大陸
ショーンは、若い頃にはもしかしてやんちゃをしたかもしれないが、今は落ち着いた、という感じがぴったりな男だった。
綺麗な顔立ちは生来のものだろうが、いろいろ苦労があったのか、今では目じりに皺も少し見えて、それなりの年齢になっているようだった。
会っていきなり歳を聞くのも無粋な気がして、慎一郎は何も言わなかったが、さっき嫁だと言っていたリリアナという女は、40歳を超えている、と言っていたので、自分より結構年上だろう。
それでも、若々しいのは間違いなくて、背筋もしゃんと伸びていて、体格も良かった。
慎一郎は、そんなショーンに言った。
「オレ達は、ここから歩いて4時間ほどの洞窟を隠れ家にしていて、そこからここへ、何か情報はないかとやって来たんだ。だが、奥へ行っても何もなくて、しかも唯一見つけた台座の横の文字は古すぎて読めないしで、諦めて帰ろうと思っていたんだ。夜は魔物が狩りをするし、明日の朝には帰るつもりでいた。」
ショーンは、頷いた。
「だろうな。あれはオレ達の国でも読める人は限られているんだ。オレは読める。」
亮介が、横から身を乗り出した。
「あれは、いったい何て書いてあったんだ?オレ達の助けになるようなことか。」
ショーンは、顔をしかめた。
「うーん、どうだろうな。あれを使うには、資格が要るんでぇ。オレですら使えねぇんだから、お前達が仕えるはずはないだろうが、そうだな、お前達の中に、扉の上のサインが見える奴は居るか?」
四人は、一斉に扉の上を見た。
だが、そこには何も無かった。
「…何も無いな。」
慎一郎が言うと、横で玲も頷く。他の二人も、同じようだった。
ショーンは、首を振った。
「じゃあ無理だな。オレは見えるんだが、それでも駄目なんでぇ。」訳が分からないといった顔をしている四人に、ショーンは困ったように続けた。「何から説明したらいいんだか。ええっとな、神を信じてるか?」
カーティスが、間髪入れずに頷いた。
「信じてる。」
だが、慎一郎と他二人は、戸惑いながら顔を見合わせた。居ないとも言えないが居るとも言えない。
ショーンは、言った。
「そうか、まあ神ってのはいろんな呼び方をされてるが、この世界の中では同じ神だと思ってたらいいんじゃないか。そりゃ、世界には山ほど居るんだが、この世界を作った神限定としたら、あの台座には、その神か、もくしは神の眷属が来て願いを聞いてくれる場所なんでぇ。だが、使用制限ってのがあってな。」
玲が、唸るように言った。
「…まあ、あっちもこっちも願い事を聞いてたら、忙しくて仕方がないわな。」
ショーンは、それにも辛抱強く頷いた。
「そうだ。で、あの台座を使おうと思ったら、あの上に乗って、神を呼び出すしかない。しかし、神は資格のない奴らの呼び声には答えないし、出て来ない。そういう決まりになってるんだ。この資格のあるやつってのが、生まれつきのもんで、修行したとか何とかで資格が発生するとかそんなこた絶対ない。人が生活するのの助けにするために、神が特別に下ろした命限定ってわけなんだ。そういったことが、あの台座の横には説明されてあるって訳だ。」
慎一郎は、ハーッと長い溜息をついた。
「じゃあ、どちらにしろオレ達では駄目だってことだな。帰り方を教えて欲しいと言いたいが、神はオレ達の願いを聞きに来てくれないんだろう。」
ショーンは、気の毒そうにうなずいた。
「そうだな。だが、そもそも私的な願い事をするようなヤツには、あの台座を使う資格はないだろうとオレは思うぞ。世のためとか人のために願うような人が、恐らく資格のあるヤツだ。ま、パッと見分からねぇんだけどよ。まだ未熟で、その辺の兄ちゃんとか姉ちゃんっぽいのに、資格がある奴も居るし。」
玲が、視線を落として言った。
「振り出しか…やっぱり、戻ってこれからのことをみんなで考えた方がいいみたいだな。どっちにしろ、隠れてるだけじゃ何も分からないだろう。カーティス達は、15年もこっちで隠れて生活してて、何も起こらなかったんだ。オレ達は、積極的にいろいろ調べて動かないと、本当にここで年老いて死ぬことになるぞ。」
慎一郎は、頷いた。分かっていることだった。だからこそ、情報を得ようとシーラーンへ行こうとまでしたのだし…。
ショーンは、じっと四人の顔を代わる代わる見て、言った。
「もしかしたら、険しい道のりになるかもしれねぇぞ?お前達が来たのは、恐らく何か成すべきことがあるからだと思う。だが、それが何なのか分からねぇ。もしヤバイ時が迫ってるなら、回りが激動し始めて否応なく巻き込まれるだろうから、その流れに身を任せたらいいんじゃないかって思う。オレも、役に立つと思うからついて行ってやる。だからって、出来ることは限られてるけどな。あっちの国王陛下から、干渉するなと言われてるからよ。」
慎一郎は、自分が持っている、リーリンシアの地図を出した。
「オレ達が持ってるのは、これだけなんだ。そっちは、地図を見せてはくれないのか?」
ショーンは、じっとその島の地図を見ていたが、首を振った。
「今は無理だな。必要が出たら、見せてもいい。お前達は、こっちの世界の住人じゃないんだし、ここの住人に見せないというなら、提示してやろう。だが、まだどうなるか分からねぇしな。今はカンベンしてもらおう。」
慎一郎は、玲と亮介、カーティスと視線を合わせた。そして、ため息をつくと地図を畳んで自分のカバンへと収めた。
「…仕方がない。じゃあ一緒に仲間に会ってもらって、言えることは言ってもらうってことでいいか。何度も聞くが、オレ達の帰り方は知らないんだな?」
ショーンは、真面目な顔で頷いた。
「知らねぇ。帰りたいなら、お前達の使命が何なのか調べてみなきゃならねぇ。待ってるんじゃなく、攻めてくよりねぇな。」
慎一郎は、その言葉の意味を考えて険しい顔をした。亮介が、神妙な顔でちらりと玲を見る。玲は、厳しい顔でそれを見返してから、絞り出すように言った。
「…シーラーンへ行くしかないってことか。」
慎一郎は、玲を見て頷いた。
「それしか、情報を得られる方法がない。他の港に降りた仲間を探すのは後回しにしよう。人数ばかりを揃えても、恐らくは捕まる危険が増えるだけだ。それより、そいつらにはシーラーンへは行くなと、軍に気を付けろと警告だけして、オレ達だけで探って来よう。」
ショーンは、黙ってその様子を見ている。カーティスが、言った。
「ずっと避けて来た場所だからな…カイト達を説得するのには骨が折れるかもしれないが、それしかないならオレも説得を手伝う。」
四人は頷き合って、時計を確認した。今は午前3時…。
「…夜明けまで、あと二時間。少し寝ておくか。」
慎一郎が言う。ショーンは、頷いて立ち上がった。
「お前達は寝たらいい。オレは睡眠は足りてるから少し、外の様子を見て来らあ。」
カーティスが、慌てたように同じように立ち上がって言った。
「やめた方がいい。日が昇るまでここらはメールキンがうろつくから一人じゃ面倒だぞ。」
ショーンは、声を立てて笑った。
「メールキン?あんな小っせぇ魔物、気にするこたねぇよ。所詮あいつらは飛べねぇんだ。オレはこの島なら飛べるし心配すんな。」
そう言って、軽快に出て行った。それを見送って、重苦しい空気のままで四人は顔を見合わせた。そして、慎一郎が諦めたように言った。
「もう、深く考えるのはよそう。あれが、オレ達の力になってくれるって言うんだから、それを信じて一緒に行くよりないだろう。今は、とにかく夜明けまで寝よう。」
そうして、無理やりに目を閉じると、四人は寝ようと努力した。
だが、これからのことが頭の中を巡り、あまり眠れなかった。




