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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
生きるための旅へ
33/230

合流

翔太達は、山の湧き水を探して水を汲み、ついでに出て来た魔物達を倒して解体して肉を切り分け、手早く塩を擦り込んで炙るように焼いた。味が食用に耐えられるかどうかは分からなかったが、味のことをとやかく言っている場合ではない。とにかく、動けるだけのエネルギーが欲しかった。

慣れたように肉を捌くカールを見て、亮介が関心したように言った。血の匂いに引き付けられた魔物達も、炎を上げている大きな焚火二つに寄って来ることもなく、遠巻きにしているようだ。

カールは、側の水場でさっさと小さなナイフを洗って振ると、笑った。

「この世界に何年居ると思ってるんだ。いろんな仕事を受けてやったからな。そうしないと、生き残れなかったし。」と、目の前のメールキンの骨を見て顔をしかめた。「メールキンはあんまり旨くないんだがなあ。ルクルクなんか最高だぞ。牛肉だと思ったらいい。ファースなんかでは家畜として育てて肉を出荷してるんだ。プーは豚肉。まああれらは野生で居るとしたら平野だからここらには居ないがな。」

翔太は、さっさとその辺で拾って来た枝に肉を突き刺しながら言った。

「今は贅沢は言ってられねぇからな。食い物をとにかく補充して、ライデーンまで持たせなきゃならねぇ。軍があっちまで到達する前に街へ入って、仲間を探して情報を集めるんだ。」

亮介が、ハーっと肩を落とした。

「今夜も寝ないのか。ちょっと寝たいんだがなあ。歳のせいか動きが鈍くなるんだ。体が言う事を聞かなくなるのは避けたい。」

翔太は、肉を火の前へと挿しながら亮介を振り返った。

「ああ、いくらオレでもこれからのこと考えたら休んでおかないとと思ってるよ。だがここはマズいな。回りにメールキンが山ほど居るからよ。これが終わったら、移動してそこで休もう。森から出た方がいいってのが分かったじゃねぇか。交代で見張りに立って…そうだな、二、三時間ずつになるかな。」

亮介は、諦めたように息をついた。

「そうだな、交代で寝るならそうなるか。逃亡生活はつらいな。」

玲が、向こうの焚火で翔太と同じように肉を炙りながら言った。

「逃げ切って落ち着く時もあるだろう。それまでは、とにかく食うもん食って頑張るしかない。水をしっかり汲んでおいてくれよ、こっちはもうすぐ終わるぞ。」

亮介は、慌ててみんなから集めた水筒へ向き直った。

「ああ、しっかり持って行かないとな。次はどこで湧き水を見つけられるか分からないし。」

翔太が、笑った。

「ライデーンに近付いたら河がある。そこまで必死にならなくても二日分ぐらいあれば十分だ。」

四人は、それぞれの役目を果たしながら、真樹のことは話題に上げないようにしていた。本当は、皆の心には真樹の状態が暗い澱のように沈んでいて、少しの刺激でも浮き上がって来そうだったのだが、それでもどうあっても、帰る方法を見つけなければならないのは確かなことで、それでみんなを助けられると信じることしか、やるせない心を抑える方法はなかった。

そうやって旅の準備を進めた四人は、残った火を松明にして手に持って魔物達を避けながら、休める場所を探して移動し始めたのだった。


慎一郎は、真樹と並んで歩きながら言った。

「じゃあ美夕はアデリーンに置いて来たのか。」

真樹は、腕輪の画面を見ながら、頷いた。

「うん。辛そうだったし、オレ達の歩くスピードについて来れなくて翔太が担いで移動してたんだ。翔太にしたらそんなこと朝飯前だったけど、でも美夕はね、大きな声を出したりしてデカいミガルグラントが出て来てしまったり、いろいろあったんだよ…その、危機意識が足りないっていうか。翔太は、命の保証が出来ないから、待っていた方が良いって。」

それを聞いていた、反対側の横を歩く海斗が呆れて言った。

「足手まといになるしな。雪山に登るのと同じだ。みんな自分のことに精一杯だから、何かあると自分の面倒を見れないヤツから死ぬ。助ける余裕はない。何しろ、そんなことをしたら自分だって危ないからだ。置いて行くのは思いやりだ。本人だってつらいからな。」

慎一郎は、それを聞いて考え込んだ。確かにその通りかもしれない…聡香を連れてなら、恐らく自分はあの森の中で逃れようとしても死んでいただろう。そして、聡香も死ぬ。それなら、どこかに置いておく方がまだどちらも生き延びる確率は高い。

「…翔太は、難しい結論をパッパと出すんだな。あいつを侮っていたよ。あいつなら、生き残って帰る方法だって探し出すかもしれん。」

真樹は、顔を上げて慎一郎を見た。

「ごめん、慎一郎。オレも、翔太と一緒に居て、慎一郎を見捨てたんだ。あのまま慎一郎を説得しようにも、きっと無理だろうと思っていたし、オレ達だって追われててとてもじゃないが一緒に捕まる気持ちにはなれなかった。翔太は、命は一つしかないから、責任を持って自分で考えろって言ったんだ。オレは、逃げる方を選らんだ。だから、慎一郎を見捨てたことになってしまった。」

慎一郎は、それにはすぐに首を振った。

「いや、あれはオレも悪かった。もっと自分の考えを言えば良かったんだ。お前達と一緒に行けば、ある程度情報を仕入れた時点で逃れられると思った。胡散臭いとは思っていたのだ。それなのに、甘えがあった。行かないにしても、オレ一人なら何とかなると思って、お前達がオレを説得に来たら聡香を託すつもりだった。だが、お前達はそのまま逃げた。聡香を連れていたので、オレも逃れる術が無くなったし、海斗が来てくれるまで、シーラーンへ行ってそこの情報を出来る限りお前達に送って救出を待つしかないと思っていた。」

真樹は、驚いたように慎一郎を見た。

「じゃあ、最初から情報を手に入れるためだけに行ったのか?」

慎一郎は、頷いた。

「ああ。このままじゃ膠着状態だと思ったからな。少しでも何か知れるなら、その方がいいと思ったんだ。だが、海斗から聞くと、シーラーンへ行くのはかなりヤバイらしい。誰も帰って来なかったというからな。」

海斗が、横から頷いた。

「誰一人な。向こうの世界へ帰ったとは思えない。お前達の物とは違う、オレ達の旧式の腕輪は掲示板もなければメッセージ機能もない。ただ通信だけが出来た。最後に来た通信で、仲間達が腕輪を取り上げられて牢へ繋がれたと逃れた者から聞いた。それが最後で、そいつも捕まったんだと思われる。向こうの世界へ帰すつもりなら、どうして腕輪を取り上げて牢へつなぐんだ?おかしな話だろう。」

真樹は、小さく身震いした。シーラーンへ行ったら、何をされるのだろう。殺すつもりが無いのは、アデリーンのレナートから聞いた話で伺えた。それなのに、連れて行った先では閉じ込める。いったい、どうしてそんなことを…。

そうして歩いているうちに、回りは日が傾いて来ていた。この高原ではまだ魔物は見ていない。森が近いのに、森から出て来る魔物は居ないようだった。

不思議に思っていると、海斗が言った。

「…この辺りは、海風が強いのであまり魔物が出ない。背が低い大人しいタイプの魔物は居るんだが、そいつらは臆病で人の姿を見ると茂みへ引っ込む。実は肉の味がいいので、人がそいつらを取って食うからだと思うんだがな。」

慎一郎は、眉を上げて問うた。

「それは、どんな魔物なんだ?」

海斗は答えた。

「プーという、さっきも話した豚に似た丸い動物だ。毛足が長いので防寒着を作るのに使ったりもする。大きい種類のヤツは取って食うが、小さい種類のはオレも取らないんだ。神様の遣いとか言われてて、その通りにかなり頭がいい奴らで。小さいプーは、だからお前達も取らないでやってくれよ。」

まだプー自体に出会ったことがない二人は、実感も無いままに頷いた。

「遭遇したら、それが小さいのか大きいのか教えてくれたら、オレ達だって手を出さない。」

そもそも現物を見たわけではないので、それがどっちか判断が着かないのだ。海斗は、大真面目に頷いた。

「分かった。」

そろそろ暗くなって来たので、慎一郎が真樹の腕輪を覗き込んだ。

「で、まだか。翔太達の居場所は?」

真樹は、辺りをキョロキョロとした。

「昼ぐらいにはどこかで留まってるようだったんだけど、今は移動してもう少し先の辺りでまた止まってるよ。休憩してるのかもしれない。そろそろ見えると思うんだけど。」

目を凝らすと、遠くポツンと炎が見えるような気がした。だが、岩場の向こう側のようで、チラチラと見え隠れする。

「あれを目指してみよう。」

慎一郎は言って、海斗と真樹と共に、その炎目指して足を速めた。

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