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装備屋

カールについて裏通りをあっちこっちへと曲がりくねって走りに走り、出た場所はどこかの建物の裏の、ゴミ捨て場らしき場所だった。カールがハアハアと息を上げながら、皆がついて来ているのを確かめた。

「みんな居るか。とにかく、その甲冑を何とかしないと、目だってまた見つかる。」

だが、甲冑は大きい。これを外しても、それをおさめる袋が無かった。手に持って走ると、また目立つだろう。

「困ったな、ここへ捨てて行くわけにも行かねぇ。」

どこかから、またバタバタと足音が聞こえる。美夕が身を縮めていると、カールが慌てて言った。

「まずい、そこまで来ている!」と、回りを見回した。「ゴミ箱に全員入らんしな…!」

すると、目の前の建物の裏口がスッと開いた。

「ここへ。早く!」

ここはどこだ。

一瞬ためらったが、考えている暇はない。

翔太が美夕の腕を引っ掴んで先に入り、皆がさっさと中へと飛び込んだ。そして、その裏口の扉は閉じられた。

「どこだ?」

声が聴こえる。

「こっちへ来たと思ったんだが…。」

「将軍に見失いましたとは言えないぞ!」と、一人は大通りへと駆け出した。「こっちへ!まだ遠くへ行ってないはずだ!」

バタバタと足音が遠ざかって行く。

皆がホッとして息をつくと、目の前に立つ男が腰に手を当てて言った。

「そんな派手ななりで駆け回って。それじゃあ見つけてくれって言ってるようなもんだぞ。」

何やら、覚えのあるような油の匂いがする。

美夕が思って座り込んだまま見上げると、そこは薄暗い店だった。壁には、たくさんの甲冑が掛かっている…この様は、見たことがあった。

「装備屋か。」

翔太が言う。そう、シアラで立ち寄った装備屋が、こんな感じだったのだ。相手は、頷いた。

「オレ達がこうやって店をやって行けるようになったのも、あんたら戦闘員が現れて、それに憧れた住民達がその真似事を始めたりしたからだ。今でも密かに飾りじゃなく、本当の戦闘用の甲冑を買って行く奴も居る。それまで滅多に来ない軍の甲冑なんかを作って、細々と食ってたオレ達にとって、あんたらは救世主なのさ。」と、脇の扉を開いた。「さ、奥へ。しばらく追手は来ないだろうが、潜んでいた方がいい。ご丁寧にもカフェの店主が喜んで、客や他の店主にまた戦闘員が現れただの吹聴して回っていたからな。遅かれ早かれこうなるだろうと思って、警戒してたんだよ。」

美夕は奥の部屋へと通されながら、あ、と口を押えた。

「シアラでこの甲冑を買った時、そこのお店の人があまり目立つなって言って…ここの人達が、信じられる人ばっかりじゃないからって言ってた!」

それを聞いた翔太が、あからさまに顔をしかめた。

「お前、なんだってそんな大事なことをオレに言わないんだよ。普通何かあるって思うだろうが。」

美夕は、新しい甲冑に浮かれてすっかり忘れていた自分に、しゅんとなった。

「ごめん…。」

店主が、笑った。

「ああ、仕方ないさ。そうか、その甲冑はシアラのマカールが作った奴なんだな。オレの親友だよ。いい仕事するだろう。」

美夕は、頷いた。

「これのお陰で一撃で死ぬのは免れました。」

二撃目で死んだけど。

美夕は思ったが、言わなかった。あれは自分の弱さのせいだ。

ふと見ると、翔太がせっせと腕輪を制御している。何をしているんだろうと思って覗き込むと、翔太は腕輪を美夕に向けた。

「ほら、登録だ。」

え、と慌てて自分の腕輪を開くと、翔太のアストロという名が腕輪のパーティから消えていた。驚いた美夕が翔太を見ると、翔太は急かすように言った。

「早く抜けろ!慎一郎が捕まったとして、あいつの腕輪からオレ達の居場所の検索が出来るんだぞ!バレちまう!」

美夕は言われるままに慌ててパーティから抜けた。それに従って、玲と亮介も慌てて腕輪を操作している。次々に、腕輪から皆の名が消えて行った。美夕が抜けた瞬間、美夕の腕輪には登録パーティ無しの表示が出て、皆の名前が出なくなった。物凄く寂しい気持ちになっていると、翔太が勝手に腕輪を翳して、美夕をパーティ登録をした。そうして次々に登録を済ませていると、カールが控えめに言った。

「オレも登録してくれるだろうか?オレはレベルはあの当時で99だった。魔法も打撃もそこそこといった感じで、どちらかに特化しているのではないが、だからこそどっちでも対応できる。きっと君達の戦力になる。」

翔太は、頷いた。

「ああ。腕輪を着けな。オレ達だって人数が減った分、何とかして補充したかったから願ったりだ。」

亮介が、頷いた。

「何より回復がオレだけってのが心もとなかったからな。良かったよ。」

そうして、カールとも登録を済ませた後、カールは店主を見て言った。

「すまないが、甲冑と武器をもらえないか。オレが使っていた物は、家に置いて来てしまったんだ。値は少しぐらい張ってもいい。」

店主は、嬉しそうに頷いた。

「ああ願ったりだ。オレ達の仕事は、やっぱり戦う男に着てもらいたいからね。」

そうして、カールの甲冑も選びながら、その日は暮れて行った。


「…あの女は、軍が雇っているスパイだ。」カールが、一階のその部屋で言った。「甲冑姿のお前達を見て、情報を売ろうと寄って来たんだろう。それでお前達をオレのアパートへ送ってから、軍へその情報を流したんだ。それから来たから、少し時間があったんだろうが、あと少しで逃げる間も無かったところだった。」

美夕は、今更ながらに不安になった。

「ここも…知られるのかしら。」

しかし、店主が首を振りながらカップに入った飲み物を手渡してくれた。

「ここは大丈夫だ。オレは普通に暮らしている住民だし、たまに偽の情報だが軍へ売ったりしている。あっちはスパイだと思ってるだろう。」

翔太が、地図を手に、言った。

「オレ達は少しでも早く街を出た方がいいと思ってる。」と、地図の西を指した。「こっちへ行くよりないだろう。いや、このアデリーンという街はどんな街だ?」

店主は、顔をしかめた。

「街自体は綺麗な草原の街で、鉄鋼が盛んです。山が近いから、そこから鉱石を掘って来て加工するんですよ。オレ達も、ここからいろいろ取り寄せたりしまさあね。だが、歩きじゃキツイ。魔物が出ます。川の方が幾らかマシで、アデリーンからの船は川を、軍に守られながらやって来るんです。陸路はあまりにも無謀なんで、軍もその道は通らない。」

翔太は、厳しい顔のまま店主を見た。

「行かなきゃならねぇ。他に道はねぇ。軍も来ないなら、こんなに都合のいい道はねぇだろう。とにかく、今は軍から逃げて潜まないと。」

皆も、反対意見もないのか黙っている。店主は、息をついて側の机へと寄って行くと、そこから紙を出して、それにサラサラと何か書いた。

「じゃあ、アデリーンへ着いたらこいつを訪ねてみてください。レナートっていう鍛冶屋の男。こいつなら、信用出来ます。アデリーンの西の外れ、街の出口近くにある鍛冶屋です。クトゥのロベルトの紹介で来たって言ってくれたら話を聞きます。」

翔太は、そのメモを受け取った。

「すまない。いつか必ず礼をする。」

ロベルトという、店主は手を振った。

「いや、いいんですって。こっちがお礼のつもりですから。こういう平和な街で、こんな商売なかなか食っていけないもんなんです。皆さんのおかげで、街では守られて街の結界に籠ってるんじゃなく、自分で戦いたいって若者だって増えていたんだ。それが…あんな風に急に居なくなって。また管理される生活でさあ。オレはね、みんなに戦って欲しいんですよ。自分の力で、平和ってのを勝ち取ってほしい。今のままじゃ、誰も軍に逆らえないでしょう。つまりは、王に逆らうことなんて出来ないんだ。街から街の移動まで管理されるなんて、不自由この上ないですよ。」

美夕は、それを聞いて考え込んだ。住民達も、心中穏やかじゃないんだ。でも、戦闘員のプレイヤー達が来て、自分達で気軽に雇って街から街へ移動が可能になった。それだけで自由になったと喜んでいたのもつかの間、またみんな居なくなって…軍の管理に…。

「…きなくせぇな。」

翔太が、同じように思ったのかそう言った。美夕も、胃が痛くなる想いだった。もしかして…そうなのだろうか。管理したい住民が好き勝手するのを避けるため、国はここへ流れ着いた戦えるプレイヤー達を排除したいのだろうか。

分からない…何が起こっているのか。

美夕が不安で体を抱きかかえるようにしていると、店の方から声がした。

「すみませーん。」

店主が、立ち上がった。

「なんだ?もう薄暗いのに。」

今の、声…。

美夕が思っていると、翔太が立ち上がった。

「…準備しろ。裏口へ。さっき店主に教わった地下水道を通るぞ。」

玲と、亮介が頷いた。美夕が戸惑っていると、翔太が言った。

「玲について行け。オレも後から行く。」と、玲を見た。「頼んだぞ。」

玲は、頷く。ためらう美夕を、亮介も押した。

「さ、早く!街を出るのは早い方がいい。」

美夕はびっくりして言った。

「翔太!でも今の声…真樹じゃ…!」

「早く行け!」と、美夕を見て苦笑した。「お前さーちょっとは素直に言うこと聞け。オレを信じろ。」

「さ、早く!君が一番足が遅いだろう!」

亮介にびしっと言われて、美夕は慌てて足を進めた。翔太…!どうするつもりなの…!

翔太は、美夕が玲と亮介に連れられてカールを先頭に出て行ったのを見送ってから、側の壁に掛けてある大きな三股に分かれている槍を手に取った。そして、それを構えて待つ。

ロベルトが、真樹を連れて入って来た。

「あの…お連れさんで?」」と、翔太が槍を構えているのを見て、覚悟したような顔をした。「…そうですね。申し訳ないです。」

翔太は、息をついた。

「こっちこそ、すまねぇな。」と、店主目掛けてその槍を突き刺した。槍は店主を通って、壁に突き刺さる。「ほんとに、すまねぇ。」

真樹が、驚いて叫んだ。

「なんで…なんでだよ!」

「お前だよ!」翔太は、真樹の腕を掴んだ。「来い!」

翔太は、真樹の腕を引いて走りに走った。

二人が出てすぐに、そこへ数人の制服姿の男達が駆け込んで来たのだった。

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