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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
生きるための旅へ
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置き去り

翔太は、震える美夕をチラと見た。そして、亮介と玲を見ると、二人は小さく頷く。真樹(まさき)を見ると、真樹も頷いた。

翔太は、レナートを見た。

「…レナート。頼みがある。オレ達は、ここに長く居るわけにはいかねぇ。クトゥから逃れて来たとは言え、オレ達がディーン街道を来てるのは軍もお見通しだろう。だから、少し休ませてもらったらここから今夜にでもパージへ移動して、あっちでも情報を集めて出来たら仲間も探してぇんだ。だが、そうなって来るとやっぱり魔物も多いし、体力も居る。それで、こいつをここで預かってもらえねぇか。」

美夕は、ビクッと体を固くした。レナートは、驚いたような顔をしたが、美夕を見て、息をついた。

「…確かにこんなお嬢さんがクトゥからアデリーン、パージまで陸路なんて大変だ。足手まといにもなるだろう。特にここからパージへ上ると山が近いので魔物も大型化して来るんだ。軍に追われてるんじゃここも決して安全じゃないが、それでも甲冑を脱いで腕輪を隠してれば、そこらのお嬢さんと変わらないし見つかることもないだろう。お嬢さんさえ良ければ、預かろう。」

レナートの口からも、足手まといという言葉が出たのを聞いて、美夕は残りたくないと言いたかったが、口に出せなかった。確かに早く歩けなくて言葉のまま翔太の荷物になっている…戦闘になっても、間違いなくお荷物には変わりなかった。

なので、息をついて黙って下を向いていた。そんな美夕に、真樹が気遣うように言った。

「美夕、ここに居た方が安全だから。帰り方が分かったら、必ず戻って来るよ。いつになるか分からないけど、長引きそうだったら一度戻って来るし。だから、ここに居て。」

美夕は、気遣って言ってくれているのは分かっていたが、それでも顔を上げることが出来ず、頷いた。それを見た翔太が、勢いよく立ち上がった。

「じゃあ、ちょっとこの辺に寝かせてもらっていいか。寝袋は持ってるから床でも土間でもいい。」

レナートは、急に立ち上がったので驚いたようだったが、合わせて立ち上がった。

「ああ、ここには暖炉があるから、その辺で寝てもらっていい。」と、美夕を見た。「じゃあお嬢さんには上の部屋を案内しよう。と言っても長い事使ってない屋根裏部屋だが、片付けてくれたら充分寝られる。」

美夕は、急いで立ち上がった。もう、ここに居場所がないような気がしたからだ。

翔太が、振り返った。

「…お前のだ。持ってけ。」

翔太から何かが放り投げられて慌てて受け止めると、それは寝袋を巻いたものだった。美夕は顔を隠すようにそれを抱きしめると、レナートについて階段を上がって行った。


そこは、本当に物置だった。

だが、置いてあるのは本などが入った木箱とか、大工道具のような物とか、そう言ったもので、隅の方に積み上げてあった。

屋根裏だが、窓が二か所ある。なのでとても明るかった。そこからは、さっき歩いて来た砂が吹きすさぶ平原と、反対側の窓からは通りが見えた。レナートが、言った。

「ベッドのスプリングがないんだが、木枠はあるからその上に寝袋を敷いて寝てくれ。ここにある物は何を使ってくれてもいいし、足りないものは言ってくれたら有る物なら渡す。外出は止めないが、ここは町の外れではぐれ者しか住まない場所だし、女の一人歩きは危ない。一応オレの妹の娘だってことにして近所の奴らにはいうから、大丈夫だと思うが、警戒してくれ。」

美夕は、それを聞いてまた不安になりながらも、頷いて頭を下げた。

「すみません、よろしくお願いします。何か仕事があったら、やるので言ってください。」

レナートは、驚いたような顔をしたが、手を振って苦笑した。

「オレの仕事は鍛冶だから、お嬢ちゃんには手伝えないな。だが、まあ皿を洗ったり掃除したりってのをしてくれたら助かる。買い物とかはオレがして来るし、気にすることはない。娘が生きてたら、お嬢さんぐらいになってるはずなんだ。娘だと思って世話させてもらうよ。心配ない。」

怖そうな人だと思ったが、レナートは笑った。美夕は、少しほっとして頷き、レナートが階段を降りて行くのを見送った。


夕方になり、翔太達はまるで目覚ましでもセットしていたかのように、次々に起き上がった。

そして、レナートにスープをもらい、持って来たパンと缶詰で食事を済ませると、さっさと片付けて出発準備に取り掛かる。その手際の良い様に、レナートは感心したように言った。

「兄さん達は旅慣れてるな。さすが戦闘員達だ。オレがもっと若かったら、魔法を教えてもらって一緒に行きたいぐらいだよ。」

翔太は、苦笑して荷物を背負った。

「実際はこんなことはして来なかったが、こっちへ来てこのスキルは身に着けたよ。オレ達にとってはこっちは知らない土地だ。ぐずぐずしていて襲われないとも限らないから。」

カールが、息をついた。

「ここにミユを一人残して置くのは気がかりだが、あの子は旅に向いてないんだ。すまないが、よろしく頼むよ、レナート。」

レナートは、頷いた。

「回りには妹の娘だと言っておく。ま、早々誰かに出くわすこともないと思うから、心配することはない。普段は甲冑と腕輪をどこかへ隠して、見つからないようにしておくよ。街のメイン通りなんかへ行くことはないだろうが、そんな場所で見られでもしたら瞬く間に噂になっちまうからな。」

翔太は、頷いて自分の背にしっかりと荷物が固定されたのを確認すると、言った。

「じゃあ、すまないが頼んだぞ。オレ達はここから頑張ってパージへと向かう。何かあったら美夕に腕輪から連絡させてくれ。戻って来るよ。」

レナートは、頷いた。

「ああ。オレはもう目を着けられることもない。ただの枯れたジジイだと思われてるからな。だが、あいつらには一泡吹かせてやりたい。頼む、無事にあいつらの目を掠めて帰る方法を見つけてくれ。」

亮介が、頷いた。

「オレ達だって帰りたいからな。だが、情報をありがとう。あの子を頼んだ。」

真樹は、チラと上へと繋がる階段を見た。だが、美夕が降りて来るような気配はない。下で皆が準備している声は、上にも届いているはずだった。それほど広い家でもないのだ。

だが、翔太が先に出て行き、カール、亮介、玲と続くのを見て、真樹も名残惜し気に、その家を出て行った。


ドアが開閉されるのを感じた美夕は、慌てて屋根裏部屋の窓へと駆け寄った。通りに面した方の窓だ。

見ると、翔太を先頭に荷物を担いだ五人が、風に巻き上げられる砂の中を歩いて行っていた。強い風なので、少し歩いて進むともう、五人の姿はかすんで消えて行く。

美夕は、その五つの背中が砂嵐の中に消えて行くのを見て、涙を流した。知らない場所、知らない状況。何が起こっているのか分からないまま、一人ぼっちで置いて行かれてしまった。確かにレナートは親切そうだったが、それでも知らない人なのだ。そんな家で気を遣いながら、ただ翔太達が朗報を持って帰って来るのを、待つしか出来ないのだ。

美夕は、うなだれた。なんて甘い考えだったのだろう。このままでは、もしかしたら一生この砂の中で埋もれて居なければならないかもしれない。皆に足手まといだと思われたまま、ずっとここで…。

美夕は、急いで自分のカバンを探った。亮介に教わった、術の数々。これを、少しでも多く詠唱出来るように暗唱しよう。そうして、次に様子を見に戻って来てくれた時には、一緒に連れて行ってもらえるように努力しなければ。

美夕はその夜、ずっとそうやって暗唱をし続けていた。

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