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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神に選ばれし者
59/230

それぞれの

慎一郎は、玲と亮介、カーティスと共にショーンを連れてやっと隠れ家へと帰って来た。

真樹まさきと聡香が大急ぎで中から走り出て来て、出迎えた他の者達を掻き分けるようにして前へと出て来た。

「お帰り!思ったより早かったね!」

真樹がそう言うと、慎一郎は渋い顔をした。

「こっちは必死で歩いて来たから疲れてへとへとだ。とにかくは休みたいよ。」と、後ろを見た。「で、こちらがショーン。北の大陸から調査に来ていた一人で、今回オレ達が異世界からこちらへ迷い込んだと聞いて、手助けしてくれるためにここへ来てくれたんだ。」

ショーンは、赤い瞳で皆を見回して、軽く頭を下げた。

「ショーンだ。オレはあちらでは術士と呼ばれている。よろしくな。」

留守番をしていたスティーブとブレンダが出て来て、ショーンを見上げて少し、警戒気味に言った。

「…見たこともないような風貌だが。軍のスパイとかじゃないだろうな。」

スティーブが言うのに、カーティスが急いで首を振った。

「それはない。ショーンはあの遺跡の奥から出て来たし、軍も知らないような術を使う。お前らは、飛んでる軍人を見たことがあるか?」

みんな、怪訝な顔をする。ショーンは、ここは飛ぶべきなのかと判断したらしく、スッと浮いて見せた。

「ほら。」

途端に見ていた大人はみんな、仰天して岩屋の奥へと反射的に飛び退って行った。だが、子供達は物珍し気にそんなショーンを見上げて、目をキラキラとさせている。

「わああああすごい!飛べるんだ!」

ショーンは、上から見下ろしながら苦笑した。

「まあ向こうじゃそんなに珍しいことでもないんだが…いや、まあ飛べないヤツの方が多いには多いが。」

ショーンは、なぜか言い訳のように子供達に言っている。慎一郎は、スティーブを振り返った。

「まあそういうわけで、彼は異世界の住人と接するのは初めてじゃないらしいし、この世界のことも良く知ってる。何より術をたくさん知ってるので、オレ達の力になってくれるだろう。しばらく共に行動したいと思っているんだ。」

スティーブは、困ったようにブレンダを見た。

「それは…オレ達だって帰りたいし、力のある魔法使いには居て欲しいが、海斗がまだ帰って来てないんだ。カーティスはいいと思うんだな?」

カーティスは、頷いた。

「ああ。オレ達を手伝っても何の得にもならないのに、来てくれたんだしな。カイト達は、まだ帰らないのか?」

それには、ブレンダが答えた。

「まだなの。あっちも合流に手間がかかってるのかもしれないわ。とにかく、こんな所で居て見つかってもいけないから、中へ入って。」と、浮いているショーンを見上げた。「あなたも。目立つじゃないの。」

ショーンは、スッと地面へと降り立ちながら、ブツブツと言った。

「これはお前らが信じてねぇみたいだからじゃねぇかよー。」

慎一郎は、困ったように息をついて、ショーンに謝った。

「すまない。まあとりあえず中へ。仲間を連れに言った奴らがまだ戻ってないんだ。ここで待とう。」

ショーンは、大袈裟に息をついてみせた。

「はいはい。じゃあオレはその間にこれまでのことをお前達から聞こうか。対策を考えるのに近道だろう。」

玲が、頷いてショーンの背を押した。

「ここまでの道で結構話したじゃないか。わかったよ、何でも話すからとにかく入ろう。」

そうして、亮介もカーティスも共に、まだ戸惑っている避難民たちの中へと四人は入って行ったのだった。


ラファエルは息をついて立ち上がった。

「とにかくはそろそろ主らも出発せねばならぬ。もう夜が明けて数時間。主らの隠れ場へ戻って仲間と話すのであろう。どちらにしろ我は行かねばならぬと思うておるのだ…主らの、返事を待つゆえ行く者だけ我と共に。戦える者が皆参ると申すなら、先ほど申した通りこちらで残りの者達を保護しようぞ。」

翔太も、海斗もそれにつられて立ち上がった。

「分かった。海斗の方の痣の持ち主が気になるところだが、レナートが思い出すのを待つのも時間が惜しいしな。」と、美夕を見た。「美夕、行こう。慎一郎も聡香も合流しているし心配するこたねぇから。」

だが、美夕はじっと翔太を見て考えたのち、首を振った。

「私は、ここで待ってるわ。」翔太が、抗議するように口を開きかけたが、美夕は重ねて言った。「待ってる。どうせ、ラファエル様と合流するんでしょう。翔太と海斗さんの足なら、きっとここから隠れ家まですぐだけど、私が一緒に行ったら遅くなるわ。私はここで、ラファエル様と一緒に待っているから。翔太は、みんなと話をつけて来て。私は、絶対行くし。」

それを聞いて、翔太はまだ異議がありそうだったが、仕方なく頷いた。美夕が言った通り、ここからの道のりはやはり険しいし、翔太と海斗の足なら数時間でも、美夕が居るとなるともっとかかるだろう。どうせラファエルとは合流しなければならないのだから、美夕が言うことはもっともだった。

「だが、すぐに戻って来る。隠れ家の奴らはきっとここへ来たがるはずだ。誰が一緒にシーラーンまで行くかは分からないが、それでもオレは絶対に行くから。」

美夕は、どこまでも美夕を案じているらしい翔太に、微笑んで見せた。

「ええ。待ってるわ。」

翔太は、そう言いながらもまだ納得していないようだったが、ラファエルを見た。

「すまないが、こいつを頼む。こんな風に言ってるが、まだ何もよく分かってねぇんだと思うんだよ。オレ達は、これから面倒の真っただ中へ行こうとしてる。少しは術が使えるように、教えてやってくれ。」

その言い方がまた少し腹が立ったが、今までの自分が自分だったし、翔太が居なければ何回死んでいたか分からないので美夕は何も言わなかった。

ラファエルが頷くと、隣りのアガーテが言った。

「ミユには我がもっと知っておいてもらわねばならぬことがあるからの。ここに残ると申すなら願ったりよ。我からいろいろと教えておこう。ラファエル様は、そのような暇はおありにならぬしな。この際であるからリーリアと共に、我が我の知り得る命の刻印のある者の使命が何たるかを、しっかりと教えておこうほどに。」

レナートが、困ったように枯れ木のような体をゆすりながら、ラファエルと翔太を交互に見ながら、言った。

「その…オレはどうしたらいい?」

ラファエルが、それには答えた。

「ああ、主はここに居れば良い。軍に追われて今さらに帰ることなど出来ぬだろうし、それに、カイトが主に思い出してもらいたいものがあろうしな。」

海斗は、厳しい顔をして何度も頷いた。

「そうだ。レナート、オレは翔太と一緒に皆を連れてこっちへ戻って来ると思うが、その時までにどうしても思い出しておいてくれ。オレ達が帰れるかどうかが掛かっているんだからな。頼んだぞ。」

レナートは、顔をしかめて身を縮めた。

「まあ…何とか頑張ってみる。」

アガーテが、同情したように苦笑した。

「ならばあとで我が手伝ってしんぜようぞ。」

レナートは、それを聞いてギクリと肩を震わせた。いったい、何をされるのかといった感じだ。恐る恐るアガーテを見つめると、言った。

「それは助かるが…いったい、何をするのかね?痛いのはカンベンしてくれ。」

海斗は、途端に怒って言った。

「あのな!オレ達が帰れるかどうかが掛かってるのにちょっとぐらい痛くても我慢しろ!」

そんな海斗をアガーテは手を上げて制すると、呆れたように言った。

「痛みなどない。少し主の頭の中を整理するのを助けるだけよ。ほんにもう、そのようなことで争うでない。我らついぞ争いなど目の前で見ておらぬで、疲れてしようがないわ。」

本当に疲れたのか、アガーテは肩を力なく落とすと、下を向いた。美夕が、慌ててアガーテに駆け寄った。

「もう、アガーテ様はお若くないんだから!早く行って帰って来て、ここは私がレナート叔父さんにも思い出せるように手伝うから。早く帰りたいんでしょ?じゃあ早く始めないと!」

翔太は、それを聞いて海斗を突いた。

「ほら、美夕にこんなこと言われるなんてよ。さっさと行こうや、こっちはこっちでうまいことやってくれるさ。」

海斗は不満そうに頷くと、それでも翔太について、そこを出て行ったのだった。

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