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リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神の意思とは
112/230

意地

ラファエルを説得しているバルナバスの声を聴きながら、美夕はその夜、眠りについた。

ラファエルは美夕の話はもう、はなから聞く気もなくて、こちらの言葉には耳を貸さない。それでも、バルナバスには一緒に来てもらわなければリツには絶対に行きつけないのは分かっているらしく、バルナバスの話しには耳を傾けていた。

なので、説得はもっぱらバルナバスの仕事となっていて、美夕にはどうしようもなかった。

次の日の朝、キダレスとその家族達に準備してもらったお粥らしい物を食べながら、美夕はちらとラファエルを見た。

お粥は、とても良い香りがして香草のような物が入っており、干し肉なども加えられた朝から胃にも優しく力にもなりそうな物で、とてもおいしかったのだが、ラファエルはそれをニコリともせずに食べ終わり、さっさと席を立って行った。

美夕は、ラファエルの代わりにそれを出してくれた女性に美味しかったと笑顔で礼を言い、そうして、その後を追った。

だが、ラファエルは美夕を振り返る事は無い。

バルナバスが、仕方なくその背に一生懸命話すのを横目に見ながら、美夕は今朝も着信をしておこうと、一人村の出入り口へと足を向けた。

すると、メニクが声を掛けて来た。

「ミユ。」

美夕は、振り返った。メニクは、どすどすという音が聞こえて来るような巨体で寄って来ると、言った。

「上へ出るのか。」

美夕は、頷いた。

「仲間からの通信が来ているかもしれないので。」と、ふとラファエルのことをファローしておこうと言った。「あの、すみません、ラファエル様があんな風で。いつもはこんなことはないんです。本当に、緊急事態だから余裕がないみたいで。」

メニクは、笑って首を振った。

「そんなこと。気にしておらぬよ。尋常でないストレスを受けてここまでたどり着いたのだろうしな。我らだって主らの気持ちは分かるつもりだ。」と、歩き出した。「上へ行くなら、ついて行こう。ここらには誰も居らぬとはいえ、やはり警戒はしておかぬとの。女子供は一人で地上へ出たりせぬのだ。」

美夕は、そうなのか、と自分の浅はかさに顔を赤くした。

「まあ、そうなのね。ごめんなさい、私、そういうのに慣れていなくて。もっと気を付けます。」

メニクは、特に気にしている風でもなく、笑って手を振ると、美夕と並んで、地上へと共に歩いてくれた。

しばらく歩くと、見慣れた出口に出る。そこで、また慣れたように腕輪がブルブルと震えた。

着信を開きながら見ていると、グループチャットの所に、翔太からのメッセージが出ていた。

『今からそっちへ向かう。魔物の巣を避けるから少し掛かるかもしれない。20:18』

美夕は、それを見てびっくりした顔をした。20時って、昨日の夜?!

「まあ!昨夜からもう、あちらを出て歩いてるみたい!」

メニクは、それを覗き込んで顔をしかめた。

「オレにはこの文字は分からぬな。そうか、もう出たか。直線距離で一日掛からぬはずだが…もし地上へ出て歩いておるなら魔物の巣もあるしな。それを避けたら、休憩も入れて明日の朝ぐらいには到着するのでは。」

美夕は、首を傾げた。

「でも結構な距離ですよね。」

メニクは、頷く。

「あちらからならなだらかな下りになるゆえな。楽に歩けるはずよ。我らなら半日で歩く距離。しかし、女も居ったらそうは行かぬだろうて。ゆえに明日の朝と申したのだ。」

美夕は、うんうんと頷いた。確かに、ここへ来る道は地下でも少しずつ下がっていた。なので、反対方向へ歩くのは疲れそうだが、こちらへ来るには楽そうだと思えた。

「じゃあ、それをみんなに知らせなきゃ。あ、でもその前に分かったって送っておきますね。」

美夕は、翔太に分かった、待ってる、と送った。

地上から来ているのか地下へ潜っているのか分からないが、あちらもこちらへ向かっているのだ。そう思うと、早く会いたいとそわそわした。

メニクは、そんな美夕に苦笑しながら、言った。

「では、戻るか。あまり長く地上に居るのは良くないのだ。時々、術を放って地上に誰か居ないか探っている兵士が巡回に来る事がある。それに引っ掛かっては面倒であるからな。」

美夕は、そんな事があるんだ、と慌てて出口から引っ込んだ。

「まあ!じゃあ早く戻りましょう。すみません、いろいろ教えてもらってしまって。」

メニクは、笑って言った。

「良いよ。毎日単調であったから我らも違う民族が来て楽しい。案じるな。」

とても大きな体なのだが、メニクからはキダレスと同じような、良い人オーラが湧き出ているようだった。

美夕は、自分もこんな風に人に優しい人になりたい、と思いながら、微笑み返して一緒に村へと引き返したのだった。


戻って来ると、まだバルナバスはラファエルを必死に説得しようとしていた。修道士達が、困ったように離れた位置でその様子を見守っているのが見える。

さすがに美夕も放って置けなくて、メニクと共にそちらへ歩いて行った。

「あの」美夕は、気が進まなかったが、声を掛けた。「翔太達が、あちらを昨夜出ていて。メニクさんが言うには、明日の朝にはこちらに着くはずだって。」

バルナバスが、それに頷く。

ラファエルは、美夕を睨んだ。

「あやつらがリツへ行かぬのなら、我には関係の無いことぞ。主とて参らぬのだろう。ここからは別々の道ぞ。いちいち報告せずとも良い。」

修道士達は、困惑した目で美夕を見る。美夕は、その視線に押されて、どうせ聞いてはもらえないだろうけれど、と、言った。

「ラファエル様、まだそのような事を。バルナバスだって修道士達だって、今すぐにリツへ行こうなんて無謀なことは思っておりませんわ。みんな、ラファエル様をお留めしようと必死じゃないですか。どうしてそんなに、意地になっておられるんですか?今は無理なんです。今のラファエル様は、今日はパンしかないのにどうしても魔物が立っている樹になるリンゴが食べたいとだだをこねている子供のようですわ。魔物が離れてから、リンゴを取ったらいいだけなのに。」

ラファエルは、あまりにも的を射た言い方に、一気に顔を真っ赤にした。バルナバスも、メニクも確かにそうだと思ったのか、納得したような顔でそれを聞いている。それが更に気に障ったのか、ラファエルは叫んだ。

「うるさい!神のことであるのに!リンゴやパンとは比べ物にならぬわ!無礼ぞ!」

美夕は、あまりに意固地なラファエルに段々腹が立って来た。なので、言った。

「では、お一人で行かれたらいかがですか?修道士達はバルナバスが私達と共に安全な場所へと連れて参りますから。この中で、神に会えるのはラファエル様だけなのでしょう。他は行っても無駄なのですわ。そう、ラファエル様がお嫌だとおっしゃった、無駄な行動ですの。無駄に命を落としてはこれらも可哀そうでしょう。お一人で参られたら良いのです。私は行きませんわ。方向を知っていて、導いて来たのは私ですけどね。」

ラファエルは、ぐ、と黙った。そう、方位磁針を装備した腕輪を持っているのは、美夕なのだ。それを使いこなせるのも、また美夕だけだった。

さすがのラファエルも、何も目印の無い地下で方向を知るのは難しかった。

「…うるさい!」ラファエルは、叫んで歩き出した。「ここまで来た道なら分かるわ!それを辿って、戻れば良いだけよ!一人で参る!」

「ラファエル様!」

バルナバスが、慌てて追った。美夕は、それを見て思った…バルナバスが、自分を見捨てる訳が無いと思っているからこそ、ラファエルは行くと言ったのだろうと、その背中に見えたのだ。

「待って!バルナバスまで危険に晒すなんて!」

ラファエルは、歩きながら振り返って叫んだ。

「我がついて来いと申したのではないわ!勝手に来ておるだけぞ!」

危険を承知でそれに巻き込もうとするなんて。

美夕が、どうあっても止めなければと慌てて腰のポーチから杖を出して大きくしようと格闘していると、その僅かな隙に、ラファエルの声が上がった。

「うおおおお?!」

美夕は、驚いて顔を上げた。

「ラファエル様!」

バルナバスが、慌てて駆け寄っている。

ラファエルは、何があったのか地面に突っ伏して、腕を抱え込むようにして倒れているのが見えた。

「ラファエル様?!」

美夕は、やっと見つけた杖を大きくして持つと、急いで駆け寄った。ラファエルは、何やら両腕を胸の前に抱え込んで地面を転がっていた。

「ううう…!」

「ラファエル様!」

バルナバスが、悲痛な声を上げる。美夕は、杖を構えた。

「何があったか知らなけど、回復魔法でいける?!」

バルナバスは、首を振った。

「分からぬ!やめよ、余計な事をして何かあっては…!」

言われて、美夕は慌てて杖を下ろした。確かに、状況を先に見極めねば…。

「ラファエル様?!じっとなさってください!」

しかし、ラファエルは地面を転がり回り、どこか痛むのかひたすらに両腕を体の前に抱え込むような形になり、苦痛に顔を歪めていた。

痛みだけでも…!

美夕は、巫女の術の中で、痛みを取るものがあったのを思い出した。そして、杖を構えた。

「バルナバスどいて!痛みだけ取るから!」

バルナバスは、横へと飛び退った。

その隙に、美夕は一気にラファエル目掛けてその術を放った。

術は、綺麗に飛んでラファエルを包み込み、そうして、ラファエルの動きは停まった。

「ラファエル様!」

バルナバスが、駆け寄ってラファエルの顔を覗き込む。美夕も、メニクも急いで倒れるラファエルに駆け寄った。

すると、ラファエルは気を失って、ダランと体を投げ出してそこに倒れていた。

「なに…これ…?!」

美夕は、口を押えた。

ラファエルの両腕には、真っ白いいばらのツルのようなものが、巻き付いて食い込んでいたのだ。

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