最終話
葬式が終わった後、私はあの日と同じ姿で
男が現れるのを待った。
さすがにあの時来ていた服はないけれど、
上げていた髪を二つにしばって下ろし、
コンタクトをはずしてメガネをかけた。
それでも、現れた男は気がつかなかった。
「今から数十年前のこと。
あるところに、普通の女子中学生が居ました」
なかなか思い出さない男に苛立ちを覚え、
まるで昔話を話すかのように私は話し始めた。
「彼女は部活帰りの帰宅途中。
家まであと少しというところまで来ていました」
さあ、しっかりと聞きなさい。
あなたが実の娘にしたことを。
そして、自分のしたことをよく考えるのよ。
「その時、彼女の背後から白い一台の車が・・・。
その車から顔を出した男は、こう言いました」
その瞬間、男の顔色はみるみる変わっていった。
そして男は、その場に急いで土下座をした。
「す、すまなかった・・・」
今更そんな事をしたって、許すわけがない。
でも、今更何を言ったことで
起きてしまった事、心の傷跡は消えない。
だから、せめて終止符をうつんだ。
この、長い年月私を苦しめてきた記憶と、
心の深い深い傷跡に。
これで、終わりだよ。
「私に、父親は居ません。
私の父親は、私が2歳のときに死にました。
そして、私と貴方は何の関係もありません。
ただの通りすがった男と女なんです。
・・・さようなら。
二度と顔を合わせないことを、心から願います」
ゆっくりと、自分にも言い聞かせるように言い、
私は自分の家へと帰っていった。
さようなら、My father・・・。