表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーリンシア~The World Of LEARYNSIA~  作者:
神の意思とは
102/230

代償

その頃、ラファエルと美夕、そしてバルナバス、レナートと六人の修道士達は、黙々と歩いていた。

ここは、これまで歩いて来た洞窟とは違い、所々柱のような岩が出ているものの、基本的に広い空間で、ずっと先まで見渡すことが出来、美夕の方位磁針を頼りに、ただ歩いていた。

一時はライデーンへ行くことも考慮に入れると言っていたラファエルだったが、美夕に指示して来たのは、結局禁足地の方角への誘導だった。

多くの仲間を失ってしまった今、もうバルナバスも美夕も、ラファエルのその決定を覆そうとは思えず、それに従って方向を見定め、そうしてただ、黙々と歩いて進んでいた。

天井の所どこに開いた地上らしき光があったが、ラファエルはそこにも見向きもしなかった。

バルナバスは、時々に術を放って自分達の位置を確かめ、美夕が方向を見定めるのを助けてくれていた。

美夕以外は男ばかりになってしまったこのグループで、バルナバスが、言った。

「ラファエル様。」ラファエルは、チラとバルナバスを見る。バルナバスは続けた。「そろそろ、一度休憩を。美夕も、レナートも疲れて来ております。水分と食料の補給をしなければ、目的地までもたないでしょう。」

ラファエルは、無表情に頷く。

「ならばそうしよう。」

淡々としている。

バルナバスは美夕へと視線を向けて、美夕もそれに応えるように心配げな視線を返した。

それでも、バルナバスはラファエルに頭を下げると、さっさと水などを出して、皆を休ませるための準備を始めた。

美夕は、それを手伝いながら、チラチラとラファエルを気にして、皆の前にバルナバスから受け取ったパンとハムなどを手渡して行った。その量は、明らかに減っていて、バルナバスがこれからの行程を考えて節約しようとしているのは明らかで、恐らくそれほど余裕はないのだと思われた。

最後に、自分の分を手にした美夕は、自然と足をラファエルの方へと向けた。ラファエルは、皆に食べ物が行き渡ったのを目で確認してから、自分の水の入ったカップへと視線を向けた。

隣りでは、バルナバスが気遣わし気にそれを見ている。

美夕は、多くの仲間を失ったショックから立ち直れていないラファエルに、どう声を掛けていいか分からないまま、バルナバスとは反対側の隣りへと、腰を下ろした。


そうやって誰も口を開かないまま、また黙々と食事を終えた後、さすがにこのままではと思った美夕は、ラファエルに話しかけた。

「あの…置いてきた巫女達が気にかかっておられますか。」

ラファエルは、息をついた。

「…いや…あれらは、今頃代償を支払わされておるだろう。もはや人ではない。狂うて軍に殺されておるか地下水脈に飛び込んで命を失っておるか…どちらにしろ、もう連れて歩くことは出来なんだ。」

美夕はわけが分からなかった。狂う?

「ええっと…置いて行かれたショックで、ということですか?」

ラファエルは、側で震える修道士達へと目をやってから、また美夕を見た。

「…いいや。そうではない。あれらは巫女として生まれて神のご加護のもとに、神に仕えて我を補佐し、清い心で仕える者達であった。少なくとも、あの時点まではそうだと信じていた。我らは民の命を身をていして守り『個』として生きる事が許されぬゆえに、神は特別に病などからも守り、生きていた。つまりは、『個』としての己を優先するようであれば、その資格はなくなる。我ら平等なのだ。我とあれらは何も違わぬ。同じ意識を持てぬようになれば、ただの人と成り下がる。特別な術でも掛けておらぬ限り、姿を保つ事は出来ぬ。」

美夕は、驚いて口を押さえた。どういう事?

「え…人と何も姿は変わらないではありませんか。確かに白くて美しいけど…。」

ラファエルは、首を振った。それは悲しげで、目にはうっすらと涙を浮かべている。

「そうではないのだ。人に戻るのは良い。しかし、あれらは巫女ではないのに巫女として神に守らせた、その代償を支払わねばならぬのよ。姿はその心根に合わせて醜く変わる…それに耐えられず大概は狂う。そして、魔物として人に消される。あれらは…今頃はそうなっておろう。連れて来ておれても、我とて手に掛けねばならぬようになる。術で姿を保ってやろうにも、かなりの力を使うゆえ…使命を帯びておる我が、そのような事に力を割くわけには行かぬ。」

美夕は、愕然とラファエルを見つめた。では…今頃は皆…。

絶句している美夕に、バルナバスは言った。

「仕方の無いことなのだ。我のように外から来たただ人とは違い、皆神のご加護の上に生きていた。その代償は、己で支払わねばならぬのだ。」

美夕は、黙り込んだ。あのままあの神殿で過ごしていれば、こんなことにはならなかった。自分が、無理に通信しようとしたばかりに…。

だが、そんなことは言っていられないのだ。ラファエルも、あれはあんな所で籠って出なかった自分のせいだと己を責めている。あれらのためにも、ここはどうしてもシーラーンへ行き、使命を全うしなければならない。

美夕は、キッと顔をあげた。

「ラファエル様…禁足地が、どのような場所かご存知ですか?」

じっと下を向いていた、ラファエルは顔を上げる。その向こう側で、バルナバスもこちらを見た。

「…知らぬ。だが、あの辺りの気は遠く探っても澄んでおって、まだ我がシーラーンの地下深くに居た時でも、それは感じ取れた。幼心に、最後にはあの地に行きたいもの、と思ったものよ。ただ、アガーテからあの地の手前には断崖があり、他を寄せ付けない場所だと聞かされていた。崖を降りようにも大型の翼竜が飛び回り、住処にしているようで無事に行きつけた者は居らぬと。ただ、その地には神が許した者達が静かに暮らすのだとも聞いたのだ。どうやって入るのか、考えてもおらなんだが、このまま地下を通って行けたとしたら、これも神のご意思では無いかと思うのだ。先ほどから見通しが良いし…もしかして、と期待はしておる。」

美夕は、そういう風に考えるのか、と心の中で思っていた。何しろ、自分は神を信じているわけでも信じていないわけでもない。こういった世界で育って来なかったので、誰かが自分を導いてくれる、と信じ切ることが出来ないのだ。なので、これでうまく洞窟から禁足地へ行けたとしても、それが神の意思とか考えられなかった。

なので、今傷付いているラファエルなので言い出せなかったが、思い切って言った。

「ラファエル様…ラファエル様を否定しているわけでも、神を否定しているわけでもないのだという前提のもとにお聞きください。」ラファエルは、驚いたような顔をした。美夕は続けた。「神のご意思がどうであれ、それにばかり頼るのは、間違っていると思うのです。私達は、現に生きてここに居て、この状況を動かしているのも私達です。私はラファエル様が間違っておられると言っているのではなくて、まず、みんなで生き延びるにはどうしたら良いのか、自分達で考えなければならないと思います。ラファエル様がおっしゃるように、このままここを抜けて禁足地に行けたらラッキー、でも、そうでなければ地上から、山を登って断崖を降りなければいけません。食料の残りを考えても、断崖を降りられなければどのみちそこで行き詰まります。皆をそこに置いてシーラーンへ行くしかなくなるのです。あの…私は、ここから禁足地に行けないのではと思っているのです。」

ラファエルは、目を見開いたが、見る見る表情を変えて、明らかに不機嫌に言った。

「何を言うておる。そんなことは分からないであろう。我でもここから先はまだ見通せぬのに。」

美夕は、困った顔をした。確かに見通せないけれど、ここまで歩いていて、美夕は氣付いた事があったのだ。

なので、言った。

「ここは…どうやらあの、地下水脈を越えなければ行き着けない場所のようで、誰も居ないようですけれど、地上から誰かが入ることは可能だったはず。軍が知らないのは、地図を見て分かるようにかなり田舎で上に森があるので気付かなかったからで、気付いていたらここにも軍が居たでしょう。でも…あの、所々天井に穴がありましたでしょう?もし、ここから禁足地に行けるなら、この辺りに住む誰かが見付けている可能性が高いのでは。それで噂になって、今頃禁足地は禁足地ではなかったのではありませんか?」

ラファエルは、それを聞いてぐ、と黙った。

バルナバスが、それに感心したようにあちら側から言った。

「確かにミユが言う通り、ここから行けるのならもう、誰かが行っていてもおかしくはありません。この辺りには街も無く、確かに一般の民がそれを見付けるのは至難の技ではありますが、二百年前にはこの辺りにも人は居た。アレクサンドルが王になる前、街の結界など無く自由にうろうろしていたのです。それらが結界が出来ると聞いて、あちこちの街へと移動したのだと聞いております。ならば、それらならこの場所を知っていたでしょう。ここから禁足地に行けたなら、それらから軍にそれが知れて、アレクサンドルは間違いなくこちらから攻めたでしょう。それがないのだから、恐らくはここは禁足地に繋がってはいないのではないでしょうか。」

修道士達は、一塊になって困惑したようにそれを聞いている。

ラファエルは、じっとそれを聞いていたが、険しい顔でバルナバスを見た。

「そうだとして、ではどうするというのだ。もうかなり島の北側へと移動しておるゆえ、今更ライデーンへと引き返すわけにも行かぬ。」

バルナバスと美夕は、顔を見合わせた。確かにそうだ…地図上で言えば、ライデーンへ行くならそもそも地下水脈を越えずに軍が来ている真っただ中に出て行くよりなかった。

ここまで来てしまったからには、海へ出て海からライデーンへ向かった方が現実的だろうが、船が見つかったとして海上を船で進んでいたら、それこそ狙い撃ちにされてしまうだろう。

「…翔太達と、連絡が取れないかと思います。」美夕は、言った。「あちらの動き次第で、こちらも行く方向を決められる。あの、少し戻ったら上に穴が開いている場所があるのを覚えているので、私だけ行って来ます。こちらで、お待ち頂けますか。」

また、もし兵士でも居て気取られたら見つかるのが自分だけで済む。

美夕は、そう思った。見つかったら、こちらへ戻って来るのではなく、来た道を戻ればラファエル達にまで追手は迫らないだろう。一人だったら逃げて逃げて、どこかに潜んでいたら逃げおおせるかもしれない。

ラファエルが、それに気付いて抗議しようとしたが、バルナバスが脇から言った。

「では、私も。ラファエル様、私も共に行きます。そうしたら、皆が追われることは無い。何しろ、情報は必要なのです。」

ラファエルは、唇をかみしめた。自分を逃がそうと、他をこれ以上犠牲にしたくないのだろう。

だが、それが一番良いのはここにいる誰もが分かった。

ラファエルが数々の心労で顔色が悪くなって来ているのは分かったが、それでも美夕は、これ以上誰かに任せて旅を続けるのはいけないと思っていた。

ラファエルは、渋々だったが、青い顔のまま、頷いた。

「…では、それで。もしも主らが戻らねば、我らはこのまま禁足地近くの方へと向かう。」

美夕と、バルナバスは共にホッとして、頷いた。

「ではそれで…、」

「動くな!」その時、脇から何の気配もさせずに、いきなりに声がした。「逃げられんぞ!」

バルナバスがサッと構えるが、もう遅いことは美夕にも分かった。

暗闇の中から、どこからそんなに湧いて来たのかというほど多くの人たちが、自分達を囲んでこちらを睨んで立っていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ