書くことの癒し
なぜ小説を書くのか。人に読んでもらいたい物語があるから。書かずにはおれない衝動があるから。あるいは、長く続く時間に耐えかねたから。人によって理由は様々だ。
ここに、「書くことの癒し」について、少し語ってみたい。精神分析学の大家ユングは、様々なイメージを表現することによって、深層心理にある普遍的無意識の働きが促進されると考えた。この流れは、砂が敷き詰められた箱の中に、様々な玩具を並べ、治療を行う箱庭療法や絵画療法など、様々な言語によらない心理療法の可能性を開いたといえる。
そして、その一つに自分の中での自分の代役を果たす人物を自由に活躍させる物語を、時に文章として残すアクティブ・イマジネーションと呼ばれる方法がある。人は、現実の世界では、様々な障害から、イマジネーションの自由な活動や、人格の多様性を保った生き方を阻害されることがある。しかし、書くことによって、そこには自由さが生まれる。そして、その自由にもとづく癒しが、「書くことの癒し」であると考えることが出来る。