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第六話 「兆候」

     第六話 「兆候」


 次の日の朝、俺は寒さと石畳の床の寝心地のわるさで目を覚ます。かたい床で眠ったせいか首や背中が痛い。毛布一枚は、さすがに寒すぎたようで、ちょっと鼻がぐずぐずする。


 祭壇の方を見ると、たき火の前で、侍女二人が、朝食の準備をしているようだ。スープのいい香りがする。俺は、寒さにたえかねて、たき火の方に行くことにする。たき火のまわりには、見張り以外の六人がいる。


 「おはようございます、ハルキさん。よく眠れましたか?」


 クラーラさんがあいさつをしてくる。彼女は、明るく、すがすがしい。俺は、彼女に話しかけらて、密かにうれしい気持ちになる。


「おはようございます、クラーラさん。ちょっと寒かったですけど、よく眠れました。」


 俺は、よく眠れなかったのに、よく眠れたと言ってしまう。自分より十以上も若い女の子にどきどきしている。俺が、彼女と同じ歳だったらきっと恋に落ちているだろう。そう思っていると、ルカさんが話しかけてきた。


 「ハルさん、おはようございます。今日も寒いですね。」


 俺も「おはようございます。今日は寒いね。」と返す。彼もさわやかな奴だ。クラーラさんやルカさんを見ていると、俺はしみじみとおっさんだなあと感じる。彼女らの若さがうらやましい。


 「やれやれ、やっと起きたか若造め。なっとらんわい。」


 しかし、ドミトリーさんにとって、俺はまだまだ子供のようだ。なんかちょっと複雑な気分だなあ。一通りあいさつが終わった後、朝食となる。パンとクリームスープ、身体が温まる。朝食後、俺は、緊張しながら皆に向かって話を切り出す。


 「すいません。ちょっと書店の方に行って来てよいですか?」


 正直、俺がここでやれることはあまりない。ここは寒いから、書店の自分のロッカーにある上着とコートを取りに行きたいし、書店の様子も見に行きたい。すると、アナスタシア皇女は、


 「いいぞ。とりあえず、今日は好きにしろ。お前には、後から何か手伝ってもらうことがあるかもしれない。爺(じい)よ、それでよいな。」


 「仰せのままに、アナスタシア様。」


 ドミトリーさんは、神妙に答える。今日は、クラーラさんやルカさんは、いろいろすることがあるらしいので俺一人で書店に向かう。




 俺と書店が召喚された場所は、教会から北に三百メートルほどのところにある。今日は晴れているので、周りの様子がよくわかる。宮殿、教会を中心にして、東西南北に大きな道がある。道のわきにはお店や民家の名残があった。往時は、栄えていたんだろうなあと感慨にふけりつつ目的地に向かう。


 しばらくすると、書店は、大通りからわずかにはずれた場所にあった。外観的には特に損傷は見られない。


 まあ、ともかく中に入ろう。俺は書店の中に入る。


 店内の様子は、改めて見てもひどいものだった。棚にある本は大体落ちて床にあるし、本のカバーや帯がはずれたり、破れたり、ちぎれたりしているものが多く見受けられた。


 やれやれ、これは大変だぞ。俺は、片付けにかかる。先ずは、週刊誌から整理しよう。今さら、片付ける必然性はないんだろうが、これが書店員の性⦅さが⦆。仕様がない。二十分ほどかけて週刊誌の棚はキレイに陳列できた。


 次は、コミックの月刊誌のコーナーだ。青年向けと女性向けのものを整理する。新刊や売れ筋を平台に積んで、積みきれなかったものを棚に面陳、その他の古い雑誌や売れないものは棚に一冊か二冊差しておく。


 これだけ済ませると、俺は、少し疲れたので椅子に座って休憩する。それにしても、この世界の空気は、わずかに濃く感じる。息苦しい。


 やれやれ、体が熱いな。風邪を引いたのかもしれない。一旦、教会に戻ろう。俺は、そう決心して、上着とコートを羽織って重い足取りで外に出た。


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