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公安警察と初対戦

 海賊放送の放映予告当日、タルトはようやく公安警察の通信技師と面会を果たした。


 ちなみにハッターは完全に忘れていた。今日まで指摘しなかったタルトの方は訓練でへとへとでそれどころではなかった。その結果、逆に署員の方から打診があったと言う訳だ。海賊放送捕縛作戦開始寸前に。


「初めまして、タルト・ジャーク士官候補生です」

「キャナリーです」

「ジョンです。通信技師をしています」


 引合された男女2人組を見ながら、タルトは内心で女性職員とお近づきになるチャンスだと喜んでいた。言葉だけ見れば軟派男か親父の様だが、彼女にそう言った趣味はない。今のところ。


 キャナリーは少し目つきのキツイ、ついでに気も強そうな雰囲気の女性だ。

 対してジョンは、どこか気弱そうな印象を受ける。が、直後、そんなタルトの第一印象は覆される事になる。


「首都で最新技術を学んでいたと聞きました。是非、ご教授下さい!」

「えっと、あの」

「ずっと独学だったんで、ジャークさんが来てくれて、ホント嬉しいです」


 自分よりもそれなりに年上に見える相手の言葉に、かなり本気の尊敬の色を見たタルトは、一歩後ずさって顔を引きつらせる。

 同級生にもこういった、普段は口が図が少ないにも関わらず、技術的な事に関してはやたら饒舌な男は何人かいた。しかし彼らは、自分より技術を持つ女は敵視するばかりで、タルトはこう言った場合の対応には慣れていない。


「ジョン、黙りなさい。怖がらせてどうするの」

「う、申し訳ない」


 不機嫌層なキャナリーの言葉で名残惜しそうにしていたジョンだが、タルトの引きつった笑顔を見て申し訳なさそうに一歩下がる。

 タルトはその反応に少しだけ申し訳なさを感じながらも、初の女性署員とのコンタクトに失敗する訳にはいかないと、真面目な顔で姿勢を正す。


「えーっと、サウスの街には来たばかりで、ご迷惑をおかけすると思いますが、色々と教えて下さると嬉しいです。

 あと、私の方が年下だと思いますので、言葉遣いもそれ相応で構いませんので」


 それが上から目線な言葉だったと気付き、タルトは慌てる。

 しかし一度口にした言葉は戻らず、立場的には彼女の方が上である事も事実である。


 最初から失敗をしてしまったと反省しながらも、タルトの目はついジョンの持ってきた機材へと向かってしまう。

 ずっと気になっており、タルトはつい、先の言葉に訂正や補足を入れるよりも先に、それに言及してしまう。


「その、ジョンさんの持ってきて下さった」

「うん。どうぞどうぞ」


 嬉しそうに運び込んだ機材の横から退いたジョンと入れ替わるようにその場所へと立ったタルトは、旧式とまで言わずとも、型落ちレベルの機材を前に目を輝かせる。改造のし甲斐がありそうだ、と。

 機材の前に立ってしまったタルトが止まる事はなく、矢継ぎ早にジョンに質問を浴びせ、先程引いていたのは何だったのかと言うほどの勢いでああでもないこうでもないと話しかけ始める。


 そうなると通信士であり、技術的な部分には詳しくないキャナリーは手持無沙汰となる。

 タルトがそれに気付いた時には、彼女の不機嫌そうなオーラは5割増しになっており、しかし気付いた理由は出動時間を知らせるアラームであった為、言い繕う暇もなく通信機器を車両に積み込み始める事となる。


 作業自体は男性であるジョンがメインではあったが、タルトも手伝いはした。下手をすれば通信技師であるジョンよりも、一応なりとも軍式の訓練を受けているタルトの方が色々と上なのだが、ジョンが張り切っている事もあり、タルトはでしゃばらない様に心がける。それがまたキャナリーの不機嫌に拍車をかけるとも知らず。


『ジャーク候補生、聞こえるか』

「はい、少尉」


 通信機から聞こえてくるのは、既に配置についているハッターの声だ。

 雨雲の影響で街はかなり前から夜闇に染まっており、何時海賊放送が開始してもおかしくない。その為、街中にはハッターが借り受けた公安警察の署員が巡回を開始している。


「ジョンさん、そちらはどうですか?」

「まだ通信の形跡は見つかりません」

「キャナリーさんの方は」

「それらしき人影の発見報告はありません」


 現在、ハッターの無茶ぶりによりタルトは臨時で公安警察から駆り出された海賊放送捕縛担当者たちの指揮を執る事になっていた。

 その為に2人も人材を与えられたのだと知ったのは、ついさっきだ。曰く「俺は前線で暴れるしか能が無いからな」


 海賊放送の捕縛方法のマニュアルなど士官学校の技師課程で教えているはずもなく、タルト当然拒否したが、抵抗空しく最終的にはならば少尉権限で命令だと言われてしまい、今に至る。


 仕方なくタルトは、ジョンに自分が担当するつもりだった海賊放送の放送用電波と通信用電波の捜索を任せ、自分はハッターと通信を繋いで状況を説明、作戦を提案・進言を行うと言う方針を打ち立てた。キャナリーは通信士の本業である各班長からの報告を任せ、どちらも何かあれば報告を貰う、と言う形式となっている。


「っ! 不明な電波を確認。暗号化されています」

「解除、出来ますか?」

「えっと、一応やってみます」


 尻すぼみの返答に、ジョンにその技術が無い事を理解したタルトは、「いえ、私がやります」と告げると詳細を確認して作業を引き継ぐと、自ら暗号解除に取り掛かる。

 数分後、暗号化を解除する事に成功すると、ジョンは口笛を吹いて驚きを表現してから、すごい技術だとはやし立てる。タルトは少しだけ赤面しながらも、まずは報告優先とそれには答えず通信を開く。


「少尉、報告があります」

『なんだ?』

「海賊放送がアンテナの設置を始めたようです」

『ほう』


 その瞬間、海賊放送の通信を傍受中のスピーカーから声が聞こえ始め、タルトはそれを聞き漏らさない様、一旦少尉との連絡を切る。


『聞こえてる?』


 ボイスチェンジャーをかませているのだろう、少し歪んだ声が車内に響く。直接雨音が入っていない事から、声の主は室内にいる可能性が高いと予想出来る。

 そんな風に考えているタルトはもちろん、放送開始を監視していたジョンも、他からの報告を聞いていたキャナリーも、その声に意識を集中している。


『ん、どったの?』


 少し間を開けてから聞こえてきたのは可愛らしい声だった。

 少女のモノと思われる声を聞き、前回分のラジオ放送を事前に確認していたタルトは、それにも関わらず驚きを感じていた。


 海賊放送で流れていた声は、可愛らしい声だった。今の返答の声よりも少し硬い雰囲気だったが、それは恐らく台本を読んでいたからだろうとタルトは予測する。

 そんな可愛らしい少女が、テロリストの一味だと言われても、正直なところタルトは実感がわいていなかった。


『予想通りに動き出した』

『え、ホントに? 凄いなぁ』

『無駄口を叩かない。それより、予定通り機材の設置を終えたら前と同じ北方面へ抜けるルートで街を脱出して』

『はいはーい、お任せあれ』


 通信はそこで途切れ、タルトは内容を反芻しながら先ほど切った通信を再開通する。同時に、キャナリーへと視線を送り、各班長への報告をお願いする事も忘れない。

 その視線の意味を正しく理解したキャナリーは、全班長への通信を開くと、指示待ちの指示を口にしてから、タルトとハッターの通信を待つ。


「海賊放送の通信を傍受したのですが、どうやら機材設置後は前回同様北へ逃げる様です」

『おぉ、ならばそちらに人員を回しておいてくれ。俺もすぐに向かう』


 ハッターの指示を受け、再び視線のみでキャナリーへと伝達を依頼したタルトは、次にジョンへと視線を向ける。するとジョンは言葉無く首を横に振り、まだ放送が開始して居なことを示す。


「電波の発信源を特定出来ればよかったのですが」

『ない物ねだりをしても仕方なかろう』


 今回の作戦指揮を任せると告げられた際、タルトは電波強度を測定できる機材の準備を進言していた。これにより、電波発信源を大まかに特定する事で敵目標の位置を探ろうと言う作戦だ。

 幸い、署員は街の各所に配置されているので、各班に機材を持たせればそれも可能だろうと言う説明に、ハッターはなるほどと納得し、公安警察に機材の準備を依頼した。結果、そんな物を複数配備している訳がない、と言う返答があったと言う訳だ。


「今日は月が出ていません。恐らく、機材設置の為に灯りを灯しているはずです」

『なるほど、探してみよう』


 タルトの、そう簡単に見つかるはずもないと思いながらの進言は、予想外にもすぐ効果を発揮する。


『ん、おぉ、目標を発見した。アンテナ設置中のようだな』

「え?」

『ハッター班、これより海賊放送の捕縛に向かう。念の為、包囲はしておけ。指揮は任せたぞジャーク候補生』

「って、え? ちょっと待って下さいよ!」


 鳴り響くタルトの悲鳴を無視して、ハッターはアンテナを設置する人影の元に急行して行く。

 タルトが通信機に向かって抗議の言葉を吐く事を諦めた頃、ジョンから妙に嬉しそうな声色で海賊放送の開始が告げられる。それによって隣に居るキャナリーがまた少し不機嫌になったのだが、場の誰もそれに気づかなかった。



 タルトが北方面の警備――特に前回目標をロストしたと言う用水路付近――を固める様に指示を出している間に、ハッターは建物の上で作業する少女を包囲すべく、自分が直接指揮している署員達に指示を出していた。


 建物の包囲を終えると、ハッターが工兵と呼ぶ特殊装備班が梯子をかけ、順次建物の上に登り始める。


「うわ、もう来た」

「はっはっは、今日こそ年貢の納め時だな!」


 昼と比べてかなり静かな夜の街の中、雨音で多少誤魔化されているとは言え、大男が梯子を上ってくれば気づかれるのは当然だ。

 しかもハッターは身を隠すつもりすらない。それは面倒だから、と言う訳ではなく、陽動と言う意味がある。


 何時も通りフード付きの黒コートで頭から足まで隠した少女は、前が見えるのか怪しいほどに目深にフードを被っている為、口元以外で表情を伺う事が出来ない。もっとも、少女はそれだけで十分過ぎるほど感情表現をするのだが。


「もー、少尉さんったら我慢が足りないんだからー」

「何時までも小娘ごときに好き勝手されてはたまらんからなぁ」


 そう言って軍刀を構えるハッターは、目標を追い詰める為にじりじりと距離を詰める。

 少女の方は最初こそ微笑みながらそれに合わせて距離を取っていたが、背後の物音と気配に気付くと舌うちし、覚悟を決めてハッターへと向かって駆ける。


「どいてどいてー」

「ふん、甘いわ」


 ハッターの右手側は大通りに面しており、飛び移れそうな建物があるのは左手側と、彼から見れば正面であり、少女の背後でもある二方向はハッターの指揮下にある署員達が梯子を上って封鎖の準備中だ。大通りには車両待機班が居るので、飛び下りる事も出来ない。かと言って放っておけば、少女はすぐにでも屋根の上で複数の署員に包囲される形となる。そうなれば、逃げ場はない。

 故に、1秒でも早くこの場から逃げ出す必要のある少女は、すぐさま邪魔者である自分の方へと突っ込んでくるだろうと言う彼の予想は正しかった。


「通さん!」

「女の子には優しくしなきゃダメだ、よ!」


 振り下ろされた軍刀をなんとか潜り抜けた少女は、あえてハッターの利き手側である右手方向を体を沈めて通過しようと試みる。

 しかしハッターがそれを許すはずもなく、手加減の一切ない蹴りがを少女に直撃する。


 体重の軽い少女が巨躯から放たれた一撃を受ければ、当然吹っ飛ぶ。そのまま梯子を上りきっていた少数の署員による包囲網の一角まで飛んでいく。


「む、軽い」

「えへ」


 ハッターが感じた違和感通り、少女にほとんどダメージは無い。

 それは直前に足を止め、逆方向へ踏み切ったせいであり、蹴り脚に乗って自ら後方へ身体を投げ出したからだ。向かう先は、梯子を上ったばかりの、青年署員。


「って、っつぅ」

「おにーさん、ありがとー」


 反射的に少女を受け止めた青年署員は、一瞬の出来事に状況を把握できずに混乱する。

 状況を把握しようと手の中に視線を落とせば、可愛らしい風に見える少女の、微笑んでいる口元が見える。


「で、ごめんね」

「捕えろ!」


 少女の可愛らしい声と甘い香りが混乱に拍車をかける寸前、ハッターの指示で青年署員は我に返る。

 所属も違う臨時指揮官とは言え、付き合いの長い彼の指示に、青年署員の体は反射的に命令を遂行し始める。その瞬間、いつの間にか少女が己の手首を掴んでいる事に気付いた青年署員は、今度は意識的に力を込める。

 そしてそれが、彼の失敗だった。


 少女は彼の両手首を掴んで押し返そうとするのではなく、体勢を崩して倒れる事も厭わず逆に引寄せた。

 これにより、そして既に体勢を立て直し、少女へと突進して来ているハッターは構えた軍刀を振るう事が出来なくなる。


 少女は半ば覆いかぶさられる事で、青年署員を盾代わりにしたのだ。


「そのまま抑え込め!」

「ざーんねん」


 こうして完全に引き倒されない様に堪える青年署員の下からするりと抜けだした少女は、包囲網が完成する前にその囲いを抜け出す事に成功する。

 とは言え、ここは屋根の上。すぐに地続きの逃げ場は無くなってしまうが、少女は気にすることなく突き進む。


「どけっ!」

「ひっ」


 自分の方へ倒れ込む青年署員を押しのけ、ハッターが再び突進を敢行する。

 しかし彼が屋根の端に到着するよりも早く、少女は屋根の端を踏み切って、夜の空へとその身を躍らせた。


「ちぃ」

「へっへーん。追いかけっこなら負けないよーだ」


 軽やかに隣の建物へと飛び移った少女は、にひ、とどこか楽しそうな笑みを浮かべながら大声で挑発する。

 直接対決ならば軍人であるハッターに分がある。正面から挑むのは勿論、背中を見せて逃げ出す事すら防がれるだろう。だが少女の言葉通り、距離を取ってからの追いかけっこでは身軽な少女に軍配が上がる。


 しかし少女は失態を犯した。逃走中の身でありながら立ち止まり、あまつさえ振り返って挑発まですると言う。


「ぬおおお」

「え、飛ぶの!?」


 突進の勢いそのままに屋根から屋根へと飛び移ったハッターは、お世辞にも軽やかとは言えないが、それでも無事に着地を成功させた。

 更なる失態――ハッターの姿を茫然と見つめていた――を犯した少女が慌てて逃げ出そうとするが、既に遅い。


「逃がさんと言った!」

「えー、そんなこと言ってないと思うんだけどなぁ?」


 背中に悪寒を感じながら、少女は相棒に怒られそうだとげんなりしている。

 逃亡を警戒してじりじりと間合いを詰めていたハッターは、突進のタイミングを計りながら手に構えた軍刀をさりげなく握り直す。少女がその隙を逃さず逃亡を開始したように見えたハッターは、にやりと笑う。予想通りの行動だ、と。


「喰らえ!」

「うわ、眼が本気だしっ」


 ハッターが繰り出した軍刀の一撃を、少女が紙一重で回避する。

 あたれば行動不能確実な威力を有していても、あたらなければ意味がない。


 少女が回避できた理由は、その身のこなしと、何よりハッターと同じくそれを予想していたからだ。逃げる素振りを見せれば、その背中を狙って来るだろうと。無防備に空中へ飛び出せば、真後ろから追撃されるのは必至だ。そうならない為には、先程の様に何か妨害をする必要がある。


「追い詰めたぞ、海賊放送」

「えー、人気者はこれだから困っちゃうなぁ」

「逃げれば切る。だが、大人しく捕まると言うのなら」

「やー」


 べー、っと舌をつき出す少女に、ハッターが口の端を引くつかせる。

 それは安い挑発だ。ただし、今回のそれは直前のものと違って意味を持って為されたモノだ。


「ならば切る!」

「鬼さんこちら」


 楽しそうに手を叩く少女は、背後ではなく右手の建物へと飛び移る為に走り出す。

 ハッターはそれを、背中を見せて逃げるよりはこちらの攻撃を回避しやすいと判断したのだろうと考え、その甘い考え毎叩き潰してやろうと、同じく走り出す。


 一歩目、二歩目と速度を上げ、何歩目かで先ほど少女が通過した位置と交差した瞬間、地面が消失する。


「ちゃんと弁償しなきゃダメだよー」


 にひひ、と楽しそうに笑う少女は、既に隣の建物の上。

 動けないハッターがその表情を憎らしげに睨んでいると、少女は笑みを悪戯っぽいモノにシフトさせ、大きく手を振ると彼に背中を向ける。


 身軽な少女はそのまま屋根から屋根へと飛びうつり、最終的に地上からは追えない場所へ誘導された署員達は、あっさりと彼女の姿見失ってしまう。




『目標に逃げられた』

「みたいですね」


 そんな通信を受け、直後に通信自体を切断されたタルトに、ふと今更な疑問が幾つか思い浮かぶ。

 それをまだ作戦遂行中の、ついでに言えば敗北したての上司に、しかも通信を繋ぎ直してまで尋ねるのは気が引けたタルトは、既に海賊放送が開始している為、一番暇そうなジョンにそれを問うてみる事にした。


「すいません、ジョンさん」

「なんでしょう」

「えぇっと、何で警察の人は、屋根から屋根へ飛ぶ相手を地上から追うのでしょうか」


 取り方によっては、何で相手は出来るのに、お前らは出来ないんだと言う意味にもなるが、ジョンは気にもしなかったようだ。


「あぁ、それは、この街の建物が耐えきれないからですよ」

「耐えきれない、ですか?」


 ジョンの説明によれば、この街には戦後の復興で仮設した住宅が点在しており、それらは強度的にとても脆いらしい。その結果、体重の軽い少女が通過できる場所であっても、大の男が飛び乗れば穴が開いてしまう。集団でなら、なおさらだ。ついでに言えば、追ったところで身軽さでは勝てないので、リスクばかり高くて意味が無いと判断した、との事だった。


 最後に、ナイショだけどと前置きして今日のハッターがそれを利用した罠に嵌った事と、実はその罠にかかったのは初めてではないと聞かされたのだが、タルトはどう反応していいか判らず、苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「なるほど。それと、もう1ついいですか?」

「ん、何?」

「放送を止めるだけなら、妨害電波を出すか、アンテナを撤去してしまえばいいのでは?」


 情報分析の名目で前回放送を聞いた時、タルトはとても楽しげな内容だと感じていた。故に、もしや警察内部に放送を聞き続けたいが為に手を抜いている者がいるのでは、と疑ったのだ。

 ジョンはそれに気付きながらも、今回も気にした風でもなく、ただ事実だけを返答する。


「妨害電波は、電波を根こそぎ通さなくなるから無線連絡による連携が出来なくなります。それに、気づかれた時点で逃げられますので、捕縛が難しくなるんです。

 アンテナも似たような理由です。1つ撤去しても予備を準備されている事も多いですし、全て撤去したとしてもその瞬間に逃げられます。そちらに人員を割いて居れば、猶更です。逆に、放送中は電波の範囲内に居る訳ですから」


 タルトはジョンの言葉を受け、自分の浅慮を恥じ、頬を染める。


 しかし、実はこの戦略は穴だらけの代物だ。

 まず、相手の携帯している機材の電波到達距離が不明だと言う点。これが判らなければ、網を張るべき範囲が不明瞭になり、無駄な人員が発生してしまう。しかも、相手は放送を諦めさえすれば範囲外へ逃げ出す事も出来るのだ。


『放送終了。予定コースで離脱して』

『了解。丁度北に向かってるから、そのまま突っ切るねー』


 通信傍受中のスピーカーからそんな声が聞こえ、タルトは警戒を強める様指示を出してほしいとキャナリーへとその旨を告げると、ハッターへ通信を送る。


「少尉、目標が北に向かいました」


 返事は無かったが、タルトはあえて確認や二度目の報告はしなかった。


 公安警察の面々が警戒を続ける事1時間、タルトの予想に反して海賊放送は一向に姿を見せない。

 そんな停滞した状況に動きがあったのは、放送の終わった海賊放送の電波を未だに監視していたジョンの報告によるものだった。


「海賊放送の放送電波を再度補足しました」

「え?」

「流します」


『公安警察の皆様、お疲れ様でした。既に逃げ切らせて貰いましたので、街中を探しても無駄ですよ。

 そうそう、1つアドバイスを。通信が傍受が出来たと言う事は、逆もあり得ると気付くべきですよ』


 ボイスチェンジャーにより歪んだ音声は、同じ内容を3度繰り返すと途切れる。

 静寂が訪れた指揮車兼通信車で、タルトは己の未熟と慢心に、歯噛みする。首都で学んだ最新技術以上のものが、南の辺境に存在する訳がないと、無意識にそう考えていたのだ。


 指摘された内容はもっともだ。更に言えば、恐らく時限式の機材まで使ったのだろうが、こんなメッセージを残す必要性は、海賊放送側にはまったくない。あるとすれば、近隣住民への捜査を強硬しないようにと言う牽制なのだろう、とタルトは予想する。

 事実、寸前までのタルトは目標はどこかに潜んでいるか、誰かに匿われているのだと予想していた。その可能性は今も考えているが、わざわざ警戒する場所を誘導させておいた上で危険な場所に残る必要性は、まったくない。仮に残っていたとしても、このメッセージが流れる頃には既に証拠を含めて何もかもを隠ぺいし終わった後である事は明白だ。


「少尉、どうやら逃げられたようです」

『そのようだな』


 ハッターも薄々気づいていたのか、あっさりと認めると借り受けた人員に解散と、交代で街での巡回を命じて撤収を開始する。

 こうしてタルトの海賊放送初対決は、相手を侮り、大敗を喫すると言う結果に終わった。

第二回放送中の出来事でした。


今後、ジャーク候補生の活躍の場は来るのでしょうか。


そしてそれ以上にいいとこなしの少尉さんの運命や如何に。

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