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魔王の勇者チズム  作者: エドラ
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第一善 勇者の道も一善から~後編


「おい、貴様。いつまでそうしている」


 声が響き、恐る恐る目を開くと黒で染められた衣服を纏った少年が側に立っていた。少女が辺りを見回すと、少し離れた場所で先程のブルーハウンドがぐったりと横たわっている。

 何が起こったのか、状況が全く掴めない少女は少年を仰ぐように見上げ、未だ震えの収まらない口を動かし、問いかけた。

「え‥っと‥何が、どうなって‥?」

「ふ、貴様を襲っていた犬なら、おれ様が蹴飛ばしてやったわ。一撃で気絶とは他愛ない犬だったな」

 無愛想な表情だった少年はふっ、と余裕か自信から来るような笑みで語る。とにかく、お礼を言おうと少女が立ち上がると―

「‥あの‥ちっさいね‥」

 少年は少女の身長の半分くらいだろうか。感謝の言葉を出そうとしたつもりが、見たままの感想が口から洩れてしまった。

(やっば‥!お礼を言おうとしたのに、思わず言っちゃった‥何か言わなきゃ、何か言わなきゃ‥!)

 初対面でしかも、助けてくれた恩人にいきなり失礼な言葉を浴びせてしまい、先の発言のフォローすべくなにかいい言葉はないかとしどろもどろしていると、少年はおもむろに手を伸ばしてきた。

「命の恩人に対して、礼の一つもないのか?ふん、まぁいい。それより、何か食い物はないか?ここ数日、満足に腹を満たしていないのだ。貴様、何か寄越せ」

 対する少年は少女の言葉など気にした様子もなく、さぁと言わんばかりに手を伸ばしてくる。

「あ、ごめん。さっきはありがとね‥あと、今これしかないけどいい?」

 少年に指摘されて、少女は慌てて礼を述べつつ、携帯していた食糧である芋や干し肉を手渡した。少年は手渡された食糧をしげしげと眺めた。

「人間の食糧はやはり、少し変わっているな。肉は生で食す事こそ、醍醐味というのに‥」

「生で食べたら、お腹壊すわ!え、というか、君って‥人間じゃないの?」

 大口を開けて貰った食糧を一気に口に詰め込み、むしゃむしゃと食べる少年の呟きに思わず反論した所で、少女がふと生まれた疑問を口にすると少年は呆れた表情を浮かべ、

「‥貴様、今頃気づいたのか」

 口に含んだ物をごくりと飲み込むと、少年は得意げに語った。

「おれ様は、魔王の第7子、フィロスィア・ヘ‥そう、フィロスィアだ。人間界の物言いで言うなれば、魔界の王子と言った所だな」

「え‥魔王の‥息‥子?」

 少年の話す内容についていけず、少女は唖然となった。

(さっき、魔物に襲われて、助けてくれたのが魔王の息子で‥)

 状況がうまく飲み込めない。自分を襲ったのは魔界の生き物である魔物、自分の命を救ってくれたのは魔界の王である魔王の息子。そして、今は魔王の息子が自分の前にいる。

 ここまで理解した途端、少女ははっとして咄嗟に後ろへ飛び退る。

「えええええええ!魔王の息子が何でこんな所にぃぃぃぃ!?」

「ふん。父上が亡くなり、魔界では魔王の後継争いが始まってな。それに巻き込まれ、人間界に飛ばされただけの事だ。別に貴様を捕って食おうなど考えておらんぞ」

 魔王の息子と知り、慌てて距離を取る少女を半ば面白がるように少年は語りかける。

「飛ばされたのも昨日の事だ。こっちに来てから出会った人間も貴様が初めてだ。おれ様の名は教えたぞ、貴様の名は何と言う?」

「わ、わわ、私はレイス、レイス・アーノルド‥ほほ、本当に食べたりしないわけ‥?」

 食すなら食糧などの前に喰っておるわ‥と少年は口には出さず、理解の遅い少女を呆れた様子で眺める。少女の方も、取りあえず食べられないだろうとじりじりと戻って来た。

「そういえば、貴様。何処へと往こうとしていたのではないか?」

「ま、まぁね。目的地に行く前にすぐ側の村へ向かっていたけど‥」

 それを聞くと、少年―魔王の息子、フィロスィアは目を閉じて数十秒の間考え込むと、得心行った様子を浮かべると、

「よし、暫くおれ様には往く当てもない。貴様を部下として、その目的地へと連れて行こうぞ!」

「何でええええええええええ!?」

 草原の遥か頭上の青空に、レイスの叫びが響き渡った―



 

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