第八話 無の境地
戦いの始まりを告げる鐘が鳴った瞬間ミレウスはアークに向けて光の矢を放つ。
光の中級魔法、ライトニングアロー。
アークは難なく避け、ミレウスに接近する。
ミレウスはシャインソードを手に持ち、アークに振るう。
だが、それも避けられる。
アークはその魔法が初級のものであると知っていた。
初級の魔法を使うということはなめているとしか言えない。
そこでアークは一つの策に転じた。
アークはそのままミレウスに突っ込んでいく。
彼はそれを見て余裕で剣を振り下ろす。
そして。
「アンチマジック。」
アークはそう呟き、剣を消した。
「なっ…!!」
驚愕で顔をしかめるミレウス。
その顔にアークの拳が入る。
吹き飛ぶミレウスだが、すぐに体勢を立て直す。
「貴様…。今何を。」
「言ってませんでした?この会場にいるのは火龍、水龍、土龍、光龍だけではないと。」
「なんだと?」
アークは右腕に巻いてある包帯を解いていく。
そしてそこに描かれているものを見てミレウスは目を見開く。
「アーク、いやアレン・ドライグ、この俺は無属性だと。」
アレンがそういうと会場がざわめく。
それもそのはず。
世界に一人しかいないのだから。
ミレウスはアレンを見て笑いだす。
「そうか…。貴様が無属性とは。面白いぞ!!」
そういうとミレウスの魔法力が一気に上昇し、龍の鎧を身にまとう。
その姿は神々しいまでの輝きをもつ金色の龍だった。
頭には二本角が伸びており、翼と尻尾もある。
兜はフルフェイスではないらしく顔は見えている。
ミレウスは両手に上級魔法のライジングブレイドとホーリーランスを持ち、アレンへ向かう。
アレンは魔法力を上げ、龍の鎧を身にまとうとアスカロンでブレイドを受け止める。
だがランスの攻撃が残っている。
そのランスが体を貫こうとした瞬間何かに阻まれた。
それは禍々しいまでの気を充満させている暗黒の剣だった。
無属性上級魔法、バルムンク。
無属性の特徴としてそれぞれの属性の能力を持つ剣を持っている。
「くっ…。」
ミレウスは唇を噛みしめると少し距離を置いた。
しかし今の攻防で少し変なところがあったのか、カリンがザキロスに聞いていた。
「あの、お兄様。」
「なんだい?」
「なぜアークはアンチマジックを使わなかったのですか?」
「それはミレウスが反魔法禁止をランスと共に唱えていたからだよ。」
「そうなんですか。」
光属性はアンチマジックに対抗する術を持っている。
そのため、アークはアンチマジックを封じられている。
つまり、何か手を打たなければアークは不利なのだ。
一方のミレウスは余裕の顔で笑っていた。
だが、この笑みが消えるのも時間の問題だった。
その理由は今アレンが右手に握っているアスカロンだ。
そのことを知っているアレンはミレウスが気づくまでに一回は切りつけておきたい。
アレンは一気にミレウスの元へ行き、アスカロンを振り上げる。
ミレウスはそれを見て、少し避けただけだった。
アレンはそこから軌道を少し修正し、ミレウスの肩に切りつけた。
その瞬間ミレウスの悲鳴が闘技場に鳴り響く。
「がぁぁぁぁ!!」
アレンは後ろに剣を引きながら行くとミレウスが睨みつけてきた。
その肩から血が流れていた。
「貴様、今何をした。」
「知らないんですか?この剣はアスカロンです。」
「何っ!?」
ミレウスは今気づいたのか、それとも油断していたのか、今更になって警戒を始める。
そしてアレンはアスカロンに気を取られているミレウスに向けてアンチマジックを唱え、ブレイドとランスを消した。
するとミレウスはアンチマジックキャンセラーを忘れていたのか、あっさりと消され、怒り狂う。
そして再び魔法力が上がっていく。
アレンはそれを見て呟く。
「まずいな…。」
何がまずいのか。
それはミレウスがこれから放つ魔法だ。
今ミレウスが唱えている魔法は龍魔法と呼ばれ、その破壊力はとてつもない。
街一つどころか国をすべて焼き払うことができるほどだ。
アレンはアンチマジックを唱えようとしたのだが、これほどまでの魔力を封じこむのは無理と判断した。
だが、それでも何とかして抑えなければならない。
ここにいる人のために。
そのためにはアレンも龍魔法を使わなければならない。
「覚悟しろ!!ビックバンスパーク!!」
全方向へ光の粒子がとてつもない破壊力を持って弾ける。
このままではここにいる全ての人が死んでしまう。
アレンはミレウスが叫んだ瞬間、それにかぶさるようにして叫ぶ。
「ヴァニシングドライヴ!!」
そう叫んだ瞬間、この闘技場に何かが広がった。
それは全ての魔法を消滅させるものだった。
その結果、闘技場に来た人すべてパーティー会場へ戻り、ミレウスの龍魔法も消滅した。
会場に戻ったミレウスは大きく目を見開き、驚愕の顔をしていたがすぐにアレンへと向き直り、向かっていく。
が、喉元に剣を突き付けられ、動きを封じられた。
「あなたの負けです。」
「俺はまだ戦える!!」
「龍の鎧を纏っていないのに?」
ミレウスは言われていることが分からなかった。
だが、自分の手を見ると生身の手があった。
そう、アレンの龍魔法は龍の鎧も解除してしまう能力を持つ。
もちろん自分のもの以外。
「ふざけるなぁ!!」
「ふざけているのはあなたです。それともここで死にたいんですか?」
ミレウスはそう言われると腕をだらりと下げ、項垂れる。
アレンは喉元から剣をどかすとミレウスが膝をつき、深い敗北感を味わった。
ミレウスはアレンに問いかける。
「お前は何者だ?」
「僕はスヴァローグ王国の居候のアークです。」
ミレウスは立ち上がると負けたよ、そう言って立ち去ろうとした。
だが、アークは彼の手を握りこう言った。
「ここにいる皆さんに謝ってください。今までのこと。それに闘技場で使った龍魔法のことを。」
「……。」
ミレウスは立ち止まり、しばし何も言わなかったが決心したように会場にいる彼らに目を向ける。
「皆様、大変申し訳ございませんでした。皆様の意見を聞かず、独裁政治をし、恐怖の支配をしてきたことをお詫び申し上げます。それに先程の魔法ですが、皆様を危険な目にあわせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。」
彼が頭を下げると会場の皆は暖かく拍手をしていた。
その拍手にはこれからもがんばれの意味や、もうしないでほしいといった願望も入っていた。
ミレウスはアークに目を向けると手を差し伸べてきた。
「これからはきちんとやって行くよ。」
「頑張ってください。」
両者は手を握り合い、微笑みあう。
それを見た皆は再び拍手をする。
その時、こっそりとミレウスはアークに耳打ちをした。
近いうちにスヴァローグ王国へ行きます、と。
こうして波乱のパーティーは終わりを迎えた。
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その後、ミレウスはスヴァローグ王国へやって来て、同盟を結んだ。
それはエーギル王国と同じものだった。
最初カルロスは驚いていたが、アークから事情を聴き、納得しながら同盟を組んだ。
さて、これは余談だが、キリカも含めた四人はスヴァローグ王国へ戻るとアークはカリンとキリカに泣きつかれながら怒られた。
その時に彼女たちがアークに手を出したことは言うまでもない。
その日の夕方にアークの悲鳴が聞こえた。
次の日まで治療魔法を使ったが、治らなかったほどだ。
アークはやはりあの森での平穏な暮らしが恋しくなった。
アークは自分が悪いとは思わずに。
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真っ暗な部屋の中で一人の男が何かを聞いていた。
「へぇ~。面白いね。」
その男はにやりと笑うとそのままどこかに消えてしまった。
この男こそ、闇の龍の力を持つものだった。




