表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神に選ばれし者
46/230

地底

美夕は、いきなりの事に反応することが出来ず、呆然とその男を見つめていた。

しかしレナートは、美夕の前へと進み出て庇うようにし、言った。

「オレは、アデリーンで鍛冶屋をやってますレナート、こっちは姪っ子のニコラです。地下の洞窟に迷い込んじまって二日も彷徨っちまってて…その、突き当りの向こうに何かあるように思ったんで、死にもの狂いで破っちまって出て来ました。壊してしまって、申し訳ありません。」

相手は、じっと睨むようにこちらを見ている。その男の立つ廊下側は明るく、そちらの様子が良く見えた。その男の脇には、わらわらと何人もの同じような、しかしもっと簡素な白い服を来た男達が集まって来ていて、こちらを覗き込んでいた。美夕がドキドキと狂ったように拍動する心臓を何とか抑えようと必死になっていると、その男の脇から出て来た、少し地位のありそうな初老の男が言った。

「…いかがでしょう、ラファエル様。」

ラファエルと呼ばれたその若い男は、目を細くして言った。

「偽りぞ。」と、レナートを見つめた。「主の言うこと、ほとんどが偽りであるが所々が真実。例えば、アデリーンから来た鍛冶屋のレナートであるのこと、洞窟で二日彷徨っていたことは真実。しかし他は偽り。何を隠しておるのか知らぬが、偽りを吐くヤツをここで野放しには出来ぬ。」

レナートが愕然として目を見開くと、その初老の男は、回りで待機していた他の男達に軽く頷きかけた。すぐに、他の男達がわらわらと中へとなだれ込み、レナートの腕を両脇から掴んで拘束した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

レナートが言って必死に腕を離そうとするが、その腕はびくともしない。美夕は、それを見てやっと我に返り、慌てて言った。

「待ってください!その人は、私を庇おうとして、そう言ったんです!私は…美夕といいます。その人が軍から隠して世話をしてくれていたから、こうして無事でした。その際、私を姪のニコラだということにしてくれていて、そうして連れて行かれずに済んだんです!ここへ来たのも、仲間と私が合流出来るようにと、無理に街の地下から軍の目を逃れて脱出出来るようにと…ただ、私を助けてくれようとしているだけなんです!」

ラファエルは、片眉を上げた。初老の男は、ラファエルを見る。ラファエルは、チラと初老の男を見て、頷いた。

「全て真実ぞ。」と、じっとその赤い瞳で美夕を見つめた。「軍に追われておる上甲冑を着ておるということは、主は話に聞いておる新しく現れたとかいう戦闘員の一人であるな。仲間と会うと?」

美夕は、どうしてだか分からないが嘘が見分けられるこの男に、嘘など言っても無駄だと思った。なので、頷いた。

「はい。私は力がなく危ないので…レナートさんに、仲間が匿ってくれるように頼んで、アデリーンに置いて行かれたのです。でも、準備が整ったのか、合流出来ることになって…。」

ラファエルは、それを聞いて背後の無残に崩れ去った壁を見た。そして、フッと笑うと、言った。

「力がないとの。」と、踵を返した。「良い。ではそちらの男と共に、ついて参れ。」

初老の男が、驚いたようにラファエルを見た。

「ラファエル様?」

ラファエルは、足を進めながら言った。

「この女は嘘をついておらぬ。軍に追われておると申すなら我らと同じ。どのみち我は、こやつらと話をしたいと思うておった。良い機ではないか?バルナバス。」

バルナバスと呼ばれた初老の男は、怪訝な顔をしながら美夕を見た。美夕は、ビクッと肩を震わせる。

バルナバスは、息をついて頷いた。

「…では、アガーテ様にもご連絡を。」

ラファエルは、頷いて足を進めた。

「頼む。」

そうして、拘束を外されたレナートと、美夕は、ラファエルについて、その白く美しい石で作られた空間を歩いて行ったのだった。


通された部屋は、それは天井が高い開放的な空間だった。

窓がなく、恐らくは階段を上がってもいないので、ここは地下なのだろうと思われたが、とても明るくて、その明るさは清々しい朝を思わせた。

久しぶりに明るく広い空間に出た美夕は、その場所だけで癒される気持ちだった。

レナートは、しかしまだ警戒しているようで、険しい顔をしている。何も言わないが、回りに対して心を許していないのはその仕草で充分に分かった。

だが、美夕はその、どこか懐かしいような香りがする空間が、全く害がないのだと信じることが出来た。

空気を読めない自分がこんなことを確信するのはおかしいのだが、魂の底から、ここは安全だと思うことが出来たのだ。

チラとここへ入る時に見た部屋の扉の上には、「会話の間」と書かれてあった。書かれてあるというよりも、ネオンサインのように表示してある状態だった。

ここへ連れて来られる間にも、いろいろな部屋の扉の前を通過したが、ここではそうやって、丁寧にひとつひとつここはどんな部屋、と説明がされてあり、とても親切だった。

美夕は、ここなら迷わずトイレにも行けるだろうな、などと、こんな時なのにそんなことを考えていた。

それほどに、ここはゆったりと寛げる空間だったのだ。

その部屋の奥にあるソファのような椅子へと腰かけたラファエルは、他にもたくさんあるそんな椅子へと二人を促した。

「座るといい。」

しかし、カバーも何も真っ白だ。

自分は、ここへ来るまで洞窟などを這いずりまわっていたので、土に汚れて真っ黒だった。

なので、美夕はそこへ座るのを、さすがに躊躇した。

「あの…ここで立っていますから。」

美夕が言うと、ラファエルは笑った。それは美しいので、思わず赤くなっていると、相手は言った。

「良い、汚れることなどない。ここは特別な空間なのだ。案じることはない。」

そう言われても気になった。

だが、ここへ来るまでかなり不思議なことを見て来たので、そんなこともあるかな、と思い、恐る恐る言われるままにソファへと腰かけた。

それを見て、レナートもおっかなびっくりといった感じで座る。

二人が落ち着いたのを見て、ラファエルは口を開いた。

「…それで、主は最近に次々と現れた船に乗っていた、戦闘員のうちの一人なのか?」

美夕は、いきなりの質問に頷いた。

「はい。信じてくれないかもしれませんけど、私はこことは違う世界で生きていたんです。船に乗ったのは、ゲームのつもりでした。なのに、突然に船が揺れて、気を失って、気が付いた時には、シアラの港に到着していました。いつもすんなりと自分達の住む世界へ帰れるので、帰れると思っていました。なのに、帰り方が分からない。なので、仲間と一緒に船を降り、もしかしたら何か、この世界でしなけらばならないことをしていないから帰れないのではないかと考えて、それを探す旅に出ました。なのに、急に軍に追われることになり、逃げて逃げて、それどころではなくなりました。逃げることが目的のようになってしまったんです。」

ラファエルは、それをじっと黙って聞いている。美夕は、先を続けた。

「そのうちに、私は足手まといになりました。あまり術も知らなかったし、何より他のみんなより、私は意識が低くて声を立ててしまって魔物をおびき寄せてしまったり、迷惑を掛けてしまってたんです。それで、仲間達は後で迎えに来るからと、過酷な旅から私を守るために、アデリーンで知り合ったこの、レナートさんに預けて行ったんです。仲間が去ってすぐ、軍が家に来ましたけど、レナートさんがうまく追い払ってくれました。最近に仲間から連絡が来るまで、私はレナートさんにお世話になっていました。」

ラファエルは、美夕の腕を指した。

「その、腕輪。戦闘員は皆しているが、それで連絡を取り合うのか?」

美夕は、言われてそれに触れた。

「はい。みんな腕に着けている物で、仲間同士なら連絡を取り合うことが出来ます。でも、同じ戦闘員と呼ばれる仲間でも、知らない人だったりしたら、文字でしか連絡出来ません。なので、ここに一体誰と誰が居て、誰が捕まって誰が無事とか、そんなことは私にも全くわからないんです。」

美夕は、腕輪を開いてみた。しかし、やはり圏外のようで、何の着信もなく相変わらず静かだ。

「ああ…やっぱりここでも無理なのかしら。」

ラファエルは、首を傾げた。

「連絡を取れないのか?」

美夕は、頷いて顔を上げた。

「地下でも問題なく通じる所と、今私達が通って来た洞窟のように、全く通じないところがあるようです。ここも、同じように連絡を取れない場所のようですわ。」

ラファエルは、うーむ、と顎を撫でた。20歳ぐらいに見えるが、驚くほどに威厳があって、とてもどっしりと頼りがいのある男のように見える。そして何より、それは美しかった。

美夕が今更にまた気付いて思わず顔を赤らめていると、そこに、しわがれた老人の声が割り込んだ。

「…ラファエル様。お呼びとお聞きして参ったのですが?」

美夕は、驚いて振り返った。

そこには、真っ白い幾らか上質で刺繍があちこちにされてある服に身を包んだ、老婆が杖を手に、立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ