第六話 罪の意識
レイネスを医務室へ運び込んだアークはカルロスの元へ向かった。
そう、カルロスにあの龍がレイネスだったことを知らせに行くために。
「国王!!」
「なんだ?」
「あの龍の正体は、今日来た商人のレイネス・エンリルでした。」
「なんだと!?」
カルロスの驚きもアークにはわかる。
あの時には思いもよらなかった。
まさかレイネスが風の龍だったなんて。
「今はどうしている?」
「医務室で意識を失ったままです。」
「では、目が覚めたらなぜこんなことをしたのか問いただそう。」
カルロスはそう言って自室に戻って行った。
アークはその後ろ姿を見て、いろいろ考えていた。
なぜ彼はここを襲撃したのか。
もしかしたらあの武器が偽物とばれて逆切れで襲ってきたのだろうか。
頭を悩ませていると背後からアークを呼ぶ声がした。
「ちょっといいかしら?」
「もちろん。」
声の持ち主はカリンだった。
彼女がアークに声をかけるなんて最近では全くと言っていいほどなかった。
そうなった理由は分からないがキリカが来て、去った時からずっとだ。
ずっと不思議だったのだが、今日ようやく話してくれてよかったと思う。
「何を考えているの?」
「なんにも。」
カリンはアークと二人きりの時だけ話口調を変えてくれる。
アークからお願いしたことだ。
あまり堅苦しいのは好きじゃないからだ。
「嘘。考えてたでしょ。眉間にすごい皺が寄ってる。」
「…本当だよ。なんにも考えてない。」
「そう…。」
アークがそういうとカリンが少し寂しそうな顔をする。
しばし二人は無言でいたが、アークが口を開いた。
「最近は色々なことが起きるな。」
「え?」
「俺がここに来てからずっとこの国が騒がしい気がする。」
「そんなことないよ?」
カリンはそう言ってはくれたが、アークは自分が来たせいでこうなったのではないのだろうか、そう思っている。
「帰った方がいいのかな…。」
何気なしにアークが言った言葉を聞いたカリンは立ち上がりながら少し声を荒げてこう言った。
「私はあなたがここにいて楽しいし、お父様も毎日が充実していると言ってた。それにお兄様もあなたのことを尊敬してます。みんなあなたのことが好きなの!!だから、ここにいて。この国が騒がしいのはあなたのせいじゃない。だから帰るとか言わないで。」
その言葉を聞いたアークはどこか懐かしいような、恥ずかしいような感情になった。
だが、それ以上に嬉しさが心の中を埋めていた。
こんな温かい気持ちになったのは何年振りだろうか、そんな事を考えながらカリンを見つめる。
「ありがとう。」
アークはカリンに微笑みながらお礼を言った。
顔を見つめられ、さらにはお礼を言われたことが恥ずかしくてカリンは顔を真っ赤に染めながら背けた。
その後、アークとカリンはしばらく一緒にいたが、レイネスの眼が覚めたことを報告されるとカリンに再びお礼を言って急いで医務室へ向かった。
医務室へ入るとそこにはベッドに横たわるレイネスの姿があった。
その横には医師とカルロスの姿もあった。
アークを待っていたのか、カルロスは彼に手招きをして自分の横に座らせた。
座ったことを確認するとレイネスに質問を始めた。
「なぜ、この城を襲った?」
そう問い質すカルロスの眼には痛いぐらいの殺気が混ざっていた。
レイネスはその目を見て観念したのか、ことの事情を話し始めた。
「ある人に言われたんです…。」
「ある人?」
「はい。あの国王がお前に不利なようにあることないこと話し、信頼をなくそうとしている、と。」
「それで襲ったと?」
「はい。それに途中からよく、覚えていないんです。」
頭が痛むのか、頭を押さえながらそう言った。
アークはレイネスが嘘を言っているとは思えなかった。
なぜならレイネスの眼は真剣そのものだったからだ。
「そうか…。」
「本当にすいませんでした。どんな罰も受けます。」
カルロスはアークに目線をやると困ったような顔をした。
どうしたらいいのか分からないといった感じだ。
それにアークの意見も聞きたいらしい。
「ひとついいですか?」
「はい。」
「その者について詳しく教えてほしいのですが。」
「それが…ある人に会ったのは覚えているんです。ただ…。」
「ただ?」
「どんな人だったのか、覚えてないんです。ですが、一つだけ覚えています。」
「なんですか?」
「恐怖です…。」
「恐怖?」
「はい。あの悪意に満ちた眼差しと全てを屈服させようとする恐怖のオーラは忘れようがありません。」
レイネスは体を震わせ、顔は真っ青になりながらそう語った。
アークはその者が何者であるのか分からなかったが、レイネスの様子を見ると嘘ではない。
それを踏まえて、カルロスにこう言った。
「レイネス・エンリルは何者かに操られ、記憶を改ざんされとものと判断します。なので処分はこの城の中で保護、としてはどうでしょうか。」
「なるほど…。理にかなっている。」
アークとレイネスの会話を見ていたカルロスは何者かが操ったものと判断していた。
だが、レイネスが嘘をついていることはゼロではない。
そのため、保護ということは決めにくかった。
しかし、カルロスは別の処分を考えていた。
「ではこうしよう。レイネス、君の処分を言い渡す。城の外壁を壊したため、三日間牢に入れその後、我がスヴァローグ王国の監視下に入り、城内の見回りや、監視を行ってもらう。以上。」
レイネスは思ったより罪が軽く、驚いていた。
カルロスはそんな姿を見てレイネスに微笑みかけた。
すると彼の眼に涙が溢れ、頭を下げ何度も何度も感謝の言葉を言っていた。
カルロスは最後にお大事にと言って去って行った。
そして三日後、牢から出たレイネスは警備班の一員となり、城内を監視していた。
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アークは何やら不審な人物がいると聞き、とある森に入っていた。
この日、ザキロスが聞いた話によると今アークが入っている森に、魔物より恐ろしい人物に会ったとハンターから依頼を受けたらしい。
それを聞き、アークはレイネスが会ったと思われる人物として自分から調査するといった。
だいぶ奥へ進んだのだが、それらしい人物がいなかった。
だが、誰かいたような形跡はあった。
枝が不自然に折れていたり、蔓や葉っぱなどでつくられていたテントもあった。
そして何より、一番不自然だったのは魔物が一匹もいないことだ。
これだけ森の奥へ進んでいけば少なくとも一匹ぐらいには出会う。
しかしこの周辺、いやこの森に魔物のいる気配が全くしない。
アークはもっと奥へ行こうとしたが、その場で立ち止った。
足元に龍のものと思われる足跡があったからだ。
その足跡はここにしかなく、恐らく、謎の人物は龍の鎧をまとえるものとなる。
それか、龍がたまたま降り立っただけなのか。
ただその可能性は低かった。
もしそうだとした場合、ここがその龍の縄張りとなる。
だがそんなことはないだろう。
なぜなら今まで来た道には龍のものと思われるものは一つもなかったのだから。
アークはそう考えながらもなかなかまとまらなかった。
この時、新たな災厄が襲ってくることを誰が想像できるのだろうか。
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城に戻ったアークは自室に入っていく。
すると部屋の片隅にある机の上に何か紙が置いてあった。
アークはそれを手に取り、読んでみた。
それは招待状だった。
ヘイムダル王国の新国王即位にちなんでパーティーのものだった。
アークは興味がなかったが、夕食のときにカルロスにこう言われた。
「ザキロスと、カリンと共に行ってくれないか?」
「なぜ僕が?」
「私は別の用事で行かなくてはならんのでな。代わりにと。」
「わかりました。」
その時のカルロスの顔はしてやったりという顔だった。
アークは彼が単に行きたくなかっただけ、そう思った。
言ってやろうか、そう思ったがお世話になっているため、言うのをやめておいた。
こうして三人はヘイムダル王国へ行くこととなるのである。
それぞれ今夜は準備で忙しくなりそうだった。
そうして次の日、三人は馬車に乗ってヘイムダル王国へ出発をした。
これから何が起こるのか三人は知らずに。




