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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神に選ばれし者
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意味

カーティスが、横から言った。

「じゃあ、あの遺跡にあった台座にミユかラファエルとかいうその男を連れて行ったら、この世界の神が出て来るのか?!今何が起こってるのか、どうやったら帰れるのか教えてくれるんじゃないのか!」

それは、慎一郎も思ったようだ。訳が分からないでいる翔太と海斗、他遺跡へ探索に行っていない者達に、慎一郎は説明した。

「あの、お前達が昔潜んでいたという遺跡の奥で、オレ達は古代語で何か書かれた台座みたいなのを見つけたんだ。ショーンが、そこに何が書いているのか教えてくれたんだが、決められた命がそこに乗れば、神が出て来て答えてくれるのだとか。オレ達は誰もそれが出来ない命だったが、ショーンは今、命に刻印のある者なら神を呼び出せると言ったのだ。美夕と、ラファエルなら神は答える。」

皆の瞳に、希望の光のようなものが灯るのを見たショーンは、悲し気に表情を曇らせ、息をついてから首を振った。

「…無理でぇ。」

しかし、カーティスは食い下がった。

「今言ったじゃないか!命に刻印があるヤツが見つかったのに、何が悪いんだ?!」

ショーンは、チラとカーティスを見てから、改めて首を振った。

「お前達は神がどんな存在だと思ってる。何でも教えて導いてくれる存在か。自分達がどうやったら思うように出来るかって?」

それを聞いた翔太は、グッと眉を寄せた。そうだ神…。なんでもかんでも教えてくれる神ならば、どうして命に刻印なんかをつけて命を下界へ下ろすのか。生まれて何も知らない命に、わざわざ台座へ来て頼まないと出て来ないのはなぜなのか。そんなに面倒見がいいなら、台座などなくてもどこでも出て来て声を掛けるのではないのか…。

「…試練か?」

翔太が、ショーンに問うように言う。ショーンは、また息をついた。

「そうだな。試練だ。神は何もかも手助けなどしてくれねぇ。出来るんだが地上で起こっていることは地上の者が正していくのが当然だと思っている。だからこそ、直接に手を下さずに、自分の目を掛けている命を、わざわざ混乱している下界へと下ろして自分の代わりに導いて行く使命を与えるんでぇ。つまり、命に刻印を持つ奴らってのは、本当なら天で安穏としてられるのにわざわざ神の遣いとして下界で揉まれながら、他の命を助けるために降りて来た有り難い奴らなんでぇ。すっかり忘れっちまってるが、本来は意識は高いし命に力を持っている。中には最初から意識の高いやつも居る。神は、そうやってもまれて更に強い自分に近い命になることを望んで送り込んでいるんで、何でもかんでも聞いて来るような命には見向きもしねぇ。つまり、出ては来ても確信に近い質問をしない事には、答えてはくれねぇだろう。」

呆然とそれを聞いていた、慎一郎が言った。

「つまり…オレ達が美夕に頼んで、どうやったら元の世界に帰れるのか聞いてもらっても、答えてはくれないって言うんだな?」

ショーンは、頷いた。

「そうだ。そんな質問をして機嫌を損ねたら本当に必要な時に出て来ねぇかもしれねぇ。だから、もっと確信に迫ってからでないと神を呼び出すのはやめた方がいいとオレは思う。」

皆が、一様に黙り込んだ。

大勢の人が一か所に固まっているので、息苦しい。そんな中、雰囲気まで重苦しくなったように思えた。

海斗が、胡坐をかいて座ったまま下を向いて、言った。

「…じゃあ…やっぱり、ラファエルが言っていたように、美夕には使命があるんだな。それを成してしまわないと、帰れない。翔太達はそれに巻き込まれた。美夕の刻印は…シーラーンの下にあるパルテノンの、パルテノンの護りっていう本の中に書いてあるものと同じだって言うし、その本を取りに行かないと詳しい事もわからないんだ…。」

黙っていた亮介が、慎一郎の横から言った。

「パルテノンの護り?なんだそれは。」

海斗は、うなだれている。翔太が代わりに答えた。

「なんでも呪術書かなんかのようで、文字通りパルテノンという神殿を守ってるとか言われてるらしいんだがオレ達にも深くは分からない。ラファエルもそこを五歳の時に追われたらしくて、読みはしたが内容まで詳しく思い出せないらしいんだ。」

慎一郎が、鋭い視線を向けた。

「追われた?」

翔太は頷いた。

「王のアレクサンドルにな。いきなり襲撃にあって、巫女達と共に逃れたらしい。」

慎一郎は、ますます眉を寄せた。

「だったらシーラーンはそいつにとったら危ない土地なんだろう。一緒に行ったらまずいんじゃないのか?」

亮介は、頷いた。

「そうだな。だがそれを言うなら慎一郎だって聡香だってそうだろうが。真樹も顔を知られてるし。せめて知られてない奴らでまとまって行った方がいいのかもしれんぞ。」

慎一郎が考えて頷きかけると、海斗が眉を寄せて何やら睨むような顔で亮介を見た。

「…オレ達だけで行けと?」

亮介は、急に敵意のあるような顔で海斗に睨まれて、少し怯んだ。

「いや…別にそういうわけじゃない。オレも翔太も顔は見られてないし、行ってもいいと思うが…」

すると、海斗はバンッと床の岩を叩いて立ち上がった。

「行ってもいいってなんだ?!あのな、お前達は帰れるかもしれない!だが、オレ達は美夕と一緒に何かしたからって帰れるとか限らないんだ!15年前に来たオレ達の中で、同じようなヤツが混じってたはずなんだよ!そいつを助けてそいつがやるべきことってのを果たさせないと、オレ達は帰れないかもしれないんだ!オレ達はオレ達で、帰りたいんだよ!」

いきなり叫び出した海斗に回りの皆は茫然としていたが、カーティスが慌てて寄って行って海斗の肩を掴んでなだめた。

「落ち着け、カイト!何を言ってるんだ、帰れないって?」

海斗は、興奮して息が上がっている。翔太が、少し悲し気な顔をして、頷いた。

「まだ分からないが、向こうで話を聞いて来た限りじゃ、もしかしたら今海斗が言った通り、お前達にはお前達が巻き込まれた時にその巻き込んだヤツが居るだろうってことになったんでぇ。そいつがこの15年何もして来なかったからお前達はここに囚われてるんじゃないかって。」

そこに居たほとんどが15年前にこちらへ飛ばされた者達だったので、皆が顔を見合わせて何やらボソボソと話している。カールが、険しい顔をして行った。

「じゃあ、オレ達はその、オレ達の中のミユを探さなければならないってことか?15年の間に散らばって、どこにいるかも生きてるかも分からない奴を。」

翔太は、カールを見た。

「いや、必ずしもそうではないんじゃないかってラファエルは言っていた。もしかしたらこの世界のどこかに居る神が、15年も囚われたままなのを何とかしようとまた美夕を遣わしたのかもしれないって。」

「だが、推測でしかないわけだな。」慎一郎が、横から割り込んだ。「その15年前に来たっていう美夕と同じ命に刻印があるだろうヤツを、探した方が確実だ。」

それを聞いていたショーンが、控えめに言った。

「じゃあ…提案してもいいか?」皆がショーンを見る。異論のある者はいないようだ。ショーンは続けた。「オレには見分けがつかないが、最近来たヤツと15年前に来たヤツで分かれたらどうだ?最近来たヤツは、そのミユっていうお嬢ちゃんと一緒にシーラーンへ行く。15年前から居るヤツは、自分達の刻印持ちを探す。その間にシーラーン組はいろいろ情報も手に入れることになるだろう。刻印持ち探しが終わった頃には解決方法が分かっているかもしれない。二手に分かれて行動したらどうだ。」

そこに居る、全員が顔を見合わせた。

カーティスが言った。

「だが…本当にこの15年の間に、オレ達の仲間は各地に散らばってしまってるんだ。この地に定住してる奴らが結構居る。死んだ奴らも居る。軍がそれでなくてもお前達を探して警戒してる今、全ての街へ行って確認して回るなんて難し過ぎる。そもそも死んでたら、どうやってそれを知るんだ。探し出すのは至難の業だぞ。」

すると、海斗が自分を落ち着けながら、言った。

「美夕を連れて来た鍛冶屋のレナートが、腕に刻印を付けたヤツを見たかもしれないって言うんだ。」カーティスが目を丸くすると、海斗は続けた。「どうやら、嫁と娘を殺された辺りに見たらしい。戦闘員をしょっちゅう雇ってたおっさんで、恐らくその時に見たんだろうってことだったが、思い出せないって言っていた。今美夕と一緒にラファエルの所に残って、思い出すように努力してくれてるはずなんだが…。」

ショーンは、何かに納得するようにうんうんと頷いた。

「だったら何とかなるな。ちょっとでも覚えてるなら術で何とか出来るんだよ。オレがひとっ飛びしてその遺跡とやらへ行って、ちょちょいっと思い出させて来るか。」

それには、翔太が言った。

「いや、あっちにも術を使えるヤツが居るって言っただろう。ラファエルだけでなく、アガーテってばあさんも居てな。こっちへ来る前、思い出すのを手伝うとか言ってたから、多分術を掛けるんだと思う。同じようなもんだろ?」

ショーンは、首を傾げた。

「どうだろうな。だが術を知ってるんなら難しい術じゃねぇし、恐らく大丈夫だろう。だったら、そこへ行って聞いてから探しに行けばいいじゃねぇか。何でもやってみないと出来ないなんて分からないぞ。やろうと思えば、案外何とかなるもんだ。」

それに海斗とカーティス、クリフが頷いた時、奥に居る、初老の男が言った。

「帰る方法を探してくれるのは嬉しいが、しかしオレ達はどうなる?ここには女子供も居るし、オレ達は魔物と戦うにも体力もない。隠れ家の移動もままならなくなる。全員が出払ってしまったら帰る頃には全滅しているかもしれない。」

海斗が、眉を寄せる。しかし口を開く前に、ショーンが言った。

「何言ってるんでぇ、お前いくつだ?オレとそう変わらねぇんじゃねぇのか。戦う気がありゃあ誰だって戦える。恥ずかしくねぇのかよ。」

相手の男は、怒ったのか顔を赤くして言った。

「オレは50だ!もうとうに戦うことなんて出来なくなってる。昔は先頭切って戦ったもんだがこの歳じゃ体が動かない!」

それには、亮介が呆れたように言った。

「オレ、49だぞ。体使った実戦なんて今回の旅が初めてだ。切り込み隊長にはなれんが、魔法で戦ってるぞ。お前のは、年齢に寄り掛かった甘えだ。帰る方法が見つからなかったらどうするんだ?海斗達だって年齢が上がって来るぞ。そっちのちびっ子を戦わせるのか?こんな場所で誰かに寄り掛かるなんて間違いだ。女子供じゃあるまいし、おっさんも誰かを守ろうとしろよ。」

相手が言い返せずにグッと黙ると、ショーンが言った。

「オレ、46なんだ。だが切り込み隊長だってやってやるぞ。なまけ者はこの際放って置いていい。生きる気力のあるヤツから助けて行くつもりだ。そのつもりで居ろよ。」

「べ、別にオレは生きる気力が無いわけじゃ…!」

その男は反論していたが、海斗が言った。

「そうだな。カルロ、オレ達も言おう言おうと思っていたんだ。いつまでもこの人数を三人で守るのは難しいって。最近ブレンダとスティーブを助けて仲間になってくれただけで、結構負担も減って楽になったんだ。ここには男がオレ達以外に今6人も居る。戦えないと言ってたが、ショーンや亮介のように戦っている人も居る。これから戦ってくれ。オレ達は、ここで生活するんじゃなくて帰りたいんだよ。これから帰る方法を探すんだ。やっと手がかりが見えて来たのに!」

カルロと呼ばれたその男は、黙った。他に居る五人も険しい顔で黙り込んでいる。それぞれの連れ合いになっている女性、現地の人やその親戚も入れて今ここには8人の女性と、5人の子供が暮らしている。この人数を、たった三人で守って来た海斗、カーティス、クリフには、思うところもあったのだろう。

カルロは、低い声で呟くように言った。

「…考えさせてくれ。」

しかし考えたところで、何も変わらないのだが、それを慎一郎も翔太も、真樹も黙って見ていた。

カルロと、残りの五人の男達は、奥へと入って行った。

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