第十四話 決意
未だ自分の国へ戻っている途中の七聖龍たちは、何やら不穏な空気を感じていた。
ケルベロスを倒した気配はしたが、それと同時によくないことが起きてるような感じがするのだ。
その予感は当たっているのだが、彼らはまだ知る由もない。
まさかこの邪龍復活に黒幕がいるなんて。
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転送されたゲイルスは周りの騒がしさで目を覚ます。
ゲイルスは首だけを動かして、周囲を見渡す。
そこには、ゲイルスの国民がいた。
それに、ゲイルスは今、自分がベッドで寝ていることを悟った。
「目が覚めましたか?」
「あぁ。ここはどこだ?」
目を覚ましたはいいが、ここはどこなのだろう、そう思い聞いてみる。
すると、驚くべきことを言われた。
「ここはヘイムダル王国の城の中です。」
「え…?」
驚きのあまり、体を起こそうとしたが、激痛が走り起き上がれなかった。
ヘイムダル王国なんてチェルトボーグからすぐのところだ。
その気になればジグナスならすぐに滅ぼしかねない。
うすら寒い気持ちになったが、誰かの声でハッとした。
「大丈夫か?」
その声の持ち主はミレウスであった。
所々に包帯が巻いてあるが、もう大丈夫なのだろう。
普通に歩きまわっている。
そんなことよりも、なぜ自分がここにいるのか分からない。
ミレウスはそんな彼の思考を読み取ったのか、苦笑しながら説明してきた。
「ゲイルス、君の国民はしばらくここに住んでもらう。それに近くでは強大な力が使われているしね。ここにいれば安心さ。君の、いや、俺たちの真の敵はここに君がいることを知らないし、それに守るぐらい平気さ。」
「だけど…。」
「とりあえず、その怪我を治してから反論しなよ。」
ミレウスは笑いながらそう言うと、ゲイルスもつられて笑顔になる。
笑顔を見て満足したのか、ミレウスは仕事に戻って行った。
その後、しばらくゲイルスは国民と雑談や、ジグナスに向かっていった者達の話をしていた。
やがて、口数が減っていき、各自支給された部屋に帰って行った。
ゲイルスは一人、この部屋に残された。
彼は空を見ながら、まだ戦っていない彼らのことを思う。
残る六魔獣は四体。
彼らは六魔獣を倒すだろう。
だが、自分は倒せなかった。
そう言った感情が心のどこかにあった。
ケルベロスを倒したのは、ゲイルスではなく、ジグナスだ。
皆に申し訳ないと思うのと同時に、悔しさが募っていく。
ゲイルスは無意識のうちに拳を握りしめる。
様々な感情を握りつぶすかのように。
しばらくして、自分の手に激痛が走っていることに気付き、ベッドの上を痛みを耐えるように転がる。
痛みが引いてきたため、大の字になって空を眺める。
その時、ふと思った。
自分だけ何もしてないんじゃないか、と。
そう思った瞬間、体が動いていた。
ミレウスに会うため、部屋を出ると近くにいたメイドに王室はどこか、と聞く。
メイドは嫌な顔一つせず、親切に教えてくれた。
感謝の気持ちを伝え、教えてもらった道を進んでいく。
扉をノックし、中に入る。
「ミレウス、ちょっといいか?」
「どうしたんだ?まだ寝てた方がいいんじゃないか?」
冷や汗をかいているゲイルスを見てミレウスはそう言うが、彼の眼が何かを訴えるような、強い意志を持っていたため、椅子に座らせる。
「なんだ?」
「何かしたくてな。みんなが何かと戦っているのに、自分だけ休養なんかできない。」
「俺と一緒だな。」
ミレウスは何かおかしくなって笑ってしまう。
彼もまた、ゲイルスを引き取るまで休息を取らされていた。
だが、何かをしたくてうずうずしていたのを思い出す。
「わかった。ならば、邪龍が完全な姿、強さを持つには何日、何時間かかるか、調べてほしい。」
「わかった。これだけでいいのか?」
「あぁ。助かる。」
ゲイルスは邪龍について調べることにする。
それに伴い、ミレウスに禁書扱いとなっている邪龍と、七聖龍についての本を借りる。
とりあえず、一通り目を通すことにする。
読み進めていくと衝撃の真実が明らかにされていく。
ゲイルスは目を見開き、唖然とした。
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かつて、この世界にはドラゴンが跋扈していた時代があった。
その時に龍の抗争が起きた。
原因は不明だが、それぞれの属性に分かれて抗争をしていた。
火、水、土、風、光、闇、無、そして邪。
その八属性で争いあった。
始め、火と水の喧嘩だったのだが、土が火に味方したため、水がそのことに対し怒り、風を自分の味方につけた。
力はお互いに拮抗していたが、それを壊したのが第三の勢力、光と闇、無と邪の争いだった。
この四属性の力は凄まじく、他の属性まで巻き込んでいった。
その後、戦局はどちらに傾くわけでもなく、ただただ龍の数が減るだけだった。
そのため、龍の跋扈していた時代はあっという間に終わった。
その時、人間が龍を倒す術を手に入れ、龍王たちを倒すと、その力を使うようになった。
これが、龍が人間に宿ることだ。
本当ならば、邪も人間に宿るはずだった。
だが、なぜか封印されてしまった。
その理由として、当時の龍王は八体おり、龍を倒す術を持つ勇者が七人しかいなかったためだ。
それを知った邪龍は憤慨し、世界を滅ぼそうとした。
だが、封印されたため、それができない。
その結果、今に至るというらしい。
ゲイルスはそんなことよりも聖龍の中に邪の属性が入っていることに驚いた。
邪龍、ディアボロス。
この龍は元々、無龍ジークフリードの仲間であり、家族であり、良きライバルだったという。
それがいつの間にか、無龍と邪龍は争いあうようになった。
つまり、七聖龍ではなく、八聖龍だったのだ。
ゲイルスは我が目を疑った。
もしそうなら邪龍、ディアボロスは仲間ということになる。
もし、ではなく、本当のことなのだ。
捉え方によっては、皆敵なのだが。
さらに読み進めていく。
その先には対立していた図が乗っていた。
だが、そんなものは、今はどうでもいい。
ゲイルスは気になるページまでめくると手を止める。
そこには邪龍のことが詳しく書いてあった。
邪龍は封印されているが、七聖龍がそろったその年、目覚める。
目覚めた瞬間、すでに力は元の通りだ。
そして、六魔獣を放ち、七聖龍たちを苦しめるため、戦わせる。
それには邪龍が実戦の勘を取り戻すための時間稼ぎと、七聖龍たちの体力を奪うためだ。
そして何より、六魔獣は邪龍が召喚魔術によって、召喚されたものだ。
それを見たゲイルスは、しばらくの間動けずにいた。
放心状態から戻った彼は次のページをめくる。
そこには、邪龍の倒し方が乗っていたが、どれも失敗と大きく書いてあった。
だが、どの例にも書かれているキーマンは無龍。
無龍がどれだけ強いのかによって変わってくる。
ここにはそう書いてある。
あとは、チームワーク。
それがあれば勝てるであろう、と書いてある。
だが、それだけでは勝てないだろう、ゲイルスはそう考えた。
どうやれば勝てるのか、考えてみるが、なかなか考えが浮かばない。
それどころか、本に書いてあったことしか浮かばない。
ゲイルスは頭をかきむしり、立ち上がる。
そのままミレウスの元へ行き、報告をした。
「何!?それは本当か!?」
驚くことは当たり前だ。
どんな奴だって驚くだろう。
ゲイルスも放心するほど驚いたのだから。
つまり、敵だと思っていた邪龍は元々、仲間みたいなものなのだから。
だが、倒さなければならない。
そう。
世界を滅ぼすだけの力を持っているのだから。
「これからどうする?」
「このままいくしかない。」
「だよな…。」
二人はしばし沈黙になったが、すぐに顔をあげ、立ち上がる。
「とりあえず、邪龍を倒す。その後、真の敵を倒す。これでいいな?」
「もちろんだ。」
二人はそう決心し、仲間を応援するかのように外を眺める。
だが、この時の彼らはこれから起きる重大なことを書いてあるページを見ていないことに気付かなかった。
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その頃、他の七聖龍たちはそろそろ到着しようとしていた。
その中でも早くに到着したのはレイネスだった。
レイネスは上空から自身の敵を探す。
すると、城下町に近い草原でクリオナとグリフォンが見えた。
レイネスは急いで降下すると、そのままのスピードで、魔力結界を張り、グリフォンに突撃した。
グリフォンは5mぐらい吹き飛び、忌々しそうにレイネスを睨みつける。
レイネスはグリフォンを無視して、クリオナに目を向ける。
クリオナの服はボロボロだった。
「大丈夫ですか?」
「なんとかな。それより、ここを任せていいか?」
「もちろんです。」
レイネスはそう言うとグリフォンに向き直り、殺気の籠った視線を真正面から受け止め、グリフォンを睨みつける。
クリオナはそんな彼らを見て、城下町へ行くと住民に避難を呼びかけた。
レイネスはそれに気付き、一歩前に出る。
「さぁ、やろうか。」
レイネスは龍の鎧をまとうと、挑発的に人差し指を動かす。
グリフォンはそんな彼の行動を見ると、口元を歪ませた。
「これは面白い…。楽しめそうだな。」
そう呟くと背中に生えている翼を羽ばたかせると、上空へ舞い出る。
グリフォンは頭と翼は鷲、体はライオン、尾は蛇という奇怪な姿をしている。
だが、あのクオリナを苦戦させたのだ。
弱いわけがない。
強さは容姿に比例しないのだから。
レイネスも空へ舞い上がると、空中で対峙した。
そして、相手のことを見る。
よく見れば足の先にある爪が鋭く尖っており、危険そうだ。
それに、足が四本あるのでよくわからないが、素早く飛べそうだ。
レイネスはグリフォンを冷静に観察しながら、敵の出方をうかがう。
それは相手も同じようでどちらも動く気配がない。
対峙しているだけで息が切れそうになる。
それほどまでに空気が緊張しているのだ。
触れれば弾けそうだ。
レイネスはそんな極限状態の中、戦わなければならない。
なぜ戦うのか、レイネスはずっとそれを考えていた。
だが、仲間のために戦う、これでは理由にならないのだろうか。
たとえ理由にならなくとも、レイネスは自分が信じた道を貫くだけだ。
レイネスは息をひとつすると、そのままグリフォンに迫る。
グリフォンはレイネスの動きに合わせるかのように移動する。
だが、移動速度はレイネスに分があるのか、次第に翻弄される。
「ちっ…!」
グリフォンは舌打ちをして、目を閉じた。
レイネスはなぜ目を閉じたのか分からなかったが、簡単に攻めに行けなくなった。
もし、これが何かの罠ならば。
もし、空気の振動や、その他のことで自分の動きが全て読み取られたら。
そう思ってしまう。
だが、レイネスは攻める。
なぜ戦っているのか、本当の答えを探すために。
「くらえぇぇぇぇ!!」
この時、レイネスは決意した。
なぜみんなのために戦うのか、それが分かるようになるために戦う、と。
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レイネスが戦闘に入ったことをまだ移動中の七聖龍たちは感じ取った。
彼らは空を仰ぎ、今まで戦ってきたものと一緒で信用していた。
そう、彼らは仲間なのだから。
それを感じながら、イーゼルはもう着きそうな場所。
キリカは城が見えてきたところだ。
アーク、ザキロス、カリンの三人組はもうそろそろで城が見えるところまで来た。
彼らは気を引き締め直して、戦場へ向かうのであった。
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ジグナスはゲイルスを追おうか考えたが、すぐにどうでもよくなってやめた。
ジグナスは今、彼に盾ついた者たちを処罰し、その亡骸を山積みにしている。
そこへ登り、邪龍が眠る方へ目を向ける。
そして、口の端を緩めて笑う嫌らしい笑いを浮かべる。
「もうそろそろで、私の野望が完成するよ。」
誰に言うわけでなく、そう呟くと、亡骸を燃やしながら下りた。
そして再び、彼は闇にまぎれて姿を消してしまった。
いつか、七聖龍と一戦交える時を楽しみにしながら。
この時、ジグナスは早くに戦うことになるなんて思いもよらなかった。
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