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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神に選ばれし者
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腕輪

美夕がラファエルについてその遺跡の神殿の中を歩いて行くと、ラファエルは奥にある、大きなホールのような、巨大な女神の像が立つ部屋へと入って行った。

美夕がその大きな像を見上げて驚いていると、ラファエルが言った。

「ああ、これはナディア。我らと同じ、命の刻印を持つ命。ゆえ、これは神ではない。ウラノスが申すには、一度天へと戻って再び地上へ降り、今は人として暮らしおるのだという。神と崇められておった頃は、長く地上に囚われておったのだと聞いておる。それでも地上に命の気を流し続けたのだとか。主も我も、そんな命と同じなのだ。皆に崇められたいとは思わぬが、皆を守らねばならぬ。なので主が友を助けるために一人でシーラーンへ向かうと言い出した時には、無謀とは思うがその気概が嬉しかった。ここで主の自覚が少しでも育ってくれたならと思うておる。」

ラファエルは、そう言ってまるで観客席のような半円を描くようにある階段を登って行く。

美夕はそれについて行きながら、自分はそんな大層なことを思ってああ言ったのではないのに、と思っていた。翔太を助けたいと思う。一人でも行けるとなぜか根拠のない自信も湧いて来ていた。だが、今ラファエルが言った通り、無謀なのだ。自分は、やはり深く考えることが出来ていない…咄嗟に感情で動こうとするのは、前から全く変わっていない…。

ラファエルには、そんな美夕の気持ちも見通せるのだろう。だが、それには触れずに、階段を登り切ると、重そうな大扉を、手も使わずに大きく開いた。

その向こうは、また石造りの部屋だった。

そこを歩き抜けると、またさっきよりは小さめな通り扉があり、今度はラファエルはそれを押して、開いた。

その向こうは、岩がゴツゴツと出ている、洞窟の中のようだった。

正面には上に続く階段があって、それでもその階段が到達した先には、天井があって地上へは出られそうにはなかった。

しかし、ラファエルはその階段へと歩み寄って、美夕を振り返った。

「ここぞ。ショウタ達はここから迷い込んで来たのだ。」と、上を見上げた。「昔は使っておった出入り口なのだ。鍵となる石を動かさねばここは開かぬ。と申して今はその石も動かぬように我が気で押さえておるから、誰も入っては来れぬがな。もちろん、ショウタ達が来たのを気取れば入れるつもりであるが。」

美夕は、頷いて腕輪を開いて見た。しかし、腕輪は何も着信する様子はなく、翔太達の位置も表示されなかった。

「…駄目ですわ。ここではまだ。」

ラファエルは、残念そうに階段の上を見上げた。

「ならば登らねばならぬか。しかし上には今兵士が多数居るゆえ…心しての。少し地上を開く。」

美夕は、一気に緊張した。開いたら見えるのでは…。

「あの、ならば待ちますから。ここの皆を危険にさらすわけには。」

ラファエルは、美夕を見た。

「案じずとも上には草が生い茂っておるから、腕の出すぐらい開いても気取られる事はない。ただ、心しての。声を立てたり過剰に動けば兵士に知れる。目につかぬよう、ソッとな。」

美夕は、ごくりと唾を飲み込んで、頷いた。ラファエルは、天井を睨む。

するとただの天井であったそこは、ゆっくりと切れ込みが入り、そこから光が差し込んできた。

美夕は急いで足音を立てないようにと気を配りながら階段を上がると、ソッとそこから、地上を覗いた。

数日ぶりの日の光は、とても眩しかった。

ラファエルが言った通り、草が生い茂っていて外からは見えづらそうだ。

遠く甲冑が擦れるような音と、男達の話し声が聴こえた。だが近くには居ないようだった。

美夕がそこからゆっくりと地上へ腕を差し出すと、途端に腕輪の着信ランプがチカチカと瞬いた。

慌てて腕を引っ込めたが、今ので気付かれたのではと胸がドキドキと拍動して息が上がる。

ラファエルは、気遣わしげに囁いた。

「それは止められぬか。」

美夕は、急いで腕輪を操作した。だが、音やバイブは止められても着信した光は止められない。

美夕は小さな声で答えた。

「はい…無理なようですわ。このまま位置を確認するしか。」

ラファエルは、眉を寄せた。

「…急ぐのだ。その赤い光は目につき易い。いくら茂みの中でも、奴らが気取ると面倒なことになる。」

美夕は迷ったが、ここまで来たのだからと思い切って位置情報の地図を出したまま、腕を地上へと上げた。

再び、チカチカと着信を始める。

美夕は必死に翔太達の位置を示す白い光の丸を探して指で画面を操作し続けた。


「ん?」

兵士の一人が、振り返った。

少し離れて辺りを見回していた他の兵士が、そちらを振り返った。

「どうした?」

兵士は、首を傾げた。

「いや、今何か目の端に光ったような。」

つられて、言われた兵士もそちらを見た。だが、何もない。

「…いや…何も無いようだが。」

辺りは木漏れ日の落ちる静かな平原だった。言った兵士は、肩をすくめた。

「気のせいか。夜通しこんな所で有るか分からない物を探しているから、おかしくなったのかもしれない。」

相手の兵士も、笑って見せた。

「もうすぐ交代だ。それまで頑張ろう。」

言われた兵士は、力なく笑い返した。

「ああ。」

しかし、また警戒に戻ろうとした時、再びチカチカと、赤い光が瞬くのが見えた。小さな光だが、それは規則的に動いている。

「…あれだ!」兵士は声を上げた。「光ってるぞ!」

相手の兵士も、頷いた。そして急いで通信用の魔法を放った。

『ナニカヒカルモノヲハッケン』

そうして、二人はそちらへと慎重なに足を進めた。


美夕は、必死に地図をスクロールした。地図と言っても行った事のない場所は地形は分からず、その場所からの方向が分かる程度だったが、そこに光の印が必ず現れるはずなのだ。

それなのに、いくら探しても翔太達の光の印は無かった。

シーラーンの方角をラファエルから指さされて、そちらを何度も確認しているにも関わらず、全く反応は無かった。

「そんな…そんなはずはないのに。例え腕から外れても腕輪の位置は分かるはず。」

美夕が小さく呟くと、ラファエルが何かに気付いて言った。

「…ならぬ…閉じる。気取られた。」

美夕は、ハッとして草の間から聞こえて来る、草を踏みしめる音とそれにともなった甲冑の擦れる音の方向を見た。真っ直ぐにこちらへ来る…!

慌てて腕を引っ込めた美夕の腕が戻るか戻らないかの間に、地面は閉じて日の光が一瞬にして消えた。

暗闇に息を潜めていると、ラファエルが黙って美夕を促して階段の下へと降りた。

「とりあえず光しか見られてはおらぬようだが…もしかしたら地上からここを破壊して地下を見ようとするやもしれぬ。奥へ。ここを離れた方が良いやもしれぬ。」

美夕は、驚いてラファエルを見上げた。

「こことは…もしかして、この神殿からですか?!」

ラファエルは、美夕を見つめて頷いた。

「考え過ぎであれば良いが、事が起こってから動いておってはあの人数は守りきれぬのだ。参るぞ。時が惜しい。」

ラファエルは、サッと踵を返して奥へと急いだ。美夕は、そんな大事になるとは思ってもいなかったので、震えて来る足を必死に動かしてそれを追ったのだった。

大移動の準備が、慌ただしく始まる事になった。

地下を、あてどもなく進む時間がまた始まるのだ。

ここに住む、何十人もの人達を巻き込んでしまったことに、美夕の心は激しく震えていた。

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