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魔王の勇者チズム  作者: エドラ
6/6

第四善 魔族だって寝る

前回のあらすじ

 目的の農村に辿り着いたフィロとレイス。村長に挨拶と宿泊させてもらう為、彼の家を訪ねる。挨拶もそこそこに寝泊りさせてもらえる事になり―

 日もすっかり沈み切り、村を静寂な闇が包み込んだ。その頃、村長の家からは賑やかな話し声が漏れていた。村長は用意してきた食材を使って、二人に鍋を振るっていた。猟師から分けてもらった鴨の肉、農家から譲ってもらった野菜の数々が鍋の中で所狭しと煮えている。

「さてさて、そろそろ食べ頃じゃろうて。遠慮はいらんよ、たっぷり食べてくれ」

「なら、存分に頂くとするぞ」

 村長の勧めを受けて、遠慮の欠片もないままフィロは鍋で煮えてる食材を自分の皿へと次々によそっていく。尤も、鍋での食事作法を教えるのには苦労したのだが。

 何はともあれ彼が問題なく食事するのを見て、レイスも遠慮がちではあったが安心して箸を進ませる。

「どうじゃ、美味しいかのぅ?」

「ふむ、おれ様は生肉の歯応えの方が好みではあったが、煮込むというのも中々美味いものだな」

「うん、美味しい。わざわざありがとう、村長」

 食事の味を尋ねられて、二人は各々の感想を溢す。満足気な二人の様子を見て、村長もやがて鍋へと箸を進めていく。


「ふぅー、お腹いっぱい」

「さて、食事も終えた事だ。おれ様はもう寝るぞ」

 鍋での団欒の一時を過ごし、風呂に入りさっぱりした様子でレイスがほっと一息ついていると、フィロは立ち上がり、部屋の隅で壁に背中を預ける形で座り込んで村長が用意してくれた毛布で身を包み目を閉じた。

「あんな体勢で寝れるのかしら?」

「なに、あの子はしっかりしてそうだから大丈夫じゃて」

 村長は珈琲を淹れて戻ってきた。出された珈琲を少し口に含むと、身体の芯に珈琲の暖かさが染み渡るのを感じる。

「さて、レイスちゃん。事情を訊かせてもらってもよいかの」

 淹れてもらった珈琲を味わっていると、村長が神妙な面持ちで話しかけてきた。恐らく、ずっと話のきっかけを待っていたのだろう。その目は笑いかけていた時とは違う、真剣な眼差しであった。

 少女は一度、フィロの様子を確認した。微かだが、寝息のような音が聞こえていた。

 瞬時に寝る事に軽く驚きつつも、少女はぽつりぽつりと話し始める。 

「うん‥実はお母さんが亡くなって‥」

「なんと‥」

 少女の口から告げれられた内容に村長は驚いてしまい、咄嗟に二の句が継げなかった。レイスの方も言い辛そうに俯いたままだ。

「それで‥お母さんが亡くなる前に、自分が死んだらこの手紙に書かれた人を尋ねなさいと‥」

「ふむぅ‥」

 彼女はそう言うと手紙を取り出し封を切ると、便箋を取り出し机へ差し出した。村長は少しの間険しい面持ちで紙を見ていた。村長は少女に確認を取るかのように彼女の顔を一瞥すると、彼女はこくりとだけ頷き返す。

 便箋を手に取り、村長は中身を無言で読み上げる―

“城下町フィロスで宿屋を営んでいる、セレンという人を頼りなさい”

 真っ白な飾り気などない便箋には、綺麗な文字で綴られた一文のみだった。

「それでフィロスへ行く為、旅支度する故にホルンへ立ち寄ったという訳じゃな‥」

 たった一行しか書かれていなかったが、エンジは何かしらを汲み取ったのか。少なくとも、彼女がこのホルンへと立ち寄った理由は理解したようだった。

「うん、ここで食糧とか少し分けてもらおうと思って‥」

「ほっほっ、あい分かった。レイスちゃんの母さんには何かと世話になった事もあるのでの」

 連絡もなしに突然来訪して来て勝手な頼み事をお願いしても一切嫌な顔をすることもなく、人に好かれる笑顔を絶やさないままいろいろと世話してくれる村長には恐縮するばかりだ。

「昔、あんたの母さんには近場で手を付けられない魔物が出た時など世話になったもんじゃ‥」

「え、そんな事があったの?」

 村長の好意に頭が上がらない思いをしている時に、村長はぽつりとそんな事を呟いた。ふと、村長が母親について漏らした呟きを聞き返すと、村長は首を振りつつ返す。

「あ、いやいや。人手が足りなかったもんでの、少し手伝ってもらっただけじゃ」

「そう‥なら、いいけど‥それじゃ、もう寝るね。村長、いろいろありがとね」

「気にせんでいいぞ。それじゃあの」

 微妙に誤魔化されたような気がしたが、レイスは気にしない事にした。村長に挨拶をして、二階の客室への階段を上っていった。

 村長は彼女の姿を見送ると、残っていた珈琲を飲み干し一息を吐く。すると、

「さて、君も狸寝入りもそこそこにもう寝たらどうかね?」

 村長は目線を机に落としたまま、そんな事を呟く。

「ふんっ‥狸に狸呼ばわりとはな‥」

 村長の呟きに応えたのは、先に寝ると言ってた筈のフィロからだった。体勢は変わらずのまま、閉じてていた目を見開き、村長を見据える。

「ほっほっ、ワシを狸呼ばわりか。面白い事を言うのぅ」

「あやつは勘違いしているようだったが、貴様は始めからおれ様の正体に気付いていただろう。先程の食事の時でも、おれ様が生肉を食している事になんら疑問も持たなかったのだからな」

「まぁ、会った時に君が人間でない事はわかっておったよ‥」

 剣呑な空気を漂わせる彼の発言に対し、村長は驚きもしない様子で会話を続けた。

「おれ様の頭に生えた角でも見えたのか?髪で見えないと思っていたが」

「いやいや、君から感じる魔力で気付いたのじゃよ。人間と魔族では魔力の質が異なるものでな」

 村長と初めて会ったあの時から気付かれていた事にフィロは納得がいかず、彼に理由をそれとなく尋ねたが村長から返された答えに戸惑った。

「魔力だと‥?貴様、魔導士なのか‥?」

「昔、ちぃーとかじった程度じゃよ。偉大な魔導士様にな」

 村長はフィロへと振り返り、いたずらをした子供のような笑いを浮かべた。

「君は勇者を目指すと言っておったが、今の世の中は平和なもんじゃぞ?魔王が突如、姿を消してから早50年‥規模の小さい争いこそ起きたりはするが、勇者が必要ないと思えるこのご時世に何故、勇者を目指すのかね?」

 村長はフィロを見定めようとしているようだった。これまでのおどけた様子は消えており、真剣な眼差しでフィロを見つめていた。

 フィロは彼の眼差しを正面から見返し、淡々と答えた。

「貴様は知らぬだろうが、その姿を消した魔王が死んだ。これにより、魔界では新たな覇権争いが繰り広げられている。直に人間界にもその影響が表れよう」

「なんと‥」

 フィロの口から発せられる言葉に村長は言葉を失った。彼は村長の驚く様子に構うことなく続けた。

「おれ様はその覇権争いにより、魔界から追い出された魔王の第7子フィロスィア。おれ様を魔界から追放した兄上、姉上達へと仕返しせんが為に勇者を目指すと決めたのだ」

「‥なるほどの。しかし、いくつか聞きたい事がある」

 彼の話を聞き、得心したという顔をしていた村長だったが少し気になるといった空気で彼に尋ねた。

「君は魔王の息子にしては魔力が弱い気がする事、仕返しをするならば勇者でなくとも魔王を目指してもよいのではないかという事についてじゃ」

「‥二つ目の問いになら答えよう。おれ様は魔王の座には興味ない。また、兄上や姉上達を殺すつもりなどもない。おれ様が許せんのは、魔界でくつろいでいただけのおれ様を勝手に跡継ぎ争いに巻き込み、その上こんな辺境へと放り出した事のみ」

 過去の記憶が思い返されたのか、彼は次第に語気を激しくし、怒りを露わにする。

「より屈辱的な仕返しとして、おれ様が勇者となって兄上達を打ち倒すのが効果的だと考えたからだ。人間達を救ってやろうなど、欠片も思わんわ」

「君には、君なりの理由があるという訳じゃな。しかし、一つ目の理由は聞かせてくれんのかのぅ?」

「気付いていながら、確信の為に聞き出そうとする狸には教えん。貴様も身体を労り、早く寝るがいい。おれはもう寝るぞ」

 彼はそう言うなり、今度は壁と向かい合うように横になった。もうこれ以上話す気はないと意志を表すように。彼のその仕草に村長はそっと笑みを溢すと、自身も寝る為に寝室へと戻って行った。



投稿が二日も遅れてしまい、すみませんでした!休みで遊びたかったもので‥羽を伸ばしたかったんです‥なるべく、遅れないようこれからも頑張ります。

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