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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
生きるための旅へ
23/230

アデリーン

明るくなると、そこは向こうに山を臨む、綺麗な平原だった。

遠目に見ても、その街がきれいに整備された場所だと分かった。それでも、正面から入ることが出来ないのは分かっていたので、6人は脱いだ甲冑を各々袋の中に隠し持って、西側へと回り込んで歩いた。

明るくなると、回りが見渡せるのだが魔物の影は見えなかった。もちろん、街に近いからというのもあるのだろう。

西側へと近くなると、少し草花が減って、荒れた土地に見えた。海からの風が強くなるのもそのせいなのかもしれない。

東側ほど栄えた風でもないのに、潜む身としてはなぜかホッとしながら美夕が皆について歩いて行っていると、翔太が立ち止まった。

「…ちょっと見て来る。ここで待ってろ。」

そして、ソッと一人で乾いた土が風に巻き上げられて吹き付ける中、その霞んで見える西側入口の方へと歩いて行った。

翔太の姿すら霞んで見えにくい。ほんの100メートルほどしか離れていないのに、海風が強いせいでよく見えなかった。美夕が巻いていた布を深めにかぶり直していると、翔太の姿が少し戻って来て、5人に向かって来い来いと手を振っているのが見える。

玲が、頷いて皆に言った。

「さ、行こう。これだけ土埃が酷かったら、オレ達だってはっきり見えないさ。」

美夕は幾らかホッとして、皆に従ってそちらへと歩いた。

翔太に近付くと、彼は言った。

「こっち側はどうもさびれてるみたいだな。向こうの派手なスッキリした建物じゃなくて、古びた感じの別の意味でスッキリした様子だよ。」

玲は、顔をしかめた。

「じゃあレナートもそんな感じの男かもしれんな。気難しかったら話をしてくれるのかどうか。」

翔太は、ため息をついた。

「まあ、ロベルトを信じようや。」

街へ入ると、翔太が言った通りすっきりというよりガランとした印象の通りだった。

あちら側は、外から遠めに見ただけだったが、レンガなどを使って綺麗にデザインされた感じだったのに比べて、こちらの寂れた西部映画にでも出て来そうな雰囲気は、どこかスラムのような印象がある。

翔太は、慎重に足を進めて、土埃で見えづらくなっている看板を一つ一つ端から確かめて行った。そして、向かって右側の筋の端から二つ目の所で、足を止めた。

「…ここだ。鍛冶屋はここだけ。他は民家なのか何も表示がないし、あるところも雑貨屋だ。」

玲が、その掠れて見えづらくなっている看板を指でスッと擦った。

「本当だ。だが、居るのか?」

確かに、シンとしていて他の建物にも誰か居るような感じはない。早朝とはいえ、もう時計は8時を示していたし、そろそろ住民が活動しても良い頃だった。

「訪ねるよりないだろうが。」翔太は、扉をドンドン、と叩いた。「レナートは居るか。クトゥのロベルトから紹介してもらって来た。」

あまりに静かで、その声も抑え気味だった。しばらく待つと、中から声がした。

「ロベルトが誰を紹介したって?」

しわがれた、男の声だ。しばらく誰とも話していないのか、声を出していなかったような感じだった。

翔太が、声を落として答えた。

「オレ達はここへ流れ着いた旅の戦闘員なんだが、なぜか軍に追われてな。ロベルトに匿ってもらっていたんだが、あのままでは危ないので街を出てディーン街道を夜通し歩いて来た。ここなら信用出来ると聞いたんだが。」

相手は、しばらく黙った。そして、少ししてから、扉の向こうで何やらガチャガチャと音が聴こえ、扉を薄く開いた。

「…入れ。だが、あまり力にゃなれねぇぞ。」

翔太は、頷いてホッとした顔をした。

「すまねぇな。」

そうして、6人はサッと中へと扉の間から滑り込んだ。その男は、扉を閉める前に外を見てから、また扉をしっかりと閉じて、大きな鉄の閂を挿した。

「それで、オレがレナートだ。」

相手は、振り返って言った。まるで棒切れのように痩せてはいたが、目は強い光を放っていて、腕を見るとしっかりと細いなりの筋肉がついていたので、力はありそうな様子だった。翔太が、軽く頭を下げた。

「オレは翔太。こっちが玲、亮介、真樹、美夕、カールだ。」

レナートは、とっくりと6人を見回してから、頷いた。

「これみよがしに甲冑を担いでたんじゃ、正面からは来づらかろうな。ま、いい。奥へ。」

そう言って、レナートは暗い廊下を通って奥へと歩いて行く。

6人は、それに従った。


奥へ行くと、いろいろな物が乱雑に置いてあるが、カウチが幾つか置いてあるし、暖炉があったので、そこが居間なのだろうと思える場所へと出た。レナートは、カウチを指した。

「どこへでも座るといい。で、お前達はオレに何を聞きに来たんだ?」

翔太は、側の椅子へと腰かけた。それを見た皆が、それぞれに近くの椅子へと腰かける。それを見てから、翔太は口を開いた。

「あんたは何を知ってるんだ?オレ達はただ元の場所へ帰りたいだけなんだが、軍に追われて訳が分からんでな。ロベルトがここへ行けと言うから、あんたが何か情報を持ってるのかと思ったんだが。」

レナートは、フッと息をついて、自分の定位置らしい一人用のくたびれたソファへと座った。

「何を知ってる?…ああ、恐らくあいつは、オレが軍を憎んでるのを知ってるから、軍の弱みでも握ってるかとこっちへ寄越したんだろうがな。だが、オレが何を言っても国にとっちゃあ痛くもかゆくもねぇ。何でももみ消されちまうのさ。弱みなんか握ってねぇよ。」

玲が、首を傾げた。

「憎んでる?」

レナートは、憎々し気に頷いた。

「ああ、憎んでるさ。オレはアデリーンでは一、ニを争う腕利きの鍛冶屋として、街の中心で店を構えてた職人だったのさ。それが、妻と娘を失って、こんな末路を辿ってるがな。」

亮介が、顔をしかめた。

「それと軍が、何の関係があるんだ?」

レナートは、一気に鬼のような形相になった。痩せた頬が、薄っすらと怒りで赤くなっている。

「あいつらは…あいつらは、妻と娘を、見殺しにしやがったんでぇ。最初は信じられなかった。だが、その証拠を握った時、オレは国に直訴したんだ。あいつらが来なければ、妻も娘も死ななかったとな。だが、簡単に無視された。それどころか、ありもしないことをでっち上げられて、オレを嘘を広めた男だと投獄しやがった。その後、頭がおかしいだけだと釈放されたが、もう誰もオレの言うことなんか聞きやしねぇ。昔からの友達は信じてくれたが、そいつらにもどうしようも無かった。」

美夕は、驚いてしまって声が出ず、何度か詰まってから、言った。

「え、それ…それって、どういう状態で?軍が来なかったから亡くなったんじゃなくて、来たから亡くなったということなの?」

皆同じ疑問を持ったらしい。レナートを一斉に見た。レナートは、苦々しげに言った。

「あんたらと同じ。ここには、戦闘員が居たんだよ。違う世界から来て、帰りたいんだと身振りで言っていた。何しろ、最初は全く言葉が通じなくてな。それでも、しばらく居る間に言葉も覚えていろいろ意思疎通が出来るようになったんだ。戦闘員達は、魔法も使えて外に居る魔物達も簡単に倒しちまった。それで稼いで、用心棒のようなことをしてくれるようになって、オレ達鍛冶屋のことも、贔屓にしてくれたもんさ。戦闘員達のお陰で、軍でなくても強い心と武器があれば、オレ達でも軍に頼らず他の街へ旅することが出来るんだと希望も持てた。オレ達家族も、気軽にあいつらを雇って、クトゥへ遊びに出かけたり、友達に会いに行ったりできるようになって、よく出かけていたよ。娘も喜んで…狭い町に閉じ込められるより、広い世界を見せてやりたいと思っていたから、オレも嬉しかった。」と、息をついた。後悔しているような顔だ。「…ある週末、オレは急ぎの仕事を抱えていた。娘と妻は、クトゥから列島街道を渡って景色を眺める旅に出るんだと喜んでいた。オレは、いつものように戦闘員達を雇って、二人を見送ったんだ。」

美夕が、ゴクリと唾を飲み込んだ。翔太も、目を細めて口をへの字にしてじっと聞いている。レナートは、憑かれたように一点を見つめて先を続けた。

「荷車をルクルクに引かせて戦闘員に守られて、それまで何度も通ったディーン街道を進んで行ったよ。いつもの事だし、オレも何度も一緒に通った道だから、何も心配していなかった。オレは一晩中仕事をして、明け方やっとひと眠りするかと思ったら、店の扉が荒々しく叩かれた。」レナートは、手を握りしめた。「妻と娘を送って行ったはずの、戦闘員の一人が血まみれになって扉にもたれるようにして立っていた。驚いて扉を開いたら、そいつは転がるように店へと入って来て…息も絶え絶えで言ったんだ。『軍がオレ達を拘束しに来た。抵抗したオレは攻撃を受け、気を失っている間に仲間は連れ去られた。奥さんと娘さんは気が付いた時には死んでいた…だが、連れて帰って来た。』と。オレは、急いで外へと飛び出した。そうしたら…荷車に乗せられた二人の遺体が、そこにあったんだ。オレは泣いて泣いて、何が起こったのか分からなかった。家へ取って返すと、二人を連れて帰った戦闘員の男はもう死んでいた。オレは必死に軍を探した。まさかそんなことがあるなんて信じられるはずがない。非力な親子を守っている戦闘員を、軍が連れ去るなんて。きっと、本当は魔物を倒し切れなかった戦闘員が名誉を守るために嘘を言ってるんだと…。」

レナートは、がっくりと頭を垂れた。膝に額がつくのではないかというぐらいうなだれている。亮介が、眉を寄せたまま言った。

「…軍が見つかったのか。」

レナートは、頷いた。

「あいつらの制服は目立つ。クトゥからロベルトが知らせて来たんだ…ちょうど妻と娘が出発した日の朝、クトゥで戦闘員達が軍に集められてシーラーンへと向かったと。何かあるかもしれないから、こちらの戦闘員にも注意するように言えと。その懸念は当たっていたが、間に合わなかった…あいつらは、クトゥの戦闘員を集めたその日のうちに、ディーン街道をクトゥへと向かったんだ。死んだ戦闘員の言うことは間違っていなかった。他の戦闘員達は、連れ去られてしまったんだろう。妻と娘は、それを目撃したから殺されたのか、それとも街道の魔物に殺られたのかは分からない。だが、あいつら軍が来なかったら、二人は死なずに済んだんだ。オレは軍の責任を問うために、それを必死に訴えた。クトゥの街頭で、シアラの街頭で、必死に訴えたんだ。そうしたら、捕らえられてシーラーン要塞の牢へと繋がれた。でっち上げだと触れがなされ、最後には狂った男の戯言だったと立て札まで立てられ、笑いものにされたあげく、放り出されたんだ。」

翔太は、黙って考え込むように口元を押さえて眉を寄せた。真樹が、珍しく怖い顔をしてじっと何かを睨むようにしている。カールが、口を開いた。

「オレ達は行かなかったが、甲冑を脱いでいなければ危なかったかもしれない。オレの仲間は12、3年前に帰る方法を探せるとシーラーンへ向かったんだが、残ったオレ達を密かに探す者達が居たのは知っていた。変な緊張感があって、仲間達は次々に住民に紛れて戦闘員はやめて行った。オレだけがひっそりと生きて、帰る方法を探していたんだ。そこへ、新しい戦闘員達が来た。だから、オレはまたこうして帰る道を探している。軍がまた、戦闘員達をどうするつもりなのか知らないが、どうにかするつもりで追っているのは分かっている。だから、あんたが言う通り、戦闘員達はディーン街道で囚われて連れて行かれたんだろうな。」

翔太が、厳しい顔を上げた。

「つまりは、連れて行かれるのに抵抗したら殺される可能性があるってことだな。ここへ二人の遺体を連れ帰った男は、攻撃されたんだから。他のヤツらは、従うよりなかったんだろう。」と、身を乗り出した。「クトゥに着いた船は何隻だったか知っているか。詳しいことが分からないんだが。」

レナートは、いくらか持ち直した顔を上げて言った。

「クトゥの数は知らないんだが、ここからもう少し北へ行った港街のパージには二隻だったと聞いている。ここへ来たのはパージからの戦闘員だったんだ。その後、クトゥやシアラにも同様に船が着いているのを住民から聞いた。」

美夕が、困ったように翔太を見た。

「でも、それって15年前のことでしょう?今回何隻着いてるのか、詳しい数は分からないわ。」

「それでも、今回もそのパージって港町にも着いてる可能性があるってことだ。」と、カールを見た。「カール、クトゥには今回、一隻だけだったんだな?」

カールは、頷いた。

「ああ。オレが噂を聞いて見に行った時にはもう居なかったが、その後待っても船は来なかったし噂も流れなかったからな。クトゥには一隻だけだ。」

玲が、じっと考え込むように言った。

「今回船は全部で15隻。シアラに着いたのはオレが見ただけでも5隻。乗って来た1隻。クトゥに1隻。メジャルにも着いてるような噂があった。残りの8隻があっちこっちの港町に分散して着いててもおかしくないな。」

翔太は、息をついた。いったい何人のプレイヤー達がそこから船を降りたのだろう。一人も降りなかった船もあったと玲は出会った時言っていた。自分達のイベント船もあれだけの人数が居たのに降りたのは僅か13人。全員が降りて協力したなら軍など怖くはないが、各港に数人しか降りていないなら、強引に連れて行かれたらどうしようないだろう。慎一郎のように、言いくるめられて連れて行かれる者もいるはずだ。そう、仮に人数が多くても、慎一郎のようなプレイヤーが居る限り、数が多ければ説得して連れて行こうとする方が多いはずだった。情報の真意がわからないのに、ついて行くのは無謀だが、こんな異常な状況に追い込まれたら、判断力が鈍るのは当たり前だった。

「…問題は、帰った戦闘員が居たかどうかってことだ。」翔太は、じっと考えを巡らせながら言った。「軍は恐らく、オレ達を良く思ってはいないだろう。だが殺すには戦闘能力が高過ぎる。まとまって抵抗されたら厄介だ。だからこそ、少数を騙し騙し連れ出してるんだろうしな。だが、その後だ。シーラーンへ連れて行ってどうするんだ。どうせ帰りたがっているしまとめて送り返しているのか。殺しているのか。それとも、他の何かに利用しているのか。軍はオレ達をどうするつもりでいるんでぇ。」

亮介が、険しい顔を崩さずに言った。

「…楽観的になるのは危険だ。今の話を聞いただろう。レナートが雇っていた戦闘員の一人は、恐らく抵抗して殺されたんだ。戦闘員を捕らえるために、一般の女子供まで犠牲にしている。まずまともな対応じゃないはずだぞ。」と、指を折って言った。「お前が今言ったのは三つのパターン。一つは送り返す。二つ目は殺す。三つ目は利用する。オレは送り返すパターンには懐疑的だ。二つ目、殺すつもりならディーン街道で行き会った時に皆殺しにすればいいんだからそれはない。一人を見せしめに攻撃して、他を脅して連れて行ったと考えるのが普通だろう。そうなると、答えはどうなる?」

翔太は、更に顔を厳しくした。美夕が、口を押える。

「…利用?何かに、利用しているってこと?」

美夕が言うと、亮介は肩をすくめて息をついた。

「あくまで今翔太が上げた物を消去法で行ったらの話だ。利用たって、何に利用するんだ。騙されて連れて行かれた戦闘員達だって、帰る方法を探すってのが嘘だと知ったらおとなしくしていないだろうし、回りにはご丁寧にも軍が集めてくれた各地に散らばっていた仲間達が居るんだ。一緒に戦えば済む。簡単に言いなりにはならないだろう。慎一郎のことを考えてみろ。」

確かに、騙されておとなしくはしていないだろう。

じゃあどういうこと?

美夕は、頭を抱えた。邪魔なら、帰る方法さえ分かったらさっさと帰る。だが、軍は帰してくれようとは思っていないのか。だったら、自分達は今から、帰る方法を探しながら軍から逃げなければならないのか。

見通しが段々に暗くなって来るようで、全身の血の気が抜けて行くような気がした。

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