第十二話 覚醒
ペガサスの剣がミレウスを切り裂くと誰もが思った。
勝利を確信しているペガサスもそう思っていた。
だが。
「なんだ?」
ペガサスは異常を感じ取った。
そのため、剣の軌道がずれる。
その剣は地面を切る。
その威力よりもミレウスの異常に目を奪われる。
今の彼の魔法力は異常だ。
今までペガサスが戦ってきた七聖龍の力を持つ者とは比べ物にならないほど強い魔法力だ。
ペガサスは混乱する。
なぜ、ここまでの魔法力がある。
瀕死状態ではなかったのか、と。
ミレウスはペガサスが混乱している中、立ち上がる。
立ち上がったミレウスに龍の鎧はなかった。
だが、代わりに胸に金色の宝玉が埋まっていた。
「なんだ?なんなんだ?」
「ペガサス…待たせたな…。さぁ、続きをやろうぜ!!」
ミレウスがそう叫んだ瞬間、龍の鎧がミレウスに再び着装される。
その姿は前と違い、胸の宝玉が出ると、その宝玉を包み込むかのように胸に鎧がつく。
翼は金色の光り輝く鳥のような羽となり、両手には甲の部分から剣が伸びており、ガントレットに収納可能になっている。
尻尾の先には槍のように鋭くなっており、足は本物のドラゴンのようになっていた。
全体的に前の鎧よりもスリムになっているが、武装は増えており、強化が図られている。
だが、その鎧から、いや、ミレウスから出るオーラは全く異質なものだ。
ペガサスはその姿を見て恐怖を覚えた。
どこか邪龍を彷彿とさせるオーラ。
だが、どこか違う。
違う部分は禍々しさ、だろうか。
それとも無心の状態なため、殺気を読めないからなのだろうか。
わからない。
ペガサスは後ろへ下がる。
だが、ミレウスはそれを見た瞬間、間合いを詰め、剣で切りかかってくる。
ペガサスはなんとか、防御魔法を使い、その攻撃を受けるが、吹き飛ばされてしまう。
体勢を整える前にミレウスはペガサスへ肉薄する。
ペガサスは飛んで逃げようとする。
だが、ミレウスはそれを読んでいた。
尻尾をペガサスの翼に突き刺し、そして左の剣で翼を切り落とした。
「がぁぁぁぁ!!」
「どうした?ここまでか?」
ペガサスは苦痛により、悲鳴を上げる。
ミレウスはその姿を見て、地面に叩きつける。
地面に叩きつけられたペガサスは一瞬、意識を失いかけたが、何とか踏みとどまる。
ペガサスの顔には先程までの笑みはなかった。
その顔にあるのは、恐怖、焦り、諦め。
それらが混じり合った顔をしていた。
一方のミレウスの顔には笑みがあった。
勝利への確信というより、仲間のため、そして何より自分が愛する国民のために戦えていることが嬉しい気持ち、さらに、龍に認められたということにより、顔には笑みが浮かんでいる。
ミレウスは止めに入ろうとするが、ペガサスは立ち上がり、魔法陣を出すと電撃を放つ。
放電された電撃はミレウスに向かっていく。
だが、ミレウスは動かずに、右手をかざす。
すると、電撃が霧散した。
これは無属性のアンチマジックとは違う。
電撃を干渉させ、消したのだ。
「この程度か…。」
ミレウスはそう呟く。
ペガサスはその呟きを聞くと、魔法力を高めていく。
「なめるな…なめるなぁぁぁ!!」
ペガサスは魔力で羽を再生させ、ミレウスを包むかのように魔法陣を形成する。
ミレウスは前後左右魔法陣に囲まれ、戸惑う。
その時だった。
ミレウスに向かって魔法陣からペガサスの分身が現れ、そのまま突進してくる。
ミレウスは上空へ逃げ、衝突を避けるが、ペガサスが後ろにいることに気付かなかった。
後ろから魔力をぶつけられ、そのまま地面に落ちていく。
「くそっ…。」
再びミレウスの前に立ち塞がるペガサス。
だが、諦める訳にはいかない。
それに負けるなんてもってのほかだ。
「負けて…たまるかぁ!!」
ミレウスはそう叫ぶと、ペガサスに光の最上級魔法、ボルテックブラストを放つ。
この魔法は球体に纏めた電撃を放つものだ。
威力は絶大だが、命中精度が悪いため、ほとんどの者が使わない魔法だ。
これをペガサスは避けようとするが、避けたほうへボルテックブラストが軌道を変えた。
ここで命中精度の低さが出たのだ。
この技を避けるには動くのではなく、止まる。
そうすれば勝手に反れてくれる。
それを知らなかったペガサスは動いてしまった。
運が悪いことにそれがペガサスを追うような感じになった。
まるでミレウスの執念がこの技に乗ったように。
ボルテックブラストを受けたペガサスはミレウスを睨みつける。
「お前…。」
「まだだ。そうだろ?」
「当り前だ。」
両者ともに前に出ると再び激しい攻防戦を始める。
前の時とは比べ物にならないほど速く、技の一つ一つがキレを増し、威力が増していた。
それに、お互いに光属性のため、光の軌跡が綺麗だった。
まるで流れ星だ。
それも当たったら一撃で死んでしまう流れ星。
それがぶつかり合ったり、離れたりしている。
ミレウスは段々とペガサスについていけている、いや、追い越していきそうだ。
ペガサスはそれを察知し、魔力を溜めていく。
ミレウスはそんなペガサスに追撃する。
されるがままのペガサス。
一方のミレウスは攻め続ける。
だが、それでもペガサスはびくともしない。
ミレウスは何か様子が変だと感じ、少し離れる。
「これから何が始まる?」
するとペガサスが何事か呟き始める。
うまく聞き取れない。
だが、何か不味いものだとわかる。
やがてペガサスは口をとめ、目を見開く。
この時、ミレウスは察する。
ペガサスが今やろうとしている事が何なのかを。
ペガサスがやろうとしているのは禁忌である滅殺魔法。
滅殺魔法は使用者の命まで脅かし、周囲の人、場合によっては世界そのものを滅ぼす威力を持つ魔法である。
それ故に滅殺魔法は禁忌にされた。
だが、六魔獣に対して人間が決めた禁忌の掟は無意味だ。
そう、彼らは人間を滅ぼすために復活しているから。
それでも滅殺魔法は彼らにも牙をむく。
魔力の弱い者の場合は使用者の命が奪われ、周囲にいた数人が死ぬだけだ。
しかし、魔力の強い者は滅殺魔法を何度も使え、世界を滅ぼすほどの力を使える。
これには条件がある。
全くのダメージゼロの場合でのみだ。
ダメージを受けている場合、世界は滅ぼすことはできるが、自らの命がなくなる。
そう言った魔法だ。
さらに、この魔法は一つしか技の名前がない。
その名は、ワールドエンド。
「まさか…。」
ミレウスは慌てる。
もし、本当にワールドエンドを使うつもりならば、生半可な攻撃では防ぐことができない。
ミレウスは滅殺魔法と同等に並ぶ龍魔法を放つ準備に入る。
龍魔法は滅殺魔法と並ぶ力を持つ魔法だ。
だが、違う点は龍魔法の場合、龍の力を持っていなければ、使えないという点だ。
そのため、禁忌にされてはいないが、危険視されている。
お互いの魔法力が高まっていく。
辺りは緊張感に包まれる。
そのせいか、まったく魔物の気配がしない。
だが、それが余計に不気味な気配を漂わせていた。
レイゼルはその光景を、固唾を飲みながら見ていた。
そして。
「ワールドエンド!!」
死の判決にも似た言葉がペガサスの口から出る。
レイゼルは思わず逃げそうになる。
だが、見守る使命がレイゼルにはある。
自分の息子、ましてや龍の力を持つ者の戦いを見なければならない。
「ビックバンスパーク!!」
ペガサスの周りからどす黒い魔力が出ているのに対し、ミレウスの周りからは光明な魔力が出ていた。
その二つの魔法はぶつかり合う。
衝撃波が周りに飛ぶ。
城壁は崩れ、地面は抉られる。
両者ともにものすごい魔力のぶつかり合いになった。
力は互角。
押したり、押されたり、そうして両者ともに放っている。
レイゼルは衝撃波によって吹き飛ばされたが、何とか体勢を立て直し、その光景を見ていた。
滅殺魔法と龍魔法。
互いに魔力が高い。
互角な両者を見て、つい言葉が漏れる。
「すごい…。」
それほどまでに二人がすごい。
このような力は世界を滅ぼすといわれても何ら疑問も抱かなかったが、レイゼルは恐怖した。
もし、ミレウスが龍魔法、滅殺魔法の両方を使った場合どうなるのか、そう考えてしまった。
だが、それはありえないだろう。
こうして世界のため、人類のために戦っているのだから。
そう考えている間も均衡が保たれている。
それを見た瞬間、全身から鳥肌が立つ。
なぜなら二人の魔力は弱まるどころか、強くなっていっているからだ。
通常ならばこのように強い魔力を必要とする魔法を長時間使った場合、弱くなっていくはずだ。
だが、この二人は強まっていっている。
ポテンシャルの底が見えない。
もしかしたら底はないのかもしれない。
魔力が高まり、魔法が強くなったことにより、衝撃波がさらに強くなり、暗雲が立ち込める。
さらに風も起こり、雨が降ってくる。
そのため、城の一部が壊されていく。
だが、ミレウスはそちらに気を取られることなく、魔力を放ち続ける。
「俺は勝つ!!勝って仲間と一緒に邪龍を討つ!!」
強い決心のもと、ミレウスは自分の信じた道を行こうとする。
ペガサスはそんな彼を見て笑みを浮かべる。
「やはりお前は面白い!!だが、お前はここで私に負ける!!」
さらに二人の力が高まっていく。
二人が立っていた地面はすでに抉られ、宙に浮いている。
魔力を強めたため、再び衝撃波が襲う。
その衝撃波は遠く離れているはずの各国へ行く。
各国の王、七聖龍の者たち、彼らはこの力が六魔獣のものとミレウスのものだと察した。
だが、七聖龍の皆は誰一人として声を上げなかった。
その理由は皆がミレウスを信じていたからだ。
そう、たとえボロボロになってもミレウスは勝つと。
ミレウスはそんな仲間の意思を知ってか、ボロボロになっても戦い続けていた。
衝撃波により、鎧は壊れ、頬が切れそこから血を流している。
ペガサスも同じ状況だ。
お互い一歩も譲らない。
だが、そんな膠着状態が切れる瞬間が来た。
ペガサスが押し始めた。
ミレウスは段々と魔力が弱まり、諦めていく。
その時にふと頭によぎる。
あれは初めて父とともに見た魔法演武。
その時の優勝者がこう言っていた。
諦めたら負けだ。
限界が来ても諦めずに戦えば勝てると。
その言葉は頭から離れなかった。
幼心にも心惹かれた。
それからだ。
本格的に戦いが好きになったのは。
彼を目標に何度も何度も魔法演武に出て、勝ち続けた。
諦めた時はない。
だが、今はどうだろうか。
諦めかけてはいないだろうか。
ミレウスは一瞬の思考の後、目を覚まし、目を見開く。
「俺は諦めない!!仲間のために…そして何より自分のために!!」
そう叫んだ瞬間、胸の宝玉が光り輝く。
光が止むと龍の鎧をまとったミレウスの姿があった。
そして、魔力が強まり、押し返す。
「なぜだ…!?」
ペガサスは意味が分からず叫ぶ。
「お前にはわからんさ!!」
ペガサスはここで察する。
ミレウスには守るもの、守ることがある。
だが、ペガサスにはただ強い奴と戦いたいという願望しかない。
誰でも、それが何者でも守りたいものがいれば、あれば、強くなるのだと、そう感じた。
ペガサスはその口元に笑みを浮かべ、叫ぶ。
「光の龍よ!!貴様の勝ちだ!!」
その瞬間、ペガサスは光に飲み込まれ、消滅した。
ミレウスはそれを見届けると空を仰ぎ、叫んだ。
その後、天に拳を掲げ、仰向けで倒れた。
レイゼルはそれを見ると急いで駆け付け、ミレウスを抱える。
「大丈夫か!?」
「大丈夫…。」
「…よくやった。」
レイゼルの言葉を聞いてミレウスは力を使い果たしたのか、眠りに落ちた。
レイゼルは彼を抱え、城へ戻り、治療室に運んで行った。
その時の空は満天の青空だった。
まるで、ミレウスの勝利を祝福するかのように。
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各国へ向かっている七聖龍たちは、あの膨大な魔力が消滅した瞬間にミレウスの勝ちが分かった。
彼らはその口元に笑みを浮かべると、ミレウスに届くはずのない言葉をかける。
「やったか。」
イーゼルは馬車の窓から外を見てそう呟く。
「やりましたね。」
空を飛びながらレイネスはヘイムダル王国の方向を見ながらそう呟く。
「次は僕の番ですね。」
スケルトンを蹴散らし、振り返りながらそう呟くゲイルス。
「やったわね。」
馬車を止め、降りるとキリカはそう呟き、気を引き締める。
「やりましたね。ミレウス。」
「あぁ。次は俺らだ。」
ザキロスとアークは互いに身を引き締め、ミレウスのいる方向に顔を向ける。
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ペガサスを倒されたと聞いて驚く男がいた。
彼は歯ぎしりをしながら、テーブルを殴り付ける。
「くそ!!」
だが、すぐに冷静さを取り戻したのか、再び陰湿な笑みを浮かべる。
「まぁいい。後五体いる…。」
彼はそう言うと部屋を立ち去った。
この時彼は自分の正体が気付かれるなんて考えもしなかった。
彼はゲイルスがよく知る人物であった。
こうしてゲイルスの戦いと、残酷な運命への扉が開いた。




