第十六話 強固な意思
お待たせしました。
だいぶ間が空いてしまいましたが、更新しました。
読んでくださればうれしいです。
森の中へ入っていくと、ミノタウロスの気配と思われるものが充満していた。
その気配を追って進んでいく。
イーゼルは険しい顔をしながら後を追っていく。
やがて、視界が急激に広がった。
そこは木一本も生えていない、いや、ミノタウロスがなくしたのだろうか、広場のようになっていた。
牛頭人身の姿をしており、全体的に筋肉が隆起しており、右の手にはトライデント、三叉の矛を持っており、攻撃に特化しているのが見ただけでわかる。
ミノタウロスはイーゼルの視線に気がついたのか、ゆっくりと振り向く。
イーゼルはミノタウロスのそばへ歩み寄っていく。
「お前が、七聖龍の一人か…。」
まるで知っているかのようにイーゼルに話しかける。
だが、イーゼルにとってそんなことは知っていても知っていなくてもどうでもよかった。
ただ倒すだけなのだから。
イーゼルは黙ったまま龍の鎧を身にまとい、ミノタウロスと対峙する。
ミノタウロスの存在感はこちらが圧倒されるようだ。
だが、それでも逃げ出すわけにはいかない。
イーゼルはそう思い、逃げ出さずにそのままでいた。
「答える気はないか…。では、拳で語り合おうじゃないか。」
「そうしよう。」
ミノタウロスはトライデントを持ち、イーゼルに肉薄する。
イーゼルは動かず、左腕についている盾をかざし、トライデントを受け止めた。
これが地龍の盾。
この盾は最強と言われ、どんな攻撃も貫けない。
そう言われている。
そのため、付けられた二つ名が“イージス”。
魔法ではなく、元々体の一部だ。
そのため、魔法をあまり使わなくてもいいのだ。
だが、攻撃を受けるだけでは勝てない。
攻撃するときには魔法を使い、一撃で敵を倒すのが地龍の戦い方だ。
しかし、この戦いの場合はそうはいかない。
ミノタウロスの攻撃力、さらには打たれ強さ。
これのどれをとってもトップクラスだ。
だが、情報によれば魔法は使わなかったはず。
イーゼルはそこに勝算があることを知っていた。
だが、それも滅殺魔法を除いての話だが。
いかなる地龍の盾といえども、滅殺魔法までは防ぎきれないだろう。
そう考えている間もミノタウロスは攻め続けている。
だが、それを防ぎ、反撃のタイミングを見計らっているイーゼル。
そのことをミノタウロスが知っているのか、それともそういう戦い方なのか、タイミングが分からない。
全ての攻撃が微妙なリズムの違いで放たれてくる。
防ぐことはできるが、反撃は難しい。
イーゼルはいったん距離をとることにする。
体中の筋肉を駆使し、後方へジャンプする。
ミノタウロスはいきなりのことで戸惑っていたが、構えを取り、徐々に近づいてくる。
イーゼルは警戒しながら魔法の準備をする。
牽制さえできればいい、そう思っていた。
だが、ミノタウロスはそれを読んでいたかのように一気に間合いを詰めてきた。
「お前の狙いはすぐわかる…。」
「くっ…。」
盾を出しながら後方へ下がるイーゼルだったが、トライデントが頬を掠める。
イーゼルの背中に薄ら寒い物が走る。
ミノタウロスは追撃しようと接近する。
だが、イーゼルは体勢を立て直し、トライデントを受け止める。
しばらくの間、競り合いが続いたが、イーゼルが突き飛ばし、逆の腕の盾をミノタウロスへ叩きつけた。
ミノタウロスは吹き飛んで行ったが、体勢を空中で立て直し、立ち上がる。
打たれ強いといわれるだけあり、タフだ。
イーゼルは予想通りだったが、苦戦は免れないだろう。
そんな彼の思考を読んだのか、ミノタウロスはにやりと笑い、間合いを詰めてくる。
この時、ミノタウロスの心にあったのは七聖龍を倒せる、ということの他に、考えは全てわかっている、そう言うプレッシャーを与えたかっただけだ。
そして、そのプレッシャーがかかったのを見て笑ったのだ。
ミノタウロスはトライデントで突きにかかる。
だが、その攻撃は盾で防がれた。
それは想定の範囲内だ。
続けて次々と微妙にリズムをずらし、攻撃する。
それは、まるで吹き荒れる予測できない嵐の風のようだった。
だが、どれも防がれていく。
相手は七聖龍。
簡単に倒せる相手ではない。
ミノタウロスの胸の中にあったのは負の感情ではなく、むしろいいものだった。
楽しい。
戦うのが楽しいと思った。
いつしか、ミノタウロスは敵が七聖龍ということを忘れていた。
イーゼルは戦っている最中、ミノタウロスが笑っていることに気付いた。
なぜ笑っているのか、それを考えるために思考する。
だが、わからない。
それでもイーゼルの心の中に初めてとなる感情、よくわからないが楽しい、そう思えてきた。
楽しい。
お互いはお互いに自分の限界までの力を持って、相手を倒したい、そう思っていた。
「楽しいなぁ。」
「あぁ。」
ミノタウロスの言葉に対して肯定するイーゼル。
その後、少し戦況が膠着した。
お互いに睨みあっている。
その空気は普通の人では逃げてしまいそうな、鋭さと殺気が含まれていた。
いや、恐怖で動けなくなるかもしれない。
そんな中、二人は微笑みを浮かべながら対峙しているのだ。
膠着した戦況が少し動く。
イーゼルが少し、本当に少しずつ前へ前進している。
それを見たミノタウロスも負けじと前へ出る。
彼らはそれぞれの間合いに入ると足を止めたまま、鋭い攻防を繰り広げる。
ミノタウロスは得意のトライデントを振るう。
イーゼルは防御しつつ、空いているもう片方の盾で攻撃する。
お互いに魔法は使っていない。
ミノタウロスはともかく、なぜイーゼルは使わないのか。
それは、正々堂々と自らの肉体だけで戦いたい、そんなイーゼルの願いからだろう。
鋭さを増していく両者。
だが、押しているのはイーゼルの方だ。
「どうした?そのままだと負けるぞ?」
「わかっている!!…くそっ!」
イーゼルはそう言いながらミノタウロスを肉体的にも精神的にも追い込んでいく。
ミノタウロスの顔がだんだんと険しいものになっていく。
今までの余裕な顔はどこへ行ってしまったのか、そう思えてくるほどだった。
ミノタウロスの焦り、苛立ち、その他の感情、いや、余分な思考がトライデント切っ先が鈍ってくる。
段々と気迫が乗っていないものになっていく。
その状態になってしまっているならば、イーゼルも攻めやすくなる。
隙ができるため、魔法も使えるだろう。
イーゼルはミノタウロスに隙が出来るのを待っていた。
その瞬間は意外と速く来た。
イーゼルがトライデントの攻撃を受け流し、ミノタウロスの体勢を崩しにかかる。
すると、今まで耐えていたのにもかかわらず、そのままバランスを崩す。
そして数歩後ろへと下がる。
その瞬間にイーゼルは魔法を使う。
「くらえ!!」
土の上級魔法、ドイルスパイク。
敵の頭上に大きな魔法陣を展開させ、そこから先の尖った岩を無数に発射し、その後大きな岩で潰す。
魔法はクリーンヒットした。
ミノタウロスの姿が見えなくなり、しばらくイーゼルは様子をうかがう。
倒したのか、そう言う期待を持ちながら。
だが。
「やってくれるな…。さすがというべきか。」
ミノタウロスは体中に傷を作りながらも岩をどかしてイーゼルと向かいあう。
その光景を見たイーゼルは驚く。
なぜなら、魔法を直に受け、直撃したのにもかかわらず、何ともなかったかのように立ち上がったのだから。
ミノタウロスのタフさは知ってはいた、いや、知っていると思っていた。
だが、ここまでタフだなんて知らなかった。
イーゼルは内心で少し動揺していたが、すぐに冷静さを取り戻した。
相手は六魔獣なのだから、強いのは当たり前、そう言い聞かせた。
「そりゃどうも。」
「だが、まだだ。お前はまだ足りない。」
「何?」
「あんなぬるい攻撃じゃあ俺は倒せないぜ。」
「そうか…。ならば、こちらも本気で行くとしよう。」
それを聞くとにやりと笑みを浮かべ、ミノタウロスの気の質が変わる。
ミノタウロスを見てイーゼルも本気を出していく。
先程とは全く違う殺気、緊迫感、プレッシャー。
それぞれが桁違いになった。
そして、どちらともなく前へ出ると、激しい攻防を始める。
その場に足を止めての攻防だが、嵐のように荒れていた。
疾風怒涛。
この言葉がぴったりな攻防だ。
イーゼルはミノタウロスのトライデントを盾で防ぎ、空いている盾で反撃。
ミノタウロスはトライデントをイーゼルに向け、イーゼルの攻撃をかわして反撃をする。
これのループだ。
実力差がないのか、まったく決着がつかない。
ここから先は気力と体力の勝負だろう。
だが、お互いに気持の上では互角だ。
となれば、お互いに求められるのは体力だ。
体力面で不利なのは今のところイーゼルだ。
その理由として第一に龍の鎧が重武装だということ。
そのため、体力を酷使しなければならない。
第二に攻撃と防御の両方をやっていること。
ミノタウロスのように攻撃を受ける訳でも、攻撃を最小限の動きでかわすわけでもない。
イーゼルのやっていることは防御だ。
敵の攻撃を受けている。
すると余計に体にかかる負荷が大きくなり、体力の消耗が激しくなる。
だが、勝算がないわけではない。
魔法さえ使えば勝てるのだ。
それを知っているからこそイーゼルは使いたい。
だが、ミノタウロスもそれを知っている。
そのため、攻撃の手を緩めず、魔法を使わせないようにしている。
イーゼルの顔に焦りの表情が少し見られるようになってきた。
「くそ…。」
「どうした?」
嘲笑うかのようにミノタウロスがイーゼルに尋ねてくる。
イーゼルは何も答えず、ただ攻撃と防御をするだけ。
「つれないねぇ…。」
「お前と親しくするつもりはない。」
「それもそうか…。」
ミノタウロスはそう答えると、力いっぱい盾にトライデントを打ちつける。
それを受けたイーゼルは少し吹き飛んで行く。
そして、体勢の崩れたところにミノタウロスは追撃に出る。
トライデントの鋭い切っ先がイーゼルに向けられ、そのまま盾に吸い込まれていく。
盾は破壊され、吹き飛ぶ。
イーゼルは成す術もなく、人形のように吹き飛ばされた。
何メートル吹き飛んだのかは知らないが、倒れこんだのはずいぶん後だった。
イーゼルは顔だけを上げ、ミノタウロスを睨みつける。
だが、瞳に、目に力が入らない。
頭に負け、という文字が現れた。
イーゼルはそれを認めたくなかった。
そう考えている間にもミノタウロスは止めを刺すため、近づいてきている。
負けたら死ぬ。
いつかは死が来るのを覚悟していたはずだった。
だが、実際に死に直面するとここまで怖く、嫌になってしまうものなのか、そう思った。
負けたくない、死にたくない。
こう言った感情が高まっていく。
そして。
イーゼルの周りの小さな石ころが重力に反して浮き上がっていく。
それを見たミノタウロスが何かを感じたのか、動きが止まった。
「なんだ…?」
イーゼルの気が高まっていく。
彼の負けたくない、死にたくないという気持ちに龍が呼応したのか、龍の鎧が姿を変えていく。
今までの重装備ではない。
他の龍のようなスタイリッシュなものになっていく。
翼はなく、腕にも盾が付いておらず、見た感じではとても弱そうに見える鎧だった。
ただ、イーゼルの周りに浮かぶ五つの盾のような形をしたものがついていた。
それは全方向の防御が可能な土龍の真の姿だった。
そしてこの盾の名前は、アキレウス。
自律で動くため、所有者の身の危険を感知した場合、すぐに攻撃対象から守る鉄壁の守りだ。
ミノタウロスは何が何だか分からなかったが、攻撃しようとトライデントを振り上げる。
その瞬間だった。
盾が三つミノタウロスの元へ吸い込まれるように向かっていき、その攻撃を抑える。
イーゼルはそのうちに魔法を唱える。
「くらえ。」
「くっ…。」
土の最上級魔法、ドイルブラスト。
それは岩の塊を相手にぶつけ、その破片を操り、四方八方から攻撃する魔法。
威力はとても高く、土属性の中で最強の魔法だ。
イーゼルの場合、手を地面と平行に肩幅より広く広げ、同時にドイルブラストを二度唱えていた。
そのため、ものすごい速さでぶつけた岩の衝撃も、その破片で受けるダメージも二倍になっている。
これは魔法力の高い者、さらにその中でも才能に恵まれている者しかできない二段射ちだ。
岩の破片がいくつか刺さったまま、ミノタウロスは立ちながらイーゼルを睨んでいた。
いかなタフなミノタウロスでもさすがに効いたようだ。
トライデントを杖にしたままだ。
それでも倒れない彼にイーゼルは感心してしまった。
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イーゼルが戦闘を開始してから五分後の出来事だが、エーギル王国の湖で竜巻が起き、そこから現れたのは、見た目は水龍の怪物、おそらくこれが六魔獣の一対、リヴァイアサンなのだろう。
キリカはしばらく恐怖で声が出せなかった。
リヴァイアサンのオーラは恐怖一色で埋め尽くされていた。
しばらくしてリヴァイアサンは湖に潜っていくと、キリカへこう言った。
「さっさと来い。決着を着けるぞ。」
キリカは意を決して、これから始まる死闘の舞台へと入って行った。
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その頃ジグナスは、邪龍の封印されている門の前で陰湿な笑みを浮かべながら、一人で何かを呟いていた。
この時から、運命の歯車は動きだしていた。
そう、無龍と邪龍の。
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イーゼルが戦闘を始めてしばらくした時、すでに戦闘を終えたミレウスとゲイルスはレイノルド王国へ向かっていた。
そう、レイネスと合流するために。
二人はイーゼルの様子が気になったが、彼のことを信じ、レイネスの元へと向かう。
そしてイーゼルの戦いが終わった時、迎えに行こう、そう二人は約束した。
と、その時、もう一人、七聖龍の中で戦闘を行おうとしている者がいることに気がついた二人は誰なのか、勘を頼りに探ってみる。
それはキリカだった。
二人はキリカのことを応援しながら、出発した。




