4、理論と実践
連れて来られた場所は物置部屋だった。本が多数積み重ねられているだけでなく、非常にたくさんの箱が積み重ねられている。その中には刀だけでなく、短剣やナイフ、西洋系の剣であるレイピアなども入っていた。
まるで武器倉庫のような環境につい胸が高鳴る。ゲーム内だと、これでモンスターを倒すんだよな……と思っていると、ある箱がうっすらと光輝いているのが目に行った。
刀が入っていた箱よりもさらに小さく、多数のナイフが入っていた箱よりも少し大きい。
逆方向で物を探している老人は気づいていないらしく、その箱に対してまったく見向きもしなかった。
箱の中身を開けてはいけないと言われていなかったため、ユージは若干の好奇心を抱きながら、その箱に手を付けた。
光だけでなく、温もりさえもある箱をゆっくり開けると、一丁の銃が入っていたのだ。足などに装着ができるホルスターもある。若干薄汚れており、使用済みのもののようだ。
「すっげー。銃弾はどうやっていれるんだ? 入れる場所なくね?」
まじまじと銃を眺めていると、探し物をしていた老人の手が止まった。そして驚愕の目で、ユージとその銃を交互に見たのだ。
「まさか、その銃がお主の……!」
「オレの、なんだ?」
「そんなはずあるわけない! こんな馬鹿そうな子供が、それを使えるなんて……」
「これってそんなにすごいのか?」
ユージが軽々と銃を持ち上げると、老人はさらに目を大きく見開く。状況がわかっていないユージにとっては、首を傾げるばかりだ。
やがて老人はゆっくりと歩み寄り、その銃に触れようとしたが、突如激しい電撃が走った。渋い顔をしながら、手を引っ込める。
「じいさん、これに触れないのか!?」
「この武器は非常に繊細でな、所有者以外が使えないだけでなく、触るのも嫌うものじゃ」
「オレ、持っているけど!」
「――悔しいが、この銃はお主を選んだということじゃ」
「けどこれ、銃弾が箱の中に入ってないぜ。どうすればいいんだ?」
老人は何も言わずに、物置部屋から出ると、塀の近くにある的に対して真っ直ぐに指で示した。弓道で使われるその的は、既に多くの矢が突き刺された痕跡がある。
「――銃を両手で持て」
背筋をぴんと伸ばしている老人は、ユージに振り向きもせずに、指示を与える。見よう、見まねで、右手で銃を持ち、左手を添えた。銃から感じる温かさがさらに増した気がする。
「呼吸を落ち着けて、狙った場所に意識を集中しろ」
深呼吸を何度かし、目の前にある的に向かって、視線を突き刺した。銃から光が発し始める。同時に渦のようなものが、銃弾を入れる場所に入り込んできたのだ。
「な、なんだ!?」
「慌てるな。集中力が切れれば、今までの行為は無意味になってしまうぞ?」
「集中するとか、すごく苦手だ……」
ぶつぶつと呟きながらも、とにかく目の前にある的以外に意識がいかないように耐え続けた。やがて渦は収まり、銃口が燦々と天色に輝く。
「――準備ができたと思ったら、引き金を引け!」
その言葉を合図として、ユージは引き金を引いた。銃口からは天色の光が溢れ、勢いよく発射されたのだ。
それは一直線に的へと向かい、ど真ん中を居抜き、さらに奥にあった塀までも貫いてしまった。
光の銃弾が解き放たれると、銃は急激に熱を失っていく。同時にユージはどっと疲れが出て、その場に座り込んでしまった。
「なんだ、これ?」
「それがその銃“天色の銃”の使い方だ。自然界にある元素を吸収し、狙った物を打ち破るために必要な化合物に瞬時に変換させ、できた物を発射する。今回は布の的だから、ただその一点だけ燃やしただけじゃな」
「すげえな」
「そうじゃ。使いこなすのは難しいが、使いこなせたときには、どんな珪素生物でも相手ができるじゃろう。――集中力さえ、途切れなければ」
そう言った老人の顔は、ほんの少しだけ哀愁が漂っていた。まるで遠い昔にいた人を思い浮かべているかのようである。しかしすぐにまた厳しい表情に戻った。
「珪素生物を打ち砕く原理はなんとなくわかったな」
「なんとなく。珪素生物に焦点を合わせれば、これが勝手に適した反応を起こすようにしてくれるんだろう?」
「ほう、馬鹿でも実践的に教えれば理解できるものなのじゃな」
「……じいさん、本気でいつか殴るぞ」
馬鹿と連呼され続け、そろそろ怒りの沸点が越えそうである。眉をひそめているユージなど、構いもしない老人は急に声を潜めた。
「――ただしこれを使うには、いくつか問題点がある」
「なんだ?」
「それを使用するには、多大な集中力、つまり気力や体力が必要となってくる。そして一発は巨大だが、集中力が続かない限り連射は不可能じゃ。つまり鍛えてもいないお主にはこれを使えるのは、一日のうちに五発打てればいい方だろう」
「なんだって!? じゃあ、今、既に一発打っちまったじゃねえか!」
ユージは噛みつきそうな勢いで言葉を吐き散らすが、老人はもはや耳を押さえて流している。
「お主のようなやつには、理論を話しても、ただ言葉を右から左に流すだけじゃろ。だから実戦で教えてやったというのに……」
「おい、どうにかして今の一発無かったことにしてくれよ! さっきの二足歩行のやつに、四発だけで戦えると思えねえ!」
「――皮膚を溶かし、そして核を貫く――、二発あれば充分だ」
静かで鋭い声が、ユージの耳に飛び込んできた。
おそるおそる家の方を振り返ると、壁にもたれ掛かっているハヤトが不敵な笑みを浮かべながら立っていたのだ。
いつもかけていた眼鏡はなく、かわりに眼帯が付けられているからか、優等生のハヤトという印象は微塵も感じられなかった。
「面白そうな話をしているみたいだな、ユージ」
だが口調には棘が無く、穏やかなものに戻っており、ユージは少しだけほっとした。
「怪我は大丈夫なのか?」
「だから言っただろう、角膜自体には傷は付いていない。目の周りの出血が止まれば、元通りに戻るさ。――それで、いったい何の話をしていたんだ? 珪素生物狩りか? ――そちらにいるご老人は、カオリ先輩の知り合いでいいんですよね」
ハヤトは壁から離れて、ゆっくりと老人へと近づいていく。うっすらと笑みを浮かべているが、老人に対して警戒をしているのは明らかだった。適度な間合いを保ったところで歩みを止める。
「……少しは頭が冷えたようじゃな。秀才の少年。カオリの口から、たまに話題が出る。頭のいい後輩が委員にいると」
「あなたはカオリ先輩のおじいさまですか?」
「そうじゃ。カオリの両親は不幸な事件で逝ってしまってから、わしがカオリの育ての親となっている」
「――カオリ先輩のご両親も珪素生物に殺されたのですか?」
ハヤトは躊躇いもなく核心を突くカードを切ってきた。そのカードの内容に唖然とするユージだったが、意外にも老人は素直に小さく首を縦に振ったのだ。
「まあそんなところじゃ。よくわかったな」
「なんとなくわかりますよ。同じように身内を殺された側としては」
一瞬だけハヤトの瞳に怒りの炎が沸き上がったように見えたが、すぐに彼は理性で押さえ込んだ。
「それで、何か用か?」
「俺にも珪素生物に対抗できる何かをいただけませんか?」
「――今の時点では無理じゃな。復讐で頭がいっぱいのお主には、どの武器も心は開いてくれないだろう」
ハヤトの表情が大きく歪んだ。口調を若干荒くしながら近づいてくる。
「カオリ先輩も復讐したいから、刀に手を付けたんじゃないんですか!?」
「――カオリも初めはどの武器も相手はしてくれなかった。だがあの子が復讐のみを考えるのをやめて、再び剣道と向き合い始めた結果として、刀が認めたのじゃ」
老人は眉をひそめているハヤトに対して、言い放った。
「どうしても今、珪素生物を倒したいのか?」
「――倒せば真実に辿り付けるかもしれない。早いに越したことはない」
「ならば――」
にやりと笑った老人の視線はユージへと向けられた。ハヤトもそれにつられて、振り向いてくる。そして老人は口を開くと、とんでもない提案をしたのだ。
やがて夜は更けてゆく――。