ヒッキー姉
こんにちは弟です。
いきなりですがしりとり大会始めましょう! じゃあ俺からね!
えーと……パソコン!
はい。
なんと今日は久々の休日。俺がリビングでくつろいでいると、二階から階段を降りてくる音がしてき
ます。
見ると、実に不審な女がそこにいました。寝起きのパジャマ姿で、死にかけた魚のような目をしたソ
イツが、俺の近くまでやってきました。
「なぁ、社会の歯車の一つに過ぎない弟よ」
「何の用だ。余り物の歯車に過ぎない姉よ」
信じがたいことに、その不審な女は俺の姉です。
20歳無職引きこもりです。
格好よく言うとNEETです。
「違うな。格好よく言うと自宅警備員だ」
「心を読むな」
姉の長い髪が、寝癖で見事に芸術を造りあげています。スーパーサイヤ人かお前は。
姉は俺のイタイ視線をものともせずに、奇妙なテンションでへらへらと笑います。
「ほぉら言ってみな。僕の姉は自宅警備員ー。あひゃひゃ」
「天国の父さん……母さん……。僕の姉は自宅警備員ー。あひゃひゃ」
「うん、仏壇に線香を供えながらはナシにしようか。流石の姉ちゃんも心が痛い」
こんな奴の弟である俺のほうが心が痛いものである。
「郵便もまともに受け取れない引きこもりを、どう自宅警備員と呼べようか。なぁ我が家の不良責権君
」
「人を無意味良品みたいに言うな」
「姉は無意味良品とは似て非なる物だな。正しく言うと無意味悪品だ」
「ええいうるさい! 郵便くらいなら私もちゃんと受け取るぞ! アマゾンのだけなら」
「あれ、それお前の私物じゃね?」
弟はアマゾンなんて利用しません。欲しいものがあれば自分の足で買いにいく。
そして買いに行く中で、本来目的にはなかったお宝を店内で発見していくんだ。
これがショッピングの楽しみなのだ。
「さぁ、受け取るのは私の私物のみじゃね?」
「結局意味なくね? 働けてなくね?」
「ただの人見知りなんだからしょうがないんじゃね?」
「結局引きこもりじゃね? ニートじゃね?」
「つーかなにそれ……流行ると思ってんの? うわ、引くわ」
てめー少しノッてたじゃねーかよ。
「死んでくれ」
「弟のバカ!!」
”死んでくれ”発言の次の瞬間、姉の拳が俺の顔面に炸裂していました。
「なっ、何をする!」
「間違っても姉弟に向かって『死んでくれ』なんて口にするんじゃないの! この絞りカス!」
姉が何度もパンチを繰り出します。全て顔面を狙って。
まてまて。果たしてこの拳に姉弟愛はあるのか?
なぜ薄ら笑いを浮かべながらちょっと嬉しそうなんだ?
「いや悪い。正直すまんかった。だからもう殴るのをやめてくれ!」
姉の拳がようやく止まります。
「そうか。分かったならもういい。では早速本題に入るが」
「crazy。今までのやりとりが余興だったと言うのか」
「新しいパソコンが欲しい」
「…………」
……どの口がそんなこと言うんだ。
「うちにそんな金が無いことは分かっている。ということでお前に生命保険を加入させておいた。ほら、ちょっと死んでくれ」
「お前訴えてぇ」