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第八話 「剣豪ドミトリー (前編)」

     第八話 「剣豪ドミトリー (前編)」


 やれやれ、わしが、第三皇女アナスタシア様と、都での難を逃れるまでの二週間。大変という言葉では、言い尽くせんものがあった。


     <ドミトリーの回想>


 まず、帝都でクーデターが起きたあの日の深夜、わしの次男で護衛隊長のマルティンが血相変えて、わしのいる部屋に飛び込んで来おった。


 「父上! ニコライ陛下崩御後、イヴァン様が私兵を繰り出し、宮殿内でクーデターを決行しました。皇后様、皇太子殿下の消息は不明。兵がこちらにも迫っております。早くアナスタシア様と逃れてください!」


 そういえば、今日の午後、マルティンは、ただならぬ気配を持つ者たちが宮殿に何人かいると言っておったが、その者たちがクーデターを手引きしたのじゃな……。


 「あいわかった。護衛部隊は?」


 「総勢十名、いつでも出れます。」


 「では、すぐ殿下の下へ行くぞ!!」


 わしが、アナスタシア様の寝所に用を告げ中に入ると、殿下はすでに旅装を整えておられた。マルティンから話を聞いておられたのであろう。聡明なお方である。


 「爺(じい)、状況はどうなっている?」


 「はっ、大変わるうございますが、爺(じい)がおれば、不逞の輩なぞ恐るるに値ません。」


 「北ノヴァの白虎、剣豪ドミトリーか。頼もしいな。」


 「さっ、マルティンらと共に城を抜けましょうぞ。」


 側に仕えている侍女四人と魔法使いのクラーラが、アナスタシア様に付き従う。部屋の外には、マルティンら護衛部隊が待機している。護衛部隊を見ると、孫のルカがおる。生き残ってくれればよいが……。


 「宮殿の裏、北口から逃れましょう。」


 マルティンは、皆を促す。ここは宮殿の右端、三階の一室。変事があった場所からは、百数十メートルは離れている。わしらは、廊下を小走りで移動し、階段を降り、一階に至る。そして宮殿の裏口から出て、ひとまず危難を脱する。それから、裏庭を抜けて、北門をくぐり、スイーニイ川にかかる橋をわたれば市街地なので、そこまでいけば追手をまけるという算段で行動を開始する。


 わしらは、裏庭を駆けて、北門をくぐる。そして、スイーニイ川にかかる橋のところまできたところで、銀色の鎖帷子を装備した一団が、わしらを待ち受けている。その一団は三十人ほどで、口元は鎖帷子に覆われ、素性はわからない。しかし、奴らはすでに剣を抜いている。交渉する気などないようだ。リーダーらしき男が合図すると、わしらを半包囲し始める。


 「父上!!」


 「わかっとる。」


 わしは、相手が包囲を完了する前に、愛刀「白虎」を抜き、右側に大きく振りかぶって、魔力をのせて水平に振り抜き、衝撃波を飛ばす。これは、「宗匠⦅そうしょう⦆」と呼ばれる騎士の最上級クラスが使える大技。これで、前衛の七、八人が、成す術なく吹っ飛ぶ。


 「それではゆくぞ。はああああああっ。」


 それから、わしはアナスタシア様の護衛をマルティン達に任せて、切り込みをかける。敵の二人が、わしを止めようとするが、中級騎士程度では、わしのスピードにはついてこれん。一人目は、剣を振り下ろす前にのどをかき切り、二人目は、斬撃を軽く刃の横で受け流し、返す刀で頭を断ち割る。


 その後は、敵の真ん中で乱戦じゃ。敵は、わしの突然の攻撃に不意をつかれておるから、動きが遅い。わしは、突っ立っとった奴のみぞおちに刀を突き立て絶命させる。次に、わしの右側におった奴が剣を振りかぶる前に右手を両断する。後ろに追った奴の左足を切る。わしを突いてきた奴の切っ先を体を斜めにしてかわし、胸部を両断する。


 一瞬で、うめき声と血しぶきが、敵中に満ちる。敵の多くが、後ずさりを始める。ただ、リーダーらしき男だけが、前に出てわしに立ちはだかる。隙のない中段の構えから、体をゆらしながら、剣を手首を使って左右に回し、打ち込みのタイミングをはかっている。お互いの目が交差する。


 お互いの間合いが、一足一刀の距離まで、もう一歩というところで、相手は、わしの左側から鋭い斬撃を打ち込んでくる。わしはその斬撃を受ける。右、左と打ち込んできて、もう一回右を打ち込んできたとき相手が強く力を込めてきた。わしはそれを押し返す。相手は、その力を利用して手首をひねりわしの左手を切り落とそうとする。わしは、やばいとおもい、すぐに地面をけって、刀を振り上げ後退する。相手の剣は、宙を切り、わしの剣が相手の頭上に振り下ろされる。相手は、一刀両断され血しぶきをあげながら仰向けに倒れる。


 これを見ていた襲撃者たちは、負傷した仲間や死体を背負って、雪崩をうったように逃げ出す。



 「父上、お見事です。」


 「いや、相手はなかなかの遣い手であった。油断したらやられておった。」


 「爺(じい)、さすがじゃな。」


 「殿下を害する慮外者を排除しただけのこと。たいしたことはございません。先を急ぎましょう。」


 わしらは、帝都の南東にあるわしの領地に向かうことにした。





 帝都を出て、一週間。敵の追撃と遭遇は、何度かあったが、すべて撃退した。もう数日もすれば、わしの領地じゃ。敵の監視の目をくぐっての逃避行なので、時間がかかる。仕様がない。


 アナスタシア様始め、皆に疲れの色が見える。もう少しがんばってもらわねばならん。


 「息子よ。万が一領地にたどり着けぬ事態になったら、魔の森へゆくぞ。」


 「魔の森! 父上、正気ですか?」


 「多分、大丈夫じゃと思うんだが、なんか胸騒ぎがするんじゃ。」


 「勘ですか?」


 「そう勘じゃ……。まああそこは危険じゃが、廃城もあるし、しばらくは何とかなると思う。」


 「そうですか……。念頭に置いて置きます。」


 わしは、マルティンといざというときの相談をする。まさか、いざというときが実際に起こるとも思わず……。





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