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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神に選ばれし者
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シーラーン

「逃げられた?」

白亜の、それは明るい大きな建物の奥深く、建物中に流れる小川のせせらぎの音を横に、そのがっしりとした体形の、黒髪の後ろ姿が言った。

その後ろ数メートルのところでは、床に敷かれた赤いじゅうたんの上に、膝をついた軍服の男が頭を下げていた。その更に後ろには、白髪の男が同じように片膝をついて頭を下げている。

「は…クトゥから船着き場までさかのぼって来たところで、牢に籠めて管理しておりましたところ、メールキンの群れが突然に襲い掛かって参りました。兵たちはそれを倒そうと四苦八苦しておりましたが、全てを始末した時に牢を確認しに参った時には、牢番も倒れており、跡形もなく…。」

その黒髪の人物は、振り返った。

「馬鹿者!聞けば神の命の刻印の確認もしておらぬそうではないか!捕らえたなら、素っ裸にして確認せぬか!何のためにお前を将軍にしたと思っておる、ロマノフ!」

その人物は、手にしていた金属のカップを、ロマノフに叩きつけた。それはロマノフの額に当たり、額が切れて血がしたたり落ちた。白髪の人物は、気遣わしげにそんなロマノフを見ているが、何も言えないでいた。

更に、その壇上の人物は白髪の人物にも向き直った。

「それにお前の腹心だというそのリュトフも、逃げたという他のヤツらも一人も捕らえられておらぬ。連れて来たのは刻印もない屑ばかり。あんなものは要らぬ!今必要なのは、刻印のある命だ!」

リュトフは、必死に言った。

「恐れながら陛下、逃げた奴らもさえない男とひ弱そうな女の二人連れで、とても命の刻印があるようには見えませんでした。クトゥで逃げた奴らも、そんな大それた使命を帯びた人間のようには見えなかった。皆平凡な、これまでここへ連れて来た奴らと、なんら変わりのない奴らで…、」

「うるさい!」陛下と呼ばれたその男は、ツカツカとリュトフに歩み寄って、横から蹴り倒した。「口答えをするな!早う、早う命の刻印を持つ物が要るのだ!このままでは、この島は滅ぶのだぞ!お前達が、そうして安穏と暮らして行けるのは誰のお陰であると思うておる!口答えなどしておる暇があったら、さっさと命の刻印のある戦闘員をここへ連れて来い!分かったな!」

その男は、そう言い捨てるとズカズカと音を立ててその場を去って行った。

それを見送ってから、ロマノフは額へと手をやった。リュトフが、床から慌てて起き上がるとロマノフに駆け寄った。

「閣下!すぐに治癒魔法を…、」

「良い!」ロマノフは、リュトフの手を振り払った。「…この恨み、必ず晴らしてくれるぞ、シンイチロウとか申すあの男。メールキンなど使いおって…まさか、魔物使いなどと思いもせず。」

リュトフは、まだロマノフを気遣いながら、言った。

「しかし閣下、あれはもしかして、あの辺りに昔から潜む戦闘員の仕業ではないでしょうか。兵士の一人が、複数の人影が走って行くのを見たと言っておりました。魔物と使おうと思うたら、その言語を理解出来ねばなりませぬ。そんな大層なことが出来るのは、命に刻印を持つような人でなければ無理でしょう。だが、あの男はそうではないと思います。ロマノフ様もおっしゃっておったように、あのようにさえない男でありましたし…何ら特別なものなど感じませんでした。」

ロマノフは、立ち上がった。額の傷は、自分でそっと触れると、魔法陣が現れ、スーッと消えて行った。険しい表情のまま、ロマノフは踵を返した。

「もはや、あれが何であろうと構わぬ。何が何でもあれを、追い詰めて後悔させながら殺してやろうぞ。連れの女を人質にし、あれを痛めつけて苦しませてから、ゆっくりと殺してやる。」と、リュトフを見た。「ぼやぼやするな!誰でもいい、とにかく戦闘員を片っ端から捕らえてここへ連れて参るのだ!」

「ははー!」

リュトフは、サッと頭を下げると、滑るようにそこを出て行った。ロマノフは、歯を食いしばった。こんな屈辱を味わわせた、あの男は絶対に、絶対に許しはせぬ。何が何でも追い詰めてやる!


ズカズカとそこへ入って来た男を見て、美しい白いような真っ直ぐの金髪の女が振り返って立ち上がった。そして、その薄い透き通ったブルーの瞳を、悲しげに曇らせた。

「まあアレクサンドル様。ご機嫌がお悪いご様子…。」

アレクサンドルは、相手の顔を見て、フッと息をつくと、気まずげに言った。

「…アドリアーナ。」

アドリアーナと呼ばれたその女は、足まで美しい装飾がなされてある白い椅子から立ち上がって、こちらへ歩いて来た。

「また、兵士達が粗相を?」

アレクサンドルは、頷いた。

「あれから15年になるというに。まだ命に刻印を持つ者をここへ連れて来ることが出来ぬ。此度は、かなりの数がここへ参ったはずなのだ。間違いなく、その中に紛れているはずなのに。」

アドリアーナは、アレクサンドルをなだめるように、その手を取った。

「そのようにご機嫌を悪くなさっていては、お体にもお悪いですわ。さあこちらへ。私がお話しを聞きまするから。」

アレクサンドルは、フッと息をついて力を抜くと、アドリアーナについて、奥の白い椅子へと腰かけた。

「ほんに…そなたのような妃が居って良かったことだ。そうでなければ、とっくに心の臓がもたずに倒れておったやもしれぬ。」

アドリアーナは、美しく微笑んだ。

「アレクサンドル様ったら…。それにしても、案じられること。陛下が災いのことをお知りになられてから、もう15年もの時が経っておるのに。一刻も早く命に刻印を持つ者を探し出さねば、このリーリンシアが大変なことになってしまいまする。その「時」は、迫っておるのでございましょう?」

アレクサンドルは、厳しい顔のまま、頷いた。

「…もういくらもないであろうの。このままでは、我の力だけではこの地を保つことが出来ぬ。それがどれほどに大事であるのか、あれらには分かっておらぬのだ。」

アドリアーナは、心底心配そうに、服の袖で口元を押さえ、憂い顔をした。

「陛下…。」

アレクサンドルは、それを見て急いでアドリアーナの肩を抱いた。

「何も案じることはない。そなただけは、何があっても守るゆえに。民のことなど、それからぞ。」

アドリアーナは、それは嬉しそうに、アレクサンドルを見上げて微笑んだ。

「アレクサンドル様…。」

アレクサンドルは、アドリアーナを抱きしめながら、思っていた。

そう、命に刻印を持つ者を、どうしてもここへ連れて来させなければ。ここへ来ないと言うのなら、殺してでも引きずって来なければ。何としても、見つけ出さねばならないのだ!


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