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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神に選ばれし者
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洞窟にて

その頃翔太達は、無心に走って走って、気が付くとかなりの距離を来ていた。

翔太の腕輪で方向だけはきっちり見ていたが、時に細くなるその洞窟は、皆を不安にさせるのに十分だった。後ろから、慎一郎が言った。

「待ってくれ。」先頭の海斗が振り返る。翔太も立ち止まった。最後尾の慎一郎は続けた。「聡香が限界なんだ。少し休めないか。」

海斗は、翔太を見た。翔太は、聡香がもう立っていられないほどフラフラになっているのを見て取って、頷く。海斗は、皆に向かって言った。

「じゃあ、ここで一旦休憩だ。」

今は直径1メートルほどの大きさの穴をやや這い登るような形で進んでいたのだが、そのままその緩やかな斜面に、皆は崩れるように座り込んだ。

もう、全員が限界に近かったのだ。

翔太が腕輪を見ると、もうあの岩屋を出てから4時間が経過していた。

「…疲れるはずだ。もう地上は昼だろう。朝飯も食ってねぇ。」と、皆の中央で照明係になっているショーンを見た。「ショーン、どうだ?あいつらは追って来てるか。」

ショーンは、後ろをじっと見ていたが、そう言われて翔太を振り返った。

「…いや。今探ってたんだが、あいつらの気は別の方向へ流れてるな。恐らく見失ったんだろう。だが、洞窟へ入って来てるのは確かだぞ。どうも力のある術者が混じっているようで、あんまり探ると気取られてこっちの位置がバレる。どっちにしろ、あっちからはこっちが分かってねぇのは確かだから、追ってはこれねぇだろう。奴らはまいたと思っていい。」

力のある術者と聞いて少し顔をしかめた翔太だったが、確かに無数にあった穴をどれに行ったのか知らずに追って来るのは至難の業だろう。

「そうか、とにかく逃れられて良かった。後は方向を間違えずに出口を探して行くことか。」

真樹が、自分のカバンから豆粒のような物を出して、呪文を唱えて元へと戻しながら言った。

「なんか、その辺のパンとか缶詰とかある物みんな詰めて来たけど、食べる?みんなで分けようよ。」

翔太は、回って来るパンを海斗へと手渡しながら、ショーンを見た。ショーンは、まだ何やら険しい顔をして、じっと洞窟の斜め上の方向を凝視している。その目には、追手から逃げ切ったという安堵感など欠片もなかった。再び自分へと回って来たパンを齧って水で飲み下しながら、翔太は言った。

「ショーン?どうした、軍はまいたんだろう。」

ショーンは、ハッとこちらを見た。そして、眉根を寄せた。

「軍は…な。こういう洞窟には、オレ達の土地にもあるんだが面倒な奴らが住んでいる。どうやら、そいつらがここにも居るようなんでぇ。」

やっと一息ついていた皆の食事の手が、ピタと止まった。真樹は、白玉にパンをちぎって与えながら、脅えたように言った。

「何が住んでるんだ…?地底人とか?」

ショーンは、顔をしかめた。

「地底人ってなんだよ。」

翔太が、鬱陶しそうに手を振った。

「そんなことはいい。何が住んでる?」

ショーンは、翔太を見つめた。

「こういう所にしか、住めないヤツらだ。この複雑な洞窟は、オレ達の国にもある。そこには、ムークスっていう魔物が住んでいる。」

魔物と聞いて、皆が息を飲んだ。慎一郎が、後ろから言った。

「聞いたことがないな…オレ達が普段狩ってたのは、メールキンとかミガルグラントとか、小さいところだとルクルクだとかラグ―とか。」

ショーンは、いちいち頷いた。

「ああ、一般的なヤツだな。ムークスってのは目が悪くてな、命の気を読んで追って来るんだ。普段はあんまり人を襲わないんだが、腹が空いてる時…つまり、命の気が足りてない時に出くわすと大変だ。大きさは…うーん胴体が直径1メートルほどが平均で、長さは10メートルに届く辺り。体が粘液でまみれていて小さな手足を使って滑るように洞窟を移動する。その気配がするんだが…あっちもこっちの命の気を気取ってるはずなのに近付いて来ないということは、腹が減ってないんだろうが、不安なことは確かだな。」

亮介が、思わず言った。

「げ。デカいじゃないか!こんなところでそんなのに出くわしたら逃げるに逃げられんぞ。」

ショーンは、困ったように顔をしかめて頷いた。

「そうなんでぇ。あいつら洞窟の中じゃあかなりのスピードだしな。とにかく、その巣には絶対に近付かないこった。腹が空いてなくたって、目の前にご馳走を並べられたら食いたくなるのが情ってもんだろう。」

聡香が、ぶるっと身震いした。他の皆も、顔を見合わせている。ここに15年住んでいる海斗達でも、ムークスとかいう魔物は見たことがないのだろう。

翔太は、ため息をついた。

「じゃあ、ショーンに先頭を行ってもらおう。ムークスとやらを避けて南東に向かいながら、地上へ出る場所を探す。結構な距離を来ているはずなんだが…方位磁針は使えるのに、地図も通信も全くダメだ。ここがどの辺りなのか見当もつかねぇ。」

その時、遠くの方で遠吠えのような、悲鳴のような低く長い唸り声のようなものが聴こえた。

「なに?今の…。」

ブレンダが、飲みかけていたボトルを下ろして呟く。

ショーンが、後ろを振り返って言った。

「ムークスだ。」と、更に探るように暗闇に目を凝らした。「1、2…3体は居るな。オレ達が来た方向、少し南寄りだ。何かを追っている。動きが速い。」

慎一郎が、腰を浮かせた。

「こっちへ来るんじゃないのか。」

ショーンは、まだ暗闇を睨みながら言った。

「いや。軍の誰かが出くわしたんじゃねぇのか。気がバラバラに散っている…魔法が飛んでるな。」

「だったら、オレ達は今の間に移動だ。」翔太は、すぐに中腰になった。頭を打つからだ。「行くぞ!あいつらに気を取られてるうちに、オレ達はもっと遠くへ移動だ!」

真樹が、慌てて出した残りの食べ物を小さくしてカバンへ突っ込む。ショーンは、ふわりと飛ぶと皆の隙間をすり抜けて飛んで海斗の前へと移動した。それを見た亮介が、自分が中央の位置になると急いで杖を上げて、その先を光らせて灯りを維持した。聡香は、慎一郎に気遣われているが、もう疲れ切っているようだ。ブレンダはスティーブに脇から支えられて何とか微笑するだけの余裕があるが、聡香の方は一度座ったこともあって足元がフラフラとおぼつかない。とても歩けるような状態ではなかった。

翔太が、それに気付いて声を掛けた。

「慎一郎、無理そうか?」

慎一郎は、翔太を見上げて答えた。

「ああ、今歩かせるのは無理だな。ここは狭いし、背負うにもなあ。」

しかし、聡香は首を振った。

「這って行けば大丈夫ですわ。足手まといにはなりません。」

しかし、下は岩がゴツゴツと出ていて、膝をついて進むには無理だろうと思われた。

黙っていた玲が、カバンから寝袋を引っ張り出して言った。

「これを。オレの腰と慎一郎の腰に端を結わえて、聡香はこの中へ。もう少し広めの道へ出たら、背負って行こう。それまでは吊り下げて行くしかない。」

慎一郎は、頷いて顔をしかめている聡香を見た。

「さあ聡香、ここへ入るんだ。足手まといと言うのなら、このままじゃ皆に遅れて迷惑を掛けるぞ。オレ達が運ぶ。少し休んで歩けるようになったらまた歩くんだ。」

聡香は、慎一郎にそう言われて暗い顔をしたが、頷いた。そして、寝袋の中へと納まると、玲と慎一郎はその端を腰に括り付けて、持ち上げた。

思ったより、重い。

だが、こうするより他に今前進する方法はなかった。

それを見た翔太が、前を見てショーンに言った。

「じゃあ行こう、ショーン。方角はこっち、魔物に出くわさないように行ってくれ。」

ショーンは頷くと、光らせた髪で前を照らして、どんどんと進んで行ったのだった。

ムークスの声らしきものは、まだ遠く背後から聴こえていた。

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