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青春四季  作者: ねこやなぎ。
第一章 青い春
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第二話 「初夏の茜に」

第一章 第二話 「初夏の茜に」


 初夏のグラウンドは、徐々に強まり始めた日射しを反射させて、眩しかった。

 「ストラーイク!!」

 快晴の空の下に、野球部顧問かと思われる体育教師の暑苦しい声が響く。

 スリーアウトで攻守交替。俺は地面に置いたグローブを手に取って守備位置に付く。レフトだった。センターには、この授業に俺を巻き込んだ奴が付いていた。


 我が春崎高校では、5月にようやく種目別に分かれて体育が行われるのであるが、……俺は、癖毛でチャラ眼鏡な白間(はくま)(なお)に強引に連行されて、野球を選択させられた。直はなぜよりにもよってこんな外の暑い中でやるスポーツを選んだのか。今はまだ許容範囲だが、夏になるにつれきっと辛くなる。俺には理解できそうにない。できれば卓球やバスケがよかった。室内の方が疲れなくてすむ。現に鈴波(すずなみ)(ゆう)はバスケを選択していた。

 

 だいたい運動は苦手なのだ。……だから、教師に何かを見極められて一番動きが少なさそうなポジションに付けられた。


 当人である直は激しく動き回っていた。インドアに見えて、実はやつは体を動かすのが好きだ。日頃からオーバーリアクションなのも関係しているのかもしれない。

 動き回るのは直だけじゃない。野球を選択した同学年の生徒全員が生き生きとした表情だ。俺は対照的にうんざりした表情だろう。何しろ、暑い。ゴールデンウィーク明けの五月中旬、気温が上がり始める季節だ。暑いのも苦手だった。


 こう、溌剌とした空気の中にうなだれた自分がいるということを考えると、未だクラスに何となく馴染めていないことも浮かんでくる。馴染もうと思っていないが、……未だに、絡んでくる2人に申し訳ないという気持ちがあった。憂と直は、移動教室などでも常に俺と行動していた。俺なんかほっといて、別の友達と行動すれば良いのに。

 2人は部活にも入っていないから、放課後も毎日3人で一緒に帰っている。俺みたいなつまらないヤツと長く行動しても、無駄だと思う。それに、俺は、1人の方が好きだった。


 思考に耽っていると、カキーン、という金属音が聞こえた。なかなかの当たりだ。ボールが孤を描いて空を飛ぶ。だが、ここまでは飛んで来そうにない。念のため、構えの形だけとる。

 「任せろォ!!」

 直がそう叫んで走り出した。一直線にボールが落ちる予測点まで駆け抜け、……直は華麗に手中にボールを収めた。


 「ナイス白間!!」

 「あいつよく動くなぁー」

 チームメイトから賞賛の声があがる。直はそれらに向けてピースを向けた。それと同時に───チャイムが鳴った。

 

 

 「直様大活躍って感じだろ?」

 授業終了後、ベースなどの片付けを終え、1人で校舎へ戻っていると、後ろから自信ありげな声で直がそう話しかけてきた。

 「……鬱陶しい、あっちいけ」

 「冷てぇなぁ」

 「誰かさんのせいですこぶる疲れたんでな」

 言って、直を睨みつける。こいつが強引に引っ張るから。

 「まぁまぁそう言うなって、いい経験になっただろ」

 「どこがだ」

 「青春的な」

 「くだらねぇ」

 直は俺のその返答を聞いても、ニヤニヤと笑っていた。こいつと出会って1年弱。この程度のあしらいには応じなくなっていた。


 「あーぁ、あっちいなぁしかし」

 「汗びっしょりだなお前」

 よくよく直を見てみると、何滴もの汗を滴らせていた。あれだけアクティブに動いたからこうなるだろう。

 「うん、水も滴るいい男、だろ? 女子にモテモテだなこれは…」

 「ふざけたこと抜かしてないでちゃんと拭けよ、風邪ひくぞ」

 「おっ時人(ときと)くん優しい」

 「うるさい」

 つい口から出た言葉を取り消したくなった。本当に、直はすぐに調子に乗る。それがこいつの長所なのだろうけれど……やはり、俺にとっては鬱陶しかった。


 「あー、時人、自販機ついてきてよ、ジュース買いてぇ」

 「一人で行ってこいよ」

 「そんな事言わずに、さっ!」

 肩をがっしり捕まれ連行される。ぐふっ、という情けない声が出た。幸い、自販機はグラウンドの近くにあった。直は体操服のポケットから小銭を取り出す。あんなに激しい動きをしてよく落とさなかったな、と思った。

 

 「なーに飲もっかな」

 「……スポーツ飲料にしとけ」

 「そうだな、スポーツ飲料滴るいい男は女子にモテモテ…」

 1人で恍惚とした表情をしながら、直は自販機に小銭を入れていた。流石にその想像は引く。だいたいスポーツ飲料が滴るってなんだ。


 ゴトン、と落ちてきたペットボトルを直が手にする。俺はそれを見て、教室棟へと歩き始めた。直もすぐ後ろをついてくる。先ほどの体育の授業は4限、つまり今は昼休みだ。自販機のあるこの渡り廊下は食堂に続いているので、教室棟へ向かう間に何人もの生徒とすれ違う。人が多いのも苦手だ。


 「おっ」

 隣で直が小さく声を上げる。目線の先を見ると、クラスメイトの福本(ふくもと)未来(みらい)神永(かみなが)椎奈(しいな)が並んで歩いていた。

 「食堂かなぁ2人とも」

 直的にタイプな2人。この2人を見る時の直の目はものすごく輝いている。だかしかし、話しかけたことはまだ無いらしい。本人曰く、きっかけが大事であって今はまだそれを見つけられないのだそうだ。このカッコつけ野郎が。


 ……俺は、入学して早々福本と接触したが、そのことは黙っていた。こちらに非がありすぎて話せそうにもない。推測でしかないが、福本も、誰にも話して無さそうだった。……そして、あれから、福本と口を聞くことは、一度もなかった。


 "───どこかで、会ったことある?"


 彼女のそんな言葉を思い出す。あるわけがない。彼女自身も気のせいだと認めていたが、妙に気にかかっていた。俺のような地味な男なんてどこにでもいるだろうし、人違いに決まっているのだが。

 とにかく、俺にとって、福本という女子生徒は謎だらけで──早い話、苦手だった。



 * * * * *


 入学して1月も経てば、授業にも慣れてくる。慣れてくると安心感が出て、……眠くなる。

 まして6限目ともなると、昼食後ということもあって極端な眠気に襲われることもある。俺は今日は大丈夫だったが……、左斜め後ろの席から微かな寝息が聞こえる。直のやつ、体育ではしゃぎすぎだ。

 「井川、35ページから頼む」

 現在の授業は、現代文である。担当教師である祗道(しどう)(よし)が、教科書を読ませるために生徒を指名した。井川という男子生徒は教科書を手に取って立ち、感情の無い声で淡々と読み始めた。それを祗道は、眼鏡越しに見つめている。どこか冷徹な印象を感じられる教師だった。

 井川が読み終える。作品は、芥川龍之介の『羅生門』だった。

 「さて、とりあえず今のが冒頭だ。読んだことあるものは?」

 教科書に目を通しながら、祗道は生徒に尋ねる。何人かが挙手した。その中に、福本の姿もあった。

 「ふむ、まぁ毎年そんなものだな。芥川龍之介と言えば他に『鼻』、『蜘蛛の糸』なんかも有名だな…ふむ、本編に入る前に、文豪の話も少ししておくか」

 そう言って、祗道はチョークを手に取った。近代文学、と大きく書かれる。なかなかの、達筆だった。

 「まず、近代文学の初めは──」

 言って、語り始める。祗道はこれまでの授業とは違って、どこか生き生きとしていた。文学が好きなのだろう。

 森鴎外や夏目漱石、島崎藤村など、近代文学の要の文豪について語っていた。

 俺も、本は好きだった。中学の時は図書館に行ってよく本を読んだものだ。だから、祗道のこの授業はかなりためになるものだった。本が、読みたくなる授業だ。


 「ざっと、こんな感じだな」

 黒板に文学史を書き付け、祗道はチョークを置いた。授業時間も、もう残り少なかった。

 「ふむ、まぁいいか。ここ、テスト範囲にするから」

 無表情で告げられたとんでもない一言にクラスがざわめく。俺も、ノートも何も取らずに聞いてしまった。理不尽だ。

 「わかったわかった。後でプリント配布するから自分で復習しろ」

 祗道はそう言って、教材を片付け始める。同時に、6限の終わりを告げるチャイムも鳴った。

 「じゃあ来週は羅生門入るからな、予習しとけよ。あと白間。平常点はがっつり引いとく」

 斜め後ろを振り向くと、チャイムでようやく目を覚ましたのだろう直が祗道のその一言を聞いて青ざめているのが目に入った。起きるの、おせーよ。そう俺は心の中で小さく悪態をついた……。


 * * * * * *


 さて、今日も放課後が訪れた。

 「時人〜帰るぞ」

 普段なら、そう誘ってくる直と憂と共に流れで帰宅するところだが……。

 「すまん。用事ができた」

 「は? お前に用事?」

 素っ頓狂な顔をして直が訊ねてきた。相変わらず失礼なやつだ。

 「用事。現代文の授業で本が読みたくなって」

 「あぁ、時人そういやよく本読んでたね」

 憂が思い出したようにそう言った。俺は2人にじゃあな、と告げてふらりと教室を出た……と思っていた。

 「おい」

 「ん?」

 「なんで付いてくる」

 図書室へ向かう廊下の途中。何故かいつも通り直と憂に挟まれていた。

 「いいじゃねーか、別に。図書室だろ、俺も行きたい」

 「直と図書室って合わないなぁ」

 「この眼鏡が見えんのか! どこからどう見てもインテリだろ?!」

 「……それ、本気で言ってる?」

 はぁぁ、と、深いため息が出た。いつも通り、俺を一人にはしてくれないようだった。

 2人のそんなくだらないやり取りを聞き流しながら、職員棟の三階へ登る。春崎高校の校舎は、主に特別教室棟、教室棟、職員棟の三つで構成されていた。職員棟の三階に登ってすぐ左側に、目的地の図書室はあった。

 案外早く着いたな、といいながら直が前に出て扉を開けた。


 「中学の時より広いな」

 憂がぼそりと呟く。確かに、広かった。蔵書数も中学のそれを上回っていそうだ。奥の窓に微かに差し掛かる茜色の光がどこか幻想的だった。


 2人を気にせずに、俺は本棚を眺めた。中学の時は、ミステリーとか、映画化された流行りの作品なんかをぽつぽつと読んでいたことを思い出していた。

 ぼんやりと、先程の祗道の授業で出てきたような文豪の作品を探す。この本棚の列には現代の作品しかないようだった。憂と直が俺と同じように本棚を眺めているのを傍目で確認しながら、裏に回ろうとして──。


 ガタタタタッ…。

 「わぁぁ!!」


 ……何かが崩れる音と、女子の悲鳴が聞こえた。

 「なんだ?!」

 それを聞いた直が率先して本棚の裏へと回る。俺と憂はその後に続いた。そこにいたのは──。

 「お、おと、落とした…ぁあ」

 「……神永さん?」


 直がおろおろとしている彼女の名前を呼ぶ。神永椎奈。憂よりも色素の薄い、肩下までのふんわりとした髪を持つ少女。神永の周りには、重そうな本が数冊散らばっていた。

 「えっ、あっ、白間くん? ど、どうしてここに??」

 挙動不審に手を動かしながら神永は直にそう聞いた。直は少し傷ついたような表情を見せたが、すぐに女子に見せる直特有の気持ち悪い…本人曰く爽やかな笑顔を作って、こう言った。


 「いやぁ、本が読みたいなぁと思ってさ。あ、ていうか神永さん大丈夫? 拾うの手伝うぜ」

 「あ、ありがとう…」

 直が神永の落とした本を拾い始める。俺と憂も1冊ずつ拾った。……文豪の全集だった。

 「神永さんよくこんな重い本持ってたな。読むのか?」

 手にとった本を眺めながら直が訊いた。本からは、古い香りがした。

 「ええと、わたし、図書委員だから、棚の整理手伝ってたの…」

 「あぁ、そういうことか」

 「う、うん。あっ、あの、それそこに並べてくれると嬉しい……」

 だんだん小声になりながら神永は言った。人見知りなのだろうか。俺達は指示に従って本を棚に並べた。


 「こうでいいか?」

 「うん!ありがとう…えと、白間君と、鈴波君と、(くが)君…だよね。同じクラスだよね」

 そうだよ、と直と憂が言う。俺は頷いただけだった。

 「話すの初めてだね。わたし、神永椎奈って言います。よろしくっ」

 神永は笑顔でそう言った。笑うとふんわりとした雰囲気と相まって、すごく可愛い少女だと思った。……隣では、直が顔を赤らめている。心境を察するに、待ちわびたきっかけが出来て緊張している、といったところだろうか。

 「あぁ、よろしく」

 何故か固まってしまっている直を差し置いて、憂が笑顔でそう言った。憂も笑うとなかなか絵になると思う。

俺は会釈だけしておいた。


 「おーい、椎奈ちゃん終わったー?」

 

 挨拶を終えると、今度は男子生徒の呼びかけが聞こえてきた。声のした方……今いる本棚の列の奥の方を見ると、1人の男子生徒がこちらへ向かってきていた。髪色は憂ほどではないが少々薄く、華奢な風貌の見たことのない生徒だった。


 「あ、どうも。椎奈ちゃん知り合い?」

 その生徒は、俺達3人の姿を確認するなり軽く会釈をして、椎奈にそう訪ねた。クラスメイトなの、という返答を聞いて、その男子生徒は改めて俺達を見つめる。


 「あ、じゃあ5組か。ふーん」

 興味津々な目で俺達を見つめるその男子生徒に、直が「あんたは?」と訊ねた。男子生徒は思い出したように、こう名乗る。


 「あっ、ご紹介遅れました。僕は相川(あいかわ)(しん)って言います。クラスは6組。隣だね」


 相川。偶然にも、我が5組の担任と同じ苗字だった。直はふぅん、と小さく呟き、よろしく、と言った。憂もそれに続いて…俺は神永の時と同じように、軽く会釈をした。

 「うん、よろしく。あっ、椎奈ちゃん、さっきの本の整理終わった? もう閉館時間なんだけど」

 相川心は自身の腕時計を指さしながら言った。針が指し示す時間は16時50分。閉館時間は17時か。

 「えっもうそんな時間? ここの整理は終わったよ!! わたし、部活行かないと!!」

 そう早口に告げて、椎奈は随分と慌てた様子で駆け出していった。あんなに慌てて転けないのだろうか……と少しだけ不安になった。


 「いやー、というわけで閉館なんだ。みなさんはもう帰る?」

 「どうする時人?」

 直が俺を見た。まぁ確かにここに来たいと言ったのは俺だった。しかし肝心の本は1冊も読めないままだった。……まぁ、閉館時間なら仕方ない。帰る、と小さく呟いた。


 「ほほう、ね、もし駅まで行くなら、僕も一緒帰っていい?」

 相川心のあどけなさを感じる笑顔での提案に、俺は一瞬固まった。発言の意味が理解出来なかった。

 「おっいいぜ」

 「多い方が楽しいしね」


 2人は笑ってそれを受け入れる。相川心は俺の意見は聞かずに、荷物を取りに図書室のカウンターへと向かっていった。理不尽だ。多数決の原理とはいえ理不尽だ。

俺はただでさえ、1人で帰りたいのに……。そんな心の叫びも、初対面の相川心の前ではとても口に出せそうになかった。


 * * * * * *


 高校から駅まで行くには、少し傾斜のきつい長い長い坂を下る必要がある。一月もすれば慣れたものだが、荷物の多い時は地獄だった。それに、下りはいいが上りがきつい。朝は常に、地獄だった。

 そんな坂を下りながら、直と憂、相川心の3人は世間話に花を咲かせていた。俺は聞いているふりをして、ただ黙っていた。


 「ところで、三人とも5組だよね」

 相川心が何気なくそう訊ねた。先程、俺達が5組と聞いたとき彼の目が何故か輝いたことを思い出した。直が返答しようと口を開く。

 「あぁ、5組だぜ。担任は───」

 「相川知美、でしょ。どんな感じ?」

 「どんな感じって……うぅん、普通かなぁ」

 「ふぅん、そうなんだ……」

 「そういやお前苗字一緒だな」

 はっとしたかのように直が言う。多分直の推測は、俺が今考えたことと同じだった。


 「あはは、姉さんなんだ」

 「そうなん……ってまじかよ!」

 直が恒常の過剰な反応で驚く。その肘が俺の腹に激突して少々痛かったので睨みつけた。隣を見ると、憂も驚いた表情をしていた。

 じっと相川心を見つめる。担任の相川知美と顔はそんなに似ていないように感じられたが……、瞳が、似ていた。


 「うん、まじまじ。姉さんそそっかしいからさ、ちゃんと教師やれてるか弟の僕は心配なわけ」

 姉思いだなぁ、と直が感心したように呟く。それを聞いて相川心はふふん、と笑った。

 「姉思いというか、なんというか。まぁとにかくやれてるなら一安心。僕のクラスには姉さん授業に来ないしね」

 「姉が授業って気まずくね」

 「うん、めっちゃ気まずい」

 相川心は照れくさそうに、でもどこか誇らしいそうにそう言った。


 その後、自分で始めた話題の癖に、やはり恥ずかしくなったのだろうか、そういえば、と心は思い出したかのように切り出した。


 「3人とも、どこ中?」

 「ん? 冬時中」


 直の返答を聞き、相川心が一瞬、好奇心の瞳を示したのを……俺は見逃さなかった。


 「え、そこって」

 「相川君はどこ中?」

 その好奇心を抑えつけるように、憂が相川心の言葉にかぶせて訊いた。


 「僕? 僕は、倉崎中。あっ、さっきの子…椎奈ちゃんも同じとこだよ」

 「えっそうなのか?!」


 神永の名前に、直が異常に食いついた。非常にわかりやすい奴だ。

 「あ、うん。あと、5組だと……未来ちゃんも。椎奈ちゃんと仲いい子だね」

 未来───福本未来。確かに、入学して間もない頃からほとんど一緒に行動していたし、同じ中学出身だろうなとは思っていた。


 「倉崎中、やばいな」

 直が迫真とした顔で言う。相川心はその発言の意図が掴めなかったのか、苦笑いだった。


 そんな会話をしているうちに、俺達は駅に着いていた。相川心はバス通学らしく、駅の表口にあるバス停へ向かっていった。別れ際に、「じゃあこれからもよろしく! 僕のことは心でいいから!」と残していった。

 

 そして、俺たち3人は電車に揺られる。珍しく、直が静かだった。普段見ないような真面目な顔をして、何かを考えていたのだろう。一方、憂は窓の外の、茜に染まった風景を見つめていた。彼も彼で、きっと、何かを思案していたのだろう。俺は……、揺られるつり革を眺めながら、一人、きっと他の2人とは違う、全くどうしようもない思考にふけっていた────。

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