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セイバーズ  作者: 六花
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第三章 悲しみと決意

「なあ、雅樹。大丈夫か?」

「・・・クラスメートが俺の目の前でEUCに潰されて死んだんだぞ。大丈夫なわけあるか」

「つらいのは俺もお前も同じだ」

「そりゃそうかもしんないけど」

「でも亡くなったのはうちのクラスは数人だぞ?」

「お前は平気なのか」

「平気なわけないだろ」

「じゃあなんでその数人が死んだのがどうでもいいみたいな口調なんだよ」

「どうでもいいなんて言ってねえだろ」

「その数人も大切な仲間の一部だった」

「・・・」葵はなにも言わずにその場を立ち去った。

雅樹達、エリア5東中高学校の中学生らは東地区内の大型病院にて治療を受けている。

この事件をうけて東中の全校生徒は緊急集団下校を余儀なくされた。

現在警察はスポーツアリーナとこの東地区のバリアを徹底的に調べている。

バリアというのは日本全国、いや全世界の区分型地域全てにかかっているものだ。

その役割は端的に言うと悪い電波、電子その他の電気的な攻撃から地区内の人々を護ることだ。

このバリアはウイルス持ちのネット情報などもカットするが肉体を持つもの、つまり非物質的なものではないものはカットしないという特殊なバリアだった。

EUCでさえ破れない。

このようなバリアがあるから世界の各区分型地区は絶対安全かというとそうではない。

ごくたまに誤作動することがあり、そこからEUCが入ってくるという可能性もあった。

故に必然的にバリアの誤作動によりあのEUCが入ってきたということになるのだが、バリアの起動記録を調べると正常に起動していたとが判明した。

EUCは実体はあるものの、臓器などの生物的体の作りをしていないため=非物質的なものという認識がなされている。

そのEUCがバリアを通り抜けて中に入ってきたというのは到底信じられないということだ。

ちなみにバリアは地下にもはられており、地下からの侵入も不可能である。

つまりこの地区は球体状のバリアに覆われているということだ。

そんなところにEUCが入るにはEUC自体の体を肉体化するか、EUCの電子情報に悪性のものを表示させないという方法をとらないと絶対に侵入不可能。

それがこの第500地域東地区。

なのにあいつは・・・

雅樹はあの光景をまた思い出していた。

牙、目、血、肉・・・

「くっ・・・」

ふと葵を見てみると両親と恐らく妹であろう少女と話していた。

お母さんのほうは涙を流して息子の生存を喜んでいた。

お父さんはにこにこと笑っており、妹は我が兄に抱きついていた。

雅樹は安心した。

雅樹に家族はいなかったが家族の大切さは失ったことによりよく分かっていた。

葵の母親が雅樹に気づき、こちらに歩み寄ってきた。

「雅樹君!大丈夫?怪我はない?」というかなりオーソドックスな質問をしてきた。

だが気遣ってくれるのは雅樹にとってありがたいことだった。

「大丈夫です。葵のおかげで助かりました」

「ん?俺なんかしたか?」

「俺が倒れてるところをかついでスポーツアリーナから連れ出してくれただろ」

「まあ、二人とも無事でよかったわ」

と葵の母が目に涙をためて言っていた。

「雅樹君、なにか困った事があったら相談してね。今日は雅樹君のお家に送っていくから」

「気持ちはありがたいですが、大丈夫です。ご迷惑おかけしても申し訳ないので」

「でも・・・」

「大丈夫です」

「そう・・・分かったわ。気をつけて帰ってね」

そういい残して華松一家は病院を後にした。

「おい、水沢。お前はあのグループと帰れ」

今度は担任が雅樹に声をかけてきた。

恐らく「あのグループ」というのは身寄りのない生徒の集団だろう。

ぱっと見、あまり数は多くないようだった。

「はい」

雅樹がそう返事を返した時、担任が保護者に呼ばれ、病室を後にした。

恐らくあれやこれやと文句なり苦情なりを言われるのだろう。

そう考えるとなんだがいつも怒ってばかりの担任がかわいそうに思えた。

その集団に行くと見たことのある顔はなかった。

女子が5人、男子が雅樹を含め6人いた。

そのうちの一人が「君親は?」と聞いただけで女の子だとすぐわかるかん高い声で話かけてきた。

いきなりで少々驚いたが「いない」と短く答えた。

顔を見ると非常に小顔で目が程よいおおきさで実に可愛らしかった。

そう思っていると「やっぱりかあ!ここ親いない子の集まりだね。あ、ごめん。自己紹介先だよね!私、水戸部 風香!君と同じ親なし、兄妹なし!」

と明るい声で言うべきところではないのにはきはきと元気よくそういった。

「俺は雅樹。水沢 雅樹。中三」

「同じ学年じゃん」

「何組?」

「8」

「遠いな。俺は3だよ」

「3って・・・確かスポーツアリーナの中央あたりにいたクラスじゃない?」

「ああ、そうだよ」

「じゃ、あのEUCも見たんだ?」

身寄りのない生徒達の集団が動き始めた。

「見たよ」

「その・・・言いたくなかったらいいんだけどどんな感じだったの?」

病院の出入り口に向っているようだ。

「まず目に入ったのは血。それからあいつの目。俺は友人にスポーツアリーナから連れ出された。あいつの下敷きになった生徒の中には俺のクラスメートの姿もあった。血なまぐさい臭いもした。酷かったよ」

風香は押し黙った。

短くして言ったが雅樹が見たものは言葉ではほぼ伝えきれないものばかりだった。

「でも生きてて良かったよね」

しばらくして風香が口を開いた。

「ああまあな」

また沈黙。

それからまた少したった。

共に帰っていた生徒の数は少なくなり、3、4人ほどが残っていた。

風香の顔を見ると何かを考えているような表情をしていた。

そしておもむろに語り始めた。

「私のお母さんとお父さんは私が産まれた直後に亡くなったの。その後は親戚の家で育てられて小学校は第510地域」

「待った。第510地域って」

「うん。そうだよ。EUC大量発生事件。それがあった場所」

EUC大量発生事件。

恐らくこの区分型地域確立後の日本では三本の指に入るくらい大きな事件だ。

バリアが正常に機能しなくなり、そこからEUCが大量に入ってきたという事件だがこれが「事故」ではなく「事件」なのには理由があった。

バリアの発生源は巨大な最新発電システムが備え付けられている、大きな建物なのだがその建物が二つあるうちの両方ともが爆撃されたのだ。

突然のことだったため、誰も気がつかなかったが発電所内にいた従業員は全員死亡。

近隣住民にも大きな被害が及んだ。

ひどいのはその後で地区内に入り込んだEUCの群れが手当たり次第に人を襲ったのだ。

無論、セイバーズも戦ったが近くの地区から応援が来たにも関わらず、約7割の隊員が命を失った。

セイバーズの勇敢な行動により住民のほとんどは助かったが死人が出なかったわけではなかった。

セイバーズの行動内容が表に出てきたのもそのころからであった。

ただ、EUCと戦うこと以外にすることがあるのか否かは明らかにされていない。

その後の調査では犯人が誰なのかどこにいるのかも分からず、迷宮入りとなった。

なにも痕跡を残さずに消えた犯人。

いつしか発電所内の従業員が自爆覚悟でやったのではないかと言われるようになった。

「だからこっちに・・・」

「うん。家はEUCに破壊されちゃってね。命からがら私だけ逃げた。でも親戚の人は全員食い殺されて・・・それからは一人暮らし。

雅樹ってさ、自分の親の死因とか聞かされてる?」

「俺の親は両方科学者で実験中の事故死だって聞いてるよ」

「ホント?私の親も科学者だったんだよ。死因は雅樹と同じ」

「いったいどんな研究してたんだろうな」

「EUC関連かもね」

「なら、俺らの親を死なせたのはEUCって可能性もあるな」

「それはちょっといやだなあ。セイバーズ知ってるよね?」

「うん。プリントもらったし。俺入るかもしれん」

「そっかあ・・・私も入ろうかなあ」

「死ぬかもよ」

「なんで?」

「いや、今回の事件を受けてEUCへの防御対策が今よりも徹底されると思うんだ。それに、今日俺が見たEUCはなんか普通のとは違う雰囲気だった。まあ、俺はEUC見たの今日が初めてだけど。もしあれがバリアを破る新種だったとしたら、EUCが地区内に入ってくる可能性は増すと思う。その場合、EUCと戦うのは・・・」

「セイバーズしかいないってことだよね」

「装備も整ってるっぽいし」

「もしかしたら、EUCの発生源とかも調べるようになって地区外に出るかもしれないってことは?ありえるの?」

「あると思う」

またもや沈黙が流れた。

もうすでに他の生徒達はいなくなっており、風香と雅樹のみが並んで歩いていた。

そういえば引率の先生がここからはあなた達の家の近くだから二人で帰るようにと言っていた気もする。

「そういや、風香んちってここらへんなの?」

「ん?ああ、ここら辺。そこ曲がればすぐ」

「そっか。俺真っ直ぐ」

「そうなんだ。あ、じゃここでバイバイだね。じゃーねー!」

「うん。気をつけてな。そんじゃ」

別れの言葉を言い、二人はそれぞれの家に帰っていった。

家につくと、リュックを投げ出しベットに横になり目をつむって今日の出来事を整理した。

いつもならリュックを放り投げた後、ゲームをするのだが今日はそんな気分にはなれなかった。

脳裏に今日見た色々な光景が浮かんでくる。

クラスメートの死に顔、血、あのEUCの凶悪な目と口と・・・

雅樹は目を開けた。

そして深呼吸をしてから、もう一度目をつむった。

病院、葵の母の優しげな眼差し、風香、風香の夕日に照らされた顔。

「俺は何をすればいいんだ」ポツリとつぶやく。

そしてまたあのEUCのことが頭に浮かんだ。

アイツを殺さなくては・・・

もう誰も殺させはしない。

雅樹は机の上のセイバーズ入隊希望書を手に取り、記入を始めた。

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