第十九話 不死に抗う者
傷つけても、殺したと思っても復活してくるフェニックス。
それは、ザキロスのマグマブレイドで証明されたことだ。
いきなり詰んだ状態になった。
だが、諦める訳にはいかない。
信じてくれている仲間のため、守りたい物のため、そしてこの世界のため、諦めたり、負けたりすることは許されない。
だからこそ、立ち向かうことができる。
アークはそう考えていた。
その一方でザキロスは、ただこれが自分の使命なのだと思いながら戦っている。
その通りなのだろう。
ただ、その使命の中に、国民を守ることや、世界を守るためも含まれている。
つまり、結局のところは同じなのだ。
だからこそ、連携が取れたり、信頼関係を築けるのだ。
「その程度か?七聖龍よ。」
挑発行為に出るフェニックス。
アークはそれを見て、素手で倒すことは不可能だと思い知る。
そのため、無属性最上級魔法、クラウソラスと、デュランダルを出す。
二つとも剣であるが、司る属性が違う。
クラウソラスは水。
デュランダルは光だ。
アークは両手に剣を持ち、フェニックスと対峙する。
少し離れた所に、ザキロスがいつでも魔法を放てる格好をして待っている。
一気に間合いを詰める。
デュランダルをフェニックスに振り下ろす。
フェニックスはその一撃を避ける。
だが、横から胴を薙ぎにきたクラウソラスは直撃し、フェニックスを切り裂いた。
「その程度か…。」
そう呟くと何事もなかったかのように再生しようとする。
そこに。
「くらえっ!!」
ザキロスがフレイムトルネードを繰り出す。
だが、火属性のフェニックスにとっては効かないらしい。
それどころか、その炎を自分の体内に取り込み、自らの力に変えている。
アークはそれを見て、ザキロスに指示を出す。
「ザキロスさん!!打撃系以外の魔法は、極力使わないようにしてください。」
「わかりました。」
ザキロスは頷くと、マグマブレイドをその手に掴む。
一振りして気合いを入れ直すと、アークに目線を合わせた。
お互いに頷き合い、連携攻撃をする。
フェニックスはそれを避けると、頭上にとてつもなく大きい炎の塊を出した。
そしてそれをこちらに撃とうとしたが、いきなり消えた。
アークがアンチマジックをやったからだ。
「あれは…。」
アークは何か引っかかりを覚えた。
先程の火球、これを出すために魔法陣どころか、何も詠唱していないところから出てきたのだ。
アークの頭の中で、さまざまな推測が立てられる。
もしかしたら。
「ザキロスさん、ちょっといいですか?」
「なんですか?」
アークはザキロスに耳打ちをする。
それを聞いた瞬間、ザキロスは驚いた顔をした。
だが、自分のやるべきことを見つけたのか、その顔には躊躇いはなかった。
「作戦会議か?せいぜい無駄な足掻きをするんだな。」
フェニックスの軽口も無視して、自分たちのやるべきことをやるといった顔でフェニックスに向かっていく。
フェニックスはしばらく様子を見ていたが、反撃に出る。
いくつもの小さい火球を出し、それをアークたちに目掛けて放つ。
だが、それらは全て、アークのアンチマジックにより、消されてしまう。
アークがフェニックスの近くまで来た瞬間、アークがフェニックスの頭上を越えていく。
フェニックスは不意を突かれたのか、動けずにいた。
それを見て、ザキロスはマグマブレイドをフェニックスに叩きつける。
頭から真っ二つに切り捨てる。
だが、やはり、再生していく。
その時だった。
「アンチマジック!!」
「!?」
二つに切り捨てられた顔に、驚きの顔色が混じる。
それと同時に再生しなくなった。
「やっぱり。」
そう。
アークは大きい火球の時に、推測だが、再生するのは不死身だからではなく、魔法を使っているからだ、そう思っていた。
不死は死なない。
だが、再生するのとは違う。
そこに、アークは違和感を思った。
もしかしたら、と。
その推測は正しかった。
魔法を使っているのならば、アンチマジックで無効化してしまえばいい。
そう考えたのだ。
だが、この程度で不死のフェニックスは倒せない。
「よくわかったな。」
「おかしいな、とは思っていたからな。」
「だが、これからどうするつもりだ?」
「決まったこと。あんたが死ぬまで切り刻んでやるさ。」
アークは両手に剣を持ち、フェニックスに近づいていく。
だが、フェニックスは一定以上からアークを近付けさせない。
アークはそれに対して深追いはしなかった。
だが、それが命取りだった。
フェニックスはそのまま、上空へ上がっていく。
太陽を背にしているため、よく見えない。
しばらくすると何やら、上空から音が聞こえる。
よく見てみると、炎を纏い、物凄いスピードで落ちてきている。
それはアークを狙ったものだ。
アンチマジックをするが、消えない。
「…まさか!!」
アークの頭に考えられもしない、憶測が浮かんだ。
たぶんフェニックスは大気圏を超え、そのまま、炎を纏いながら落ちてきているのだろう。
炎が魔法でないなら、そうとしか思えない。
「さすがに勘はいいようだな。だが、どうする!?」
今避ければ、アークは助かる。
だが、城や、その周りの人は無事ではないだろう。
アークは腹を括った。
自分を信じて、フェニックスを止める。
心に決め、構えをとる。
フェニックスはそれを見て、口の端を釣り上げる。
「覚悟はできたか!!」
「俺は、勝つ!!勝ってみんなと共に邪龍を打ち砕く!!」
アークは仲間のために戦っている。
見ているだけでそれはわかる。
ザキロスはそれが疑問に思うところだ。
馬車の中で聞いた。
なぜ、そんなにみんなのために一生懸命なのか、と。
そうしたらこんな答えが返ってきた。
自分がこんな力を持っているから、少しでも自分にできることをする。
それだけだ。
ザキロスはそれを聞いてすごいと思った。
以前、家族を殺され、追い回されたのにもかかわらず、他人のために力を使うことが。
だから、今、目の前でフェニックスの激突を受け止めようとした時、やはり、と思った。
それと同時に、また自分には何もできないのか、そう思った。
だが、それでいいわけがない。
そう自分の心を叱咤する。
自分にも何かできるのではないか。
なぜなら、自分だって彼と同じで七聖龍なのだから。
ザキロスはフェニックスに向かって体当りをする。
その時、フェニックスの動きがゆっくりに見えた気がした。
そして。
「俺もいることを忘れるなぁぁぁ!!」
フェニックスの横腹に体当りをする。
不意を突かれたフェニックスは驚愕の顔をしながら、姿勢を整える。
地面すれすれで止まったフェニックスは、ザキロスを忌々しいものでも見るかのように、睨みつけていた。
ザキロスは、その鋭い眼光を真正面から受け止めながら、こう言った。
「今ここにいるのは、二人だ!!勝手に一人にするな!!」
「思いあがるなよ…。」
呻きのような低い呟きがその口から漏れる。
だが、それを聞いてもなお、ザキロスはひかない。
さすがは七聖龍の一員だろうか。
アークは何も言わず、手も出さず、ただ見ているだけだった。
もちろん、最低限の手助けはするが、それ以上はしない。
何より、彼がそんなことを望んでいないだろう。
そんな事を思っている時にも、火花が散りそうなくらい、両者は睨みあっていた。
アークはそれを静かに見守るだけだった。
「さぁ、やろうか。」
「かかってこい。返り討ちにしてやる。」
ザキロスはマグマブレイドをその手につかみ、フェニックスと対峙する。
フェニックスはザキロスにそう言った瞬間、いくつもの火球を作り、放ってくる。
ザキロスはそれらを全て、マグマブレイドで切り裂いた。
フェニックスは一瞬、驚いた顔をしたが、七聖龍だからと思い、納得する。
そしてそれと同時に、ザキロスを舐めていたことを思い知る。
フェニックスの頬が段々と緩んでいく。
それを見たのか、それとも見ずに笑っているのかはわからないが、ザキロスも笑っていた。
まるで、アークと初めて会った時のように。
アークはそれを見て、戦慄した。
笑顔になったザキロスは一筋縄ではいかないし、何より、怖い。
ザキロスはそれを感じているのか、いないのか分からないが、アークに目配せをしてきた。
アークはザキロスが何を言いたいのか、わからなかったが、目を合わせ、頷いた。
ザキロスはそれを見て、フェニックスに向き直る。
すると、一気にザキロスの魔力が高まっていく。
フェニックスはザキロスがアークの方を見ている時、治癒魔法で自分の顔を治していた。
そのため、この急激な状況を打開することはできなかった。
「不死ならば、受け切って見せろ!!インフェルノブレイズ!!」
全てを溶かしつくす灼熱の炎。
それがフェニックスを包み込む。
フェニックスは少し、苦しそうにしていたが、その炎を食らい始める。
だが、さすがに魔力が強すぎるのか、食らい尽せていない。
そのため、ダメージを受けている。
しかし、不死鳥の名前は伊達ではなかった。
「さすがだな…。だが…まだまだだ。」
フェニックスはそう呟くと、ザキロスに近づき、巨大な火球を打ち込んだ。
ザキロスの鎧が砕かれ、倒れる。
息はあるようだが、起き上がることはできなさそうだった。
アークはそれを見て、フェニックスに歩み寄っていく。
その時だった。
生身のザキロスへフェニックスが火球を打ち込もうとしているのが見えた。
この距離では間に合わない。
アンチマジックを使用するには火球の魔力が高すぎる。
「仕方ない。」
急激に魔力を高めていく。
それに気づいたフェニックスの意識がこちらに向く。
アークは今が好機だ、そう思った。
「ストライクノヴァ!!」
ストライクノヴァ、これは無龍の二つ目の龍魔法だ。
使った者が敵と判断したもののみ、全てゼロと化す魔法。
つまり、跡形もなく消えてしまうのだ。
この技はヴァニシングドライブよりも範囲が広く、味方に影響がないため、今回使った。
しかし、使った張本人も無事ではない。
フェニックスが断末魔を上げながらゼロと化した後、アークは膝から崩れ落ち、口から血を吐いた。
身体に対するダメージが強大なため、使用者が死ぬこともしばしばあるようだ。
だが、アークは体も鍛え上げ、今回の戦闘では最小限のダメージだった。
そのため、使用できた。
アークはよろよろと立ち上がると、フェニックスとの一戦を見ていたらしいカリンが近づいてきた。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だ。それより、ザキロスさんを運んでやってくれないか?」
「わかった。」
カリンは近くにいた執事に命じ、ザキロスを医務室へ運ばせた。
アークはカリンに簡単な治癒魔法で治療されていた。
ダメージが大したこと無いのでそれでいいと、アークが言い張ったためである。
「後は邪龍だけか…。」
アークが呟く。
「そうだね。」
それに対して、カリンは答える。
まさか、答えが返ってくるなんて想像もしてなかったとでも言わんばかりに、驚いた顔をするアーク。
カリンはそんな彼に気付いたのか、こう続けた。
「勝てそう?」
「さぁね。こればかりはわからない。でも…勝たなきゃいけない。そう言う戦いだから。」
「そうだよね。…ねぇ、もし、もしあなたが邪龍に勝った時は…わたしと…。」
カリンはその先を言う勇気はまだなかった。
だから、アークに聞き返されても何も言えなかった。
「なんだ?」
「な…なんでもない。」
「そうか。」
しばらく二人は静かに座っていた。
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その頃、エーギル王国に向かっている四人は、最後の六魔獣が倒されたことを感じ取った。
レイネスはいち早く行くため、四人に移動速度の上がる魔法を付与し、エーギル王国に行く。
「やはり勝ったか。」
「最後の魔力はアークのだったな。」
「何をしたんだ?」
「たぶん、龍魔法だな。」
四人は口元に笑みを浮かべながら移動していた。
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ジグナスは邪龍の封印されていた門の前に、仁王立ちしていた。
それと同時に六魔獣がやられたことを感じ取る。
「そうでなくてはな。七聖龍、いや、神龍よ、私のところまでやってこい。」
例の如く、陰湿な笑みを浮かべながらそう呟いた。
この言葉の意味がわかるのはもう少し後になるのだが。
それはともかく、ジグナスは何やら知っているようだった。
本当の七聖龍が何なのか、神龍とは何か、そして、無龍とは何なのか。
全ての鍵を握るのは、邪龍とジグナスだ。
この戦いは本当の終わりを意味するのである。
そして、この最終決戦で全てが分かり、そのことにより、始まりがあり、そして、終わりがある。
だが、総合的には、終わりであろう。
それを、今の七聖龍たちが知る由もない。




