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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
生きるための旅へ
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合流2

亮介と玲が先に見張りに立ち、翔太とカールが寝袋に入っていた。

魔物対策の焚火は、魔物を遠ざけるがもしも兵士達がこちらの道を探しに来たなら、見咎められるという面倒な代物だった。

それでも、魔物に大挙して襲われることを思ったら消すわけにもいかず、岩陰で街道からは見えない場所へと設置した。

それでも、森側から来たらやはり見えるのだが、全方向を警戒しろと言われてもまず無理だった。

亮介は、千里眼の魔法を使って、あっちこっちを警戒しながら立っていた。が、不意に目を開いた。

「…誰か来る。まだはっきり見えないが、森の方から真っ直ぐこっちへ向かって来るようだ。」

玲が、顔を上げた。

「どっちだ?」

亮介は、南の方向を指した。

「こっちだ。パージから来たにしては森の中を分断しているような変な道筋だし、兵士ではなさそうだが。人数も、ええっと、三人…か?」

玲は、顔をしかめた。

「三人?真樹じゃないのか。パージの戦闘員と一緒に、こっちへ向かっているとか。」

亮介は、首を傾げた。

「そんなに少ないか?というか、真樹の足でこの速さで追いついて来られると思うか。森の中には魔物がうようよ居るし三人ぐらいじゃ無理だ。よっぽど力があって、地の利があるヤツでないとな。」

そして亮介は、ふっと肩の力を抜いた。

「長く集中してこの術を使っていると気がなくなっちまう。仕方ないが、もう少し近づいて来るまで待とう。」

玲は、立ち上がった。

「オレが代わろうか。千里眼はあまり得意ではないが、少しは出来るし。」

亮介は苦笑して首を振った。

「いや。オレは得意だがそれでもまだ見えないんだ。すぐに近づける距離じゃない。もうしばらく待っても大丈夫だろう。兵隊じゃない。」

玲は、そちらへ移動した。

「まあ念のため体で焚火の灯りは遮っとこう。向こうからでも炎は見えるだろうし。岩が邪魔してそんなに見えないだろうが、念のためだ。」

そうして、二人は人が近づいて来る気配を感じながらも、そうやってそこで立って様子を見続けた。


真樹は、歓喜の声を上げた。

「間違いないよ!あの炎は翔太達だ!」

腕輪と位置関係を照合しながら何度も確認している。海斗が言った。

「だが、さっきまでチラチラ見えていた炎が見えなくなったということは、こちらから近づいて来るのを察知して消したか隠したかしているってことだろう。向こうはまだこっちが誰なのか分かってないって事だ。」

慎一郎は、足を進めながら頷いた。

「千里眼も遠くまでは見えないからな。向こうからまだ見えない距離なんだろう。腕輪で確かめることに気付いたらいいが、分かってないことも考えられる。まだ日が落ちたばかりだし、そう急ぐことも無いだろう。」

しばらくそのまま歩いていると、脇の茂みがガサガサと揺れた。思わず剣を抜いて構えた三人が見ると、そこにはまんまるでふさふさの白い被毛の毛玉のような魔物が、小さな体を震わせてこちらを見ていた。真樹が、思わず声を上げた。

「わ、かわいい…!」

海斗は、呆れたような顔で真樹を見ながら、剣を鞘へ戻した。

「ああ、これが小さいプーだ。だがおかしいな。普通は群れで居てこいつらは夜行性じゃないんだ。弱いから巣でじっとしているはずなのに。」と、近づいて行ってひょいとそのプーと掴んだ。「はぐれたのか?お、メスだな。」

真樹が、咎めるように言った。

「あ、そんなに乱暴に扱わないであげてくれ!震えてるじゃないか。」

海斗は、気を悪くしたように眉を寄せると真樹にぽいとそのプーを放って寄越した。

「他にどうやって持つって言うんだよ。」

真樹は、慌ててそのプーを抱きとめるとその頭を撫でて腕に抱いた。大きさはバレーボールより少し小さいぐらいだ。しかし大半が毛のようで、とても軽かった。そのプーは、真樹の腕の中でプルプルと小刻みに震えていたが、暴れることもなくじっと真樹を見上げていた。

「それにしてもどうしてここに居たんだろう。巣はどこかな?」と、そのプーに話しかけた。「こんなところに居たら危ないぞ?早く巣に帰らないと。」

しかし、プーは困ったように目と目を寄せて、小さくプ、ププ、と何かを訴えるように鳴いた。

「お、何か伝わってるような感じだぞ。」

慎一郎が言うと、海斗は頷いた。

「そうなんだよ、こいつらは言葉が分かるみたいで。」と、プーの顔を覗き込んだ。「だが、こっちがこいつらの言葉を理解出来ないんだよなあ。どっちにしろ、こんな場所で一匹で居たら危ない。プーも居るが、夜はそれを狙ったメールキンがここまで出て来ることもある。まあ滅多にないがな、潮風を嫌うから。そんな理由もあって、プーはこの辺りに住んでるんだし。」

真樹は、何を言っているのか分からないプーと見つめ合った。こっちの言葉が分かるのに、こっちが言葉を理解してやれないなんて。

「ごめんなあ。何か言ってくれてるのに。でも、お前一匹でここに居たら危ないみたいだし、オレ達と来るか?いろいろ戦うから、安全でもないけど。」

プーは、真樹の言葉に目をぱちぱちさせると、頷くような仕草をして体を揺すった。そして、短くプップと鳴いた。

「行くって言ってるのかな。」

真樹が言うと、海斗がもう歩き出しながら言った。

「物好きだな。確かにかわいいが、そんなの連れて旅をするなんて大変だぞ?きちんと世話をしろよ。」

真樹は、プーを前に抱きながら、それに慌ててついて歩いて言った。

「平気だよ。めちゃくちゃ軽いしカバンにでも入れて移動するから。」

慎一郎が、真樹に並んで歩きながら、プーの頭を撫でた。

「いいじゃないか、オレも協力する。」

海斗は、驚いて慎一郎を見る。

「なんだお前もか?こういう生き物が好きなヤツって居るからな。まあせいぜい面倒見てやれよ。ちなみに草食だからな。」

歩きながら、慎一郎は真樹に言った。

「で、名前はどうする?」

真樹は、うーんと真剣な顔をした。

「メスだって言ってたし…白くて丸いから大福?おもち?団子?白玉とか。」

「食い物ばっかだな。」

海斗が突っ込む。慎一郎が顔をしかめた。

「見た目から離れて普通の名前を付けたらどうだ。マリコとか。」

海斗が面白そうに笑った。

「なんだ、お前の女の名前か?」

「母親だ。」慎一郎は大真面目に答えてから、続けた。「別にマリコにしろって言ってるんじゃなくて、そういうまともな名前にした方がいいんじゃないかって。」

真樹は、うんうん唸り出した。

「そんな、こっちの言ってることが分かるのに変な名前に出来ないし、でも人の女の人の名前を付けるとちょっと違う気がするしなあ。」と、じっとこちらを見ているプーに言った。「どんな名前がいい?」

プーは、途端に顔を困ったようにしかめて体を傾けた。どうやら、本当に困っているらしい。

それを見た真樹は、プーの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「ま、いいや。追々考えるよ。一緒に旅をするんだし。それより、翔太達と合流するのが先だ。みんなで考えよう。」

「お気楽なことだな、追われてるってのに。」

海斗が呆れたように言ったが、真樹は自分の手の中にある暖かさに癒されていた。この小さい生き物を守りたい。真樹は、そう思っていた。


「…真樹だ。」亮介が、目を開いて言った。「真樹が来た。慎一郎と、誰か知らない一人と一緒だ!」

玲が、急いで寝袋へと向かった。

「翔太達を起こそう!慎一郎、逃げられたのか。聡香は?」

亮介は、首を振った。

「いや…男ばっかりだな。」

死んだのかもしれない。

玲は、そう思ってそれ以上何も言わなかった。そして、翔太達の寝袋を突いた。

「翔太!真樹が来た、慎一郎と一緒だ!」

寝袋が、勢いよく動いた。

「なんだって?」と、目の前のファスナーが開いて、翔太は出て来た。「慎一郎は逃げられたのか。」

玲は、頷いた。

「そのようだな。だが、聡香は居ない。」

翔太は、その意味を悟って小さく頷いた。敵から逃げるとなると、それなりの犠牲が必要だったはずだ。慎一郎一人では、守り切れなかっただろう。

眠っているカールも起こし、四人は歩いて来る三人を待ってそこに並んで立っていた。


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