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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
使命を探して
77/230

地下水脈にて

慎一郎は、ゴウゴウという水の音と、自分の髪を滑り落ちる水滴にハッと目を覚ました。

急いで身を起こすと、ほんのりと見える岩場、側に座っていたショーンがこちらを向いて、顔を覗き込んで来た。

「おお、気が付いたか。安心しな、レイもサトカちゃんも無事だ。もっとも、ここは地下水脈らしいし、オレ達はその脇の僅かな岩場に張り付いてる状態だがな。」

言われて、慎一郎は辺りを見渡す。

薄っすらと見えるそのすぐ目の前には、暗い水がごうごうと音を立てて流れている水面があった。よく見ると、自分は僅かな岸のようになっている岸壁の淵に、何とか体を横たえていた状態だったと分かった。

段々と目が慣れて来て、ショーンの向こうから心配そうにこちらを覗いている聡香が見えた。慎一郎は頭を振って自分の気持ちを引き締めると、慎重にそこへ座り直した。

「すまない、ショーンが助けてくれたのか。オレも弱くなったもんだ。」

ショーンは、自嘲気味にそう言う慎一郎に向かって、真面目な顔で首を振った。

「いや、あの激流に二回も流されたらそうなる。レイもしばらく意識が無かったんだ…お嬢ちゃんを首に捕まらせて両手にお前達、さすがのオレももう駄目かと思ったが、上手い事水路が曲がってる所があってそこへ引っ掛かったんでぇ。で、サトカちゃんと二人で二人を必死でここへ引っ張り上げたってわけさ。」

聡香は、目に涙を浮かべて何度も頷いた。

「本当にご無事でよかったこと。ショーンさんも何度も沈みそうになられて…私も、もう駄目かと思いましたわ。」

慎一郎は、聡香を見上げた。

「すまない、君のことは私が責任を持つ約束なのに。翔太はそれを守っている。美夕から離れず守っていただろう。今は離れてしまっているが、だから翔太は、焦っていると思う。」

それには、聡香は驚いたような顔をした。

「え…?約束とおっしゃいますと?」

慎一郎は、疲れたように頷いた。

「チームが四人になった時、人並みに戦えたのはオレと翔太だけだっただろう。だから、緊急時に迷わないように、どちらを守るのか取り決めたんだ。オレは君で、翔太は美夕。だから常に、オレは君と行動していただろう。翔太も、美夕から目を離さなかった。」

聡香は、少なからず驚いたような顔をした。

「ま…あ、知りませんでしたわ…。」

玲が、焦れたように聡香の後ろに立ち上がって覗き込んで来た。

「そんなことはいい!それより、慎一郎、何か案はあるか。ここには横穴もないし、ほんとに流れの途中に引っかかった感じなんだ。魔法も使えないのに、こんな場所に長く居るわけにはいかないだろう。ショーンが言ってた、ムークスだって来るかもしれないじゃないか。」

ショーンは、玲を振り返って言った。

「そんな心配はねぇよ。ムークスは水の中は来ねぇからよ。だが、水が得意な魔物でも居たら面倒だ。そもそも地下水脈のことについて知ってる奴はこの中に居ねぇのか。」

残りの三人は顔を見合わせる。慎一郎が、首を振った。

「すまないな、ここに居るのは皆異世界から最近来たばっかりの新参者だ。海斗達だったら知ってたかもしれないが、オレ達は分からないな。」

ショーンは、それを聞いてうーんと考えるような顔をした。

「そうか…考え過ぎならいいが、流されて行く兵士が悲壮な顔で地下水脈へ流されちまうと叫んでたのが耳を離れなくてよ…なんかあるのかと思っちまったんでぇ。ただ、確かにもう、魔法はギリギリだ。オレの力で無理に光を灯してこの明るさだぞ?こんな命の気を食わねぇ術でこれだ。申し訳ないがオレには何も出来ねぇよ。」

だから、ショーンの髪もぼうっと光っているだけで回りがはっきり見えないのか。

慎一郎は、今更ながらに魔法に頼っていたのを痛感していた。この世界では、まるで電気のように命の気を使う。それがなくなると、本当に死活問題なのだ。

「地の理もないしな…ここがどの辺りなのかも分からない。結構流されたか?」

玲が言うと、ショーンは頷いた。

「あっち、当然だが川上から流されて来たんだが、物凄い勢いだったから、流されてる時間はそうでも無かったのに、距離は結構来ちまったな。先に流された兵士の奴らは全く見えないし、まだまだ奥まで続いているようだ。ただ、幸か不幸か道は一つみたいだな。この広い天井の高い空間が、地下水脈と言われる場所の全てだろう。支流とかねぇ。オレ達は脇から崩れた場所があって流されたが、ここへたどり着いた…だからここが地下を流れる水の終点なんだろうな。地下の水はみんなここへ来て一つの流れになるわけだ。」

慎一郎が、腕輪を開いて見た。

「…方向としては川下の方が西北西だ。ということは、普通に考えたらそっちが海なんだろうから、オレ達が居た場所から考えたらパージの方角になるか?」

しかし、ショーンは紙の地図を見て、首を振った。

「いや、かなり流されたと言ったろう。オレ達が居たのはこの辺」ショーンは、地図を指した。「脇から流されて、地図を見たらあっちから流されて来たから、ええっと、ここから見たらほぼ南西から流されて来てこの本流へ来たから、ここから西北西となるとライデーンの方角だ。」

玲が、驚いた顔でショーンを見た。

「かなり流されてるじゃないか!」

ショーンは、頷いた。

「このオレがもうダメかと思ったって言っただろうが。この上辺りに、普通の水を感じるんでぇ。こんな感じのデカイ河が上に流れてるとしたら説明がつくんだよ。」

慎一郎は、薄暗くショーンが照らしている周囲を、目を凝らして見た。最初より目が慣れて来たのか、なんとなく見える。確かにここは広い空洞で、天井は高くゴツゴツとしていて、その岩壁が丸く地底の川を包んでいた。今居る僅かな岸のような淵は、長い時間水に晒されて幾らか削られた跡のようで、後ろの岩壁まではなだらかにカーブしている。天井に比べたら、いくらかつるつるとした触感だった。

だが、ショーンが最初に言った通り、ここには他に繋がるような横穴もなく、手をかけて登れるような壁の様子でもない。本当に自分達は、ここへ一時引っ掛かって助かっただけなのだ。

慎一郎は状況を察して、息をついた。

「…これは…気は進まないが、この水脈を泳いでどこか横穴がある場所を探すしかないだろうな。」

玲は、同じように嫌そうにしながらも、頷いた。

「お前もそう思うか。だが、みんなで泳ぐのは無理だろう、聡香ちゃんがやばい。まず誰かが行って探して、見つかったら戻って連れて行く。目標もなくみんなで水を漂うのは危ないだろう。」

しかし慎一郎は、目の前でゴウゴウと流れる水を見つめた。この水流を、泳いで戻って来るのは至難の業だ。魔法も使えないここで、戻って来るということは、逆走しなければならないのだ。そんなことが出来るとは、とても思えない。少なくても、慎一郎には無理だった。

「無理だ。お前の言うことは分かるが、川下に行くにしろ川上に行くにしろ、往復のうちどちらかは流れに逆らって泳ぐ必要があるだろう。この流れの強さだ…移動は至難の業だろう。」

それには、ショーンも同意した。

「ああ。この場合泳ぐなら川下だろうが泳ぐというより流される感じだろうし、戻って来るなんてオレにも自信はねぇ。ロープを繋いでたってそれを辿って戻って来る力すらあるかどうかわからん。申し訳ないがお嬢ちゃんには、がんばってオレ達に掴まって着いて来てもらうしかないだろうな。」

聡香は、ここへ来て自分が重荷になっているのが分かって、下を向いた。

「申し訳ありません…泳いだことなど、無かったので。どうやったら浮けるのかすら分からないのですわ。」

慎一郎は、聡香を見た。

「分かっていて一緒に行動しているのだ。君は気にする必要ない。」

一見気遣っているように聞こえるが、実際は重荷だと認めている言い方だった。玲が、自分が背負っているカバンを下ろした。

「小さくした道具の中に、何か役に立つ物は無いか。海斗達が潜んでいた岩屋から出る時に、いきなり翔太に言われて片っ端から有った物を小さくして詰めて来たから、何を持ってるのか分かってないんだが。」

慎一郎は、自分もウエストに着けているカバンを開いて中を探った。

「オレもだ。だが…寝袋やら、フライパンやら鍋やらが見えるな。食い物を探してその辺りをまとめて小さくして見もせずに詰めたから。」

玲は、暗くて見えない中袋の口を大きく開いてカバンの中を引っ掻き回している。ショーンが、髪ではなく手を光らせて、その中へと突っ込んだ。

「これで見えるか?船とかないのかよ、ゴムボートみたいなやつ。」

玲は、顔をしかめて首を振った。

「あの居間でそんなもん持ち出せるはずないだろうが。それにそんな旅をするつもりじゃなかったし、オレ自身も街でそんな装備買いそろえてないんだよ。川なんか悠長に移動してたら、軍に見つかってアウトな状況だったしな。」

そう言いながらも、ショーンと二人でカバンの中を確認していると、ショーンが小さな木の板のような物を摘まみ上げた。

「お!これって石の上に渡して椅子にしてた板じゃねぇか?」

慎一郎も聡香も、ショーンが摘まんでいるその板を見た。一見、和菓子を食べる平たい楊枝のように見える。

「そうかもしれんが、板一枚でどうするんだ。」

慎一郎がそう言うと、玲が同じような物を三つほど摘まみ上げてショーンの手のひらに乗せた。

「ほら、ほら、これもこれもだ。リビングの物を一気に小さくして押し込んだからなあ。椅子の板まで持ってたとか思わなかったが、でもこれでどうするんだよ。」

ショーンは、その小さな板を手の上で並べて指先でそろえた。

「うーんどうだろうなあ。これを縄かなんかで繋いでいかだのような形にするってのもいいが、一枚ずつに跨って行くとか掴まって行くとか。お前ら案はないか?」

玲が、手を上げた。

「オレ、サバイバル術結構得意だ。だが…」と、回りを見回した。「ここで元の大きさに戻して、四枚の板を繋ぐなんて無理だ。この狭さだぞ?この板の大きさ覚えてるか。幅は50センチぐらい、長さは2メートルぐらいあった。一枚元に戻したらここはいっぱいじゃないか。」

ショーンは、顔をしかめて自分の手の上の木の板を見た。

「かといって、このままじゃ小さ過ぎて細工出来ねぇしなあ。魔法が使えたら細工なんて簡単なのに。」

慎一郎は、息をついて四枚の木の板のうち、二枚を指した。

「じゃあ、二枚にしよう。一枚に二人掴まって川の流れに乗って行く。最悪終点は海だろうが、それならそれでいい。途中で良さそうな横穴を見つけたら、そこに入るってことで。」

玲が、頷いて小さな紐のような塊を出した。

「ロープで二枚を繋いでおこう。別々にならないように。で、オレ他にかぎ爪の着いた金具着けて縄を持っておく。横穴へ引っ掛けてそっちへ行けるように。」

ショーンと慎一郎と玲は頷き合い、そうして二枚の板を元の大きさに重ねて戻すと、作業に取り掛かったのだった。

聡香だけは、ぽつんと黙ってそれを見ていた。

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