考えられん。ここに居るのが生き残りであるのは私も同意するが、あの子供は居らんと思うぞ。」

エドアルトは、それでも険しい顔のまま、前を向いた。

「油断するな。陛下があれほどお気になさっていた子供なのだぞ。もし居たら、何としても陛下の御前に連れて参らねば。」

ロマノフは、それを聞いてスッと表情を硬くした。

「…そんな者より、刻印よ。刻印を持つやつを、何としても御前に。今はそれが最優先だとおっしゃっていたではないか。時が近いと…我らには、何の時であるのかお教え頂けないが。」

エドアルトは、回りを走り回る兵士達に見向きもせずにロマノフを見た。

「刻印持ちは、あの戦闘員達の中にしか居らんだろう。それを探し出したいのなら、お前はあっちの洞窟へ行った方が良かったのではないのか?リュトフを行かせたようだが、戦闘員をまとめて捕らえるならこれがチャンスであったろう。」

ロマノフは、首を振った。

「私は近くに居なかった。パージに居たではないか。リュトフがシーラーンからちょうど離れる所だったゆえ、あいつを行かせた。あれなら抜かりない。」

エドアルトは、フンと鼻を鳴らした。

「オレはあんまり信用してないがな。ヤツはオレには無礼なんだぞ?知ってるのか、シードル。」

ロマノフは、やっとフッと表情を緩めた。

「知っている。私に馴れ馴れしく話すのが気に入らぬらしい。同期で友なんだと何度も言ってるんだがな。」

エドアルトは、更に奥へと歩き出した。

「あいつとは格が違うんだって言ってやれ。オレはあいつらだけでは心もとないし奥を調べて来る。」

そうして、奥へと走って行った。

ロマノフはそれを見送ってから、また険しい顔になったのだった。


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